第17話 堕天使ルシファーは悪魔の巣へと向かう

 詩織は熊本の市長官舎に戻っていた。

 健人と再会し、全ての真実、そして自分の余命を伝え、健人に最期の願いを「抱いて欲しい」と求めたが、健人は何も言わず立ち去ってしまった。

 詩織はこう思った。

 「もう私には何も残らない。早く今世を終わりたい。せめて、来世は健ちゃんにしっかりと抱きしめて欲しい。誰にも邪魔されずしっかりと…」と


 そして、詩織は世捨て人のように希望をなくした虚な表情を浮かべ、「幻想でも構わない。健ちゃんに抱かれたい。」と思うのであった。


 そう、また、詩織は英一にヘ○インセックスを求め出した。


 英一との夜の営みは、最早、子作りを目的とするものではなく、「幻覚」の向こう側に映し出される健人を求めるため詩織は英一にこう懇願するのであった。


「英一さん、ヘ○イン打って!早く打って!」と


 英一が詩織に問うた。


 「お前、良いのか?胎児に影響を起こすんじゃないのか?」と


 詩織はそんな英一の言葉は耳に入らぬよう、尻を振りながら叫び続けた。


 「赤ちゃんより、もっと気持ち良くなりたいの!英一さん、早く打って!」と


 英一はニヤニヤしながらこう思った。


 「俺もその淫乱な詩織を見たかったんだよ。選挙でクタクタな時に子作りなんかのためにセックスなどしてる暇なんかあるもんか!

 あの狂ったように悶えまくる詩織の姿が俺の疲れを癒やしてくれる。」と


 まさに英一は悪魔であった。

 自身の変質的な性欲が満たされればそれで良いのである。

 こんな男が『時代の寵児』として政界に進出しようとしていた。あの「アドルフ・ヒトラー」のように


 英一はヘ○インを注入した注射器を持ち、ベットに上がると、自身の左手に半分注入し、残りを陰部が丸見えになるほど高く突き上げている詩織の尻に注入した。


 そして、暫し、ヘ○インの浸透に酔いしれた後、詩織の既に潤んだ膣に陰茎を挿入し、徐に腰を動かし出した。

 それはゆっくりとゆっくりと、恰もヘ○インが身体全身を駆け巡り出すのを待つかのように


 詩織にはその英一のゆっくりとしたピストンが逆に焦らされる多幸感を感じてしまい、こう叫ぶのであった。


 「早く、早く、動いてぇ~、お願い~、イカせぇてぇ~、お願い~」と


 詩織はそう叫びながら、自ら腰を前後に動かし逝こうとするが、英一に逝く寸前で腰を捕まれ動きを止められ、焦らされるのであった。


 詩織は四つん這いのまま、英一の方を振り向き、こう懇願するのであった。


 「お願い~、逝かせてぇ~、お願い~、逝きたい~、お願い~」と


 そして、英一の腕が腰から離れると、嬉しそうに快感を貪りながら、


 「そぅ、そぅ、そうなの~、あぅ、あぅ、気持ちぃ~」とヨガリ、


 自らどんどん英一の腰に尻をぶつけるように腰を前後に激しく動かし、散々、焦らされた挙句、途轍もない快感を味合うのであった。


 「あっ!あっ!いぎそぅー、いぎそうー、いぐぅ、いぐぅ、イクゥ~~ン」と悪魔の絶頂を迎え、ビクンビクンと身体全体を痙攣させ、その痙攣の余波は、英一が捩じ込んだ詩織の桃尻をビクビクと震わせるのであった。


 そして、2、3分程、痙攣しながら、その快感に浸り続けた詩織は、まるで強烈なボディブローを喰らって悶絶しながら「くの字」にマットに沈むボクサーのように、尻だけ突き出したまま、どっと顔をベットに沈め込み、朦朧とした表情を浮かべながら失神していくのであった。

 そう、幻覚の向こう側で健人に抱かれるために



 一方、健人は愛媛に戻り、陽介と一緒に正栄丸に乗っていた。

 今日の正栄丸のスピーカーからは何故か演歌が流れていた。


 今日は沖合は波が高いので、伊予港から30分程の内海で真鯛釣りをしていた。


 真鯛釣りは、仕掛けが、ハリス6広(シーガー糸4号・10m)に真鯛用の5号針、それに針先から1m程に枝針(ハリス20cm)の2本針の仕掛けで、ハリスが6広と長いことから、ハリスが絡まないよう90cmのゴム天秤に結合し、天秤の上方部分に巻籠(ボイルのエビ)と錘50号を付け、潮の流れに任せて、200m程流して釣る。

