12話 彼と紫苑の指導 後編

「『破界の虹レインボー・ラスト』!―――いや、違う。」


俺は自身の切り札を模倣されたと考えたが、細部が違うことに気づく。


「これは君の『破界の虹』を簡易的に再現したものだ。

上級魔術を前提としない分威力は五分の一といった所かな。」


 先生は簡単なことのように話すが、上級魔術の発動を『破界の虹』の条件にしたのは、威力を高めるのも理由だが、五属性の融合を安定させるためでもあるのだ。

過去に先生のやり方を試したことはあるが、安定して発動できなかっため、

今の方法を取っているのだ。


「これも模倣の恩恵だよ。この力は一度でも発動できたことがあるなら模倣することができる。

この『旧破界の虹レインボー・ラスト』とも呼ぶべきこの魔術の発動を成功したこと自体はあった。

ならばそれを再現することも、この力は可能にするのさ。」


先生の言葉は俺を安心させると同時に『ギフト』の恐ろしさを感じさせた。

先生の力は決闘には役には立ちにくいが、先生が例に挙げたような。強力なギフトを

持っている魔術師も存在するのだ。そう珠視炎華のように。

 

「俺の虹を使えた理由は分かりました。

でもなんで『破界の虹』を模倣したんですか。それも前の方法で。」


「それを想像し、自分の新たな姿を思い描くのが君の課題さ。」


先生はそれだけ言って構えを取る。


「変則的な形になるが、私と橘誠人の指導決闘を行う。」


先生はその言葉と同時に俺に右手をぶつけにくる。

『旧破界の虹』の威力は低いが、だとしても一度当たればその時点で

お陀仏である。


「くっ!」


俺はすぐに回避すると、魔術で反撃する。


「『爛爛蝶エフェクト・フライ』」


輝く光の蝶を何十匹も生み出すと、それが目にも止まらぬ速さで先生を襲う。

しかしそれも先生が虹色の右手で一度はらっただけで消えていく。

いや、魔術そのものが崩されてしまったのだ。


「せっかくだ。この『破界の虹』の良い点と悪い点でも話していこうか。」


先生はそう言いながら、俺に右手をぶつけにくる。

今の俺には『旧破界の虹』に対抗できる魔術はほとんどなく、先生の

話を聞きながら避け続け、反撃のチャンスを見つけるしかなかった。


「まず良い点だが、自身の少ない魔力で魔術師に勝つためには、

これ以上の正解は無いと言える。

五つの属性を融合させ、少ない魔力で爆発的な力を生み出す。

しかも一度発動すれば、右手に残り続ける。

君に足りなかった決定力を高めるにはこれ以上のものはないだろう。」


「それと五属性の上級魔術の発動を条件にすることで、威力と安定性の上昇させているのも素晴らしい。

発動までにタイムラグは発生するが、多くの魔術を習得している君なら、

相手の魔術に五属性の魔術で対応していく事は難しいことではなく、メリットの方が大きい。」


「次に悪い点は、相手に攻撃を与える方法が右手をぶつけることだけだという事だ。実際、今の君のように避けられてしまえば、この魔術はその力を発揮できない。

これは魔術師がプライドが高いのが幸いだったな。君の『破界の虹』に対して、避けるのではなく自身の魔術によって破ろうとするものがばかりだった。

そうなれば君の独壇場だ。この魔術に生半可な魔術は通用しないからね。」


先生の話は俺にとっては当たり前の話でしかなかった。その利点も弱点も踏まえてこの『破界の虹』を完成させ、魔術師への切り札にしたのだから。


「話が長すぎだぜ、先生!」


俺はその間に完成させた魔術によって先生に反撃する。

俺は先生に対して右手をふるう、それは五属性を纏わせた虹色の光。

先生はそれに気づくと、すぐに右手で受ける。


次の瞬間、ドゴォン!!という轟音と共に二つの虹がぶつかり合い、周囲に衝撃波がまき散らされる。

俺の攻撃は受け止められたが、先生の虹を消すことには成功した・


「まさか、この短時間に『旧破界の虹』を発動させるなんてね。」


「『破界の虹』についてこっちも話してやるよ。

強力な魔術を受けると五属性のバランスが乱れやすくなり、それをうまく制御できないとすぐに『破界の虹』は止まっちまうのさ。」


俺の虹は消えていない。そのまま押し切ろうと考えていると、