 そして、200m先でもアタリが分かるように1m程の縦ウキを付け、真鯛が餌を食い底に潜ると、その縦ウキが海面から「スポッ」と消し込む。

 その瞬間に竿をしゃくり、針合わせをする釣り方であった。


 そして、健人の1番好きな釣りでもあった。


 船は潮の流れに合わせ、仕掛けがポイントに着くよう向きを変えながら停留する必要があり、今日は地元で「『学校裏』※岩壁の向こう側に小学校があるため」と呼ばれる磯がポイントであった。


 今日の健人はなかなか竿を出そうとしなかった。

 ぼぉーと煙草ばかり吸い海を眺めていた。

 陽介はBGMもいつもの「A Whiter Shade Of Pale」をかけないでいる健人が気にはなっていた。

 健人はやっと立ち上がると気怠そうに竿と仕掛けを持ち、持ち場に行き、仕掛けを投入した。


 この辺りの潮は「2枚潮」と呼ばれており、上潮と下潮で流れが違ってくる。

 そのため、潮の流れを見極めながら、船の方向を変えなくてはならないため、舵を握る陽介は忙しかった。


 客の縦ウキが70mぐらい流れると、いきなり、ウキが海面から消えた、


 陽介はこのポイントで間違いなかったと一安心した。

 客が釣り上げた真鯛は60cm、2Kgぐらいのまあまあの型であった。


 アタリがあった深さは20広(40m)であったので、陽介は他の客にもウキ止めをそれに合わせるよう指示を出した。


 他の客にもアタリが出始め、良型の真鯛が上がり出した。


 健人にはまだアタリがなかった。健人は依然、竿出しはしたものの、ぼぉーとウキを眺めているだけであった。


 その時、健人のウキが消し込んだ。陽介が「あっ!健ちゃん、ウキが消えたぞ!」と叫んだが健人はぼぉーとしたままであったので、陽介が再度、「健ちゃん、魚が来てるって!」と叫ぶと、健人はやっとウキが消し込んだことに気付き、竿を握ったが、既に時遅し、真鯛は根に潜り込み、引き上げることはできなかった。

 陽介がこんな健人を見るのは初めてであった。


 その夜の打上げの飲み会で陽介は健人に聞いてみた。


 「健ちゃん、どうしたんか?小倉でなんかあったんか?」と


 すると健人は重い口を開きながら小倉の喫茶店で詩織と話した内容を陽介に語った。


 陽介は思った。


 「健ちゃんは、今、心ここに在らずや!健ちゃんの好きにさせるのが良い。」と


 そして、陽介は健人に聞いてみた。


 「健ちゃん、何か俺にできることがあれば、なんでも言ってみぃーや」と


 健人は徐に陽介の顔見てこう言った。


 「陽ちゃん、悪いがちょっとの間、福江に行っても良いか?必ず帰ってくるけん。」と


 陽介は思った。


 「健ちゃんを福江に行かせたら、何か大きな事、遣らかす。

 じゃが、今の健ちゃんは生きた屍や!

 健ちゃんの好きにさせるが良い」と


 そして、陽介は健人にこう言った。


 「必ず戻ってくるんやったら、行って来いや。」と


 健人は何回も陽介に頭を下げ、必ず1年の内に戻るからと約束した。


 陽介は更に健人にこう問うた。


 「健ちゃん、福江で仕事の当てあるんかい?

 漁師するんじゃったら、俺が福江の漁組(漁業組合)に口添えしちゃるけん!」と


 健人は陽介に甘えることにした。陽介は福江の船が決まったらメールをするからと言ってくれた。


 次の日、昼前、健人は竿ケースだけを担ぎ、母親に暫く長崎県の福江で漁業の仕事をしてくるからと言い、車に乗った。


 健人は詩織の最期の叫び、「あんな奴らの墓には入りたくない!」と言った声が脳裏の底深くに染み込んでいた。


 健人は思っていた。


 「御曹子のボンボンが男女群島で、ましてや市長が1人で磯釣りなんぞするはずがない。詩織に打ち込んだヘ○インを手に入れるため行っているに間違いないと!」


 健人は自分はどうなっても良い、奴を殺すためならどうなっても良いと考え至っていた。


 正に堕天使ルシファーが魔王サタンの首を取りに向かうかのように!


 車のトランクに入れた竿ケースの中は、竿ではなく、祖父の形見の散弾銃が入っていた。

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