先生の右手がまた虹色に輝き始める。


「だが、私は何度でも虹を発動できる。私の魔力量なら何度でもだ。」


「なら、今度は直接体にぶつけてやるよ。」


俺は先生の右手を無視してそれ以外の場所に攻撃をぶつけようとする。


「それも、読めている。」


先生は俺の頭を狙った一撃に右手をまたぶつける。

二度目の衝突に俺の『旧破界の虹』も消えてしまう。


「ならもう一度だ!」


俺はもう一度『旧破界の虹』を発動させる。

昔の俺なら安定しなかったこの魔術だが、今なら分かる。

何度も『破界の虹』を使ってきたからか、『旧破界の虹』を俺は問題なく使えるということに。


「次はこちらの番だ。」


さっきのお返しかのように、先生も俺の右手以外を狙ってくる。

しかし、先生は魔術を模倣できても、身体能力は模倣できていない。

俺は先生の動きを読み、カウンターを仕掛ける。

だが、先生はそれを読んでいたかのように動きを変える。

俺はそれに対応することに集中することになり、結果『旧破界の虹』のぶつかり合いに終わる。


「接近戦では私は君に劣る。しかし、相手の動きを読む点では

私の『ギフト』は有効に働くのさ。」


「可能性を見抜く目・・・」


俺はその力により俺がどう動こうとしているかを先生は分かっているのだと気付く。


「さて、ここからはどちらが先に当てるかの我慢比べだな。」


先生はそう言って構えを取る。

俺もまた構えを取り、覚悟を決める。


―――どれだけ時間が経ったのか、俺と先生の『旧破界の虹』のぶつけ合いは何度も繰り返された。

何度か俺は虹を発動し直し、すでに魔力は限界だった。

先生もぶつけるたびに発動し直していたが魔力はまだ余裕が残っているだろう。

だからこそ次の衝突で決めなければならない。


「これで、終わりだ!!」


「私もそろそろ終わりにしようと思っていたところだよ。」


先生の右腕がまた虹色に輝くと、俺の攻撃を待つ態勢に入る。

俺は右手の『旧破界の虹』を何度もフェイントをかけた後、先生の顔にぶつける。

しかし、そのすべてを読んでいる先生は右手をそこに重ねようとする。

今までと同様に先生は俺の動きを完璧に読んでいる。

それを読ませないようにするのは不可能であった。だからこそ、それ以外の方法が必要だった。


「はぁああああああ!!!」


俺は先生の右手とぶつかる直前、右手の軌道を無理やり下にずらす。


「何!?」


先生は急な動きの変化についていけず、自身の胸に俺の攻撃が直撃する。

そのまま先生は吹き飛ばされていく。

そして俺は魔力を使い切り倒れてしまう。


成功だった。先生が俺の攻撃を読めたとしても、それに対応できない速度で軌道を

変えれば、先生はついていけない。

その軌道の変化を生み出したのは身体強化だった。これまでの身体強化だけでなく

五属性を融合させた魔力を用いた身体強化によって動きをさらに速くしたのだ。


急ごしらえのものであったためか、俺の右腕は折れて使い物にならなくなったが、

それでも先生を倒すことができたのだか―――


「まさか、土壇場でこんな可能性を見せるなんてね。」


先生はぼろぼろの姿であったがまだ立っていた。

『旧破界の虹』では威力が低かったのか、先生を倒すには至らなかったようだ。

そして、先生は動けない俺に話しかける。


「君に対してのヒントはすべて出し終えた。そして君は私に可能性を

見せてくれた。だからこれは君へのオマケだ。」


そう言うと、先生はまた右手を虹を宿す。だがこれまでの物とは違う。

『破界の虹』、いやそれ以上の力が右手に―――。


「橘。お前は万能属性のすべてを使いこなせてはいない。」


「つまり、君はまだまだ強くなれる。」


先生はそう言って笑った。

その言葉に俺はまだまだ強くなれることを再認識すると、意識が遠のくのを感じた。

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特例魔術師のリベンジ~卑護者で魔術師になった俺が唯一負けたあいつに絶対勝ってやる~ メガネザル @naitomea2205

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