11 田中は生存中

 

 



 ネットを使ったところで私たちの日常が凄く変わったわけではない。ただTwitterをひらけば開くと外の世界の情報が入ってくるようにはなったが、だからといって急に変化が訪れる訳がないだろう。


 それでも良い情報はある。

 どうやらこの街の外ではありきたりの日常が戻りつつあるらしいのだ。

 流石に渡瀬さん事件から四ヶ月は経過しているし、そりゃあどうにかしてゾンビを外に漏らさないように出来たのだろう。

 私からすれば家に帰れないことが確定してしてしまったが、外に生きる人間にとっては最重要事項だったに違いない。


 それにこのゾンビ化が起こっているのはここだけでけではなく、日本では四都市で海外からでもちょこちょこ起きているとの事。未だ発生元はわかっていないが、感染方法は明確になってきている。


 ゾンビになってしまうのは噛まれた事が原因として一番多いらしいが、ゾンビ化した者の体液を摂取してもなる。唾液は勿論、血液涙には至るまで全ての体液がその対象だ。ちょっとでも摂取したら最後、時間はかかるが確実に発症はするらしい。残念だったね。


「──食料、キタ」

「助かルな」


 騒音が聞こえ出して上を見れば、ヘリが頭上を飛んでいる。有難いことに国は私たちを生存者と認めてくれたそうだ。

 時折ビルの屋上に食料やら武器を置いてさっさと帰ってしまうが、肉とニンニクが切れると発狂するので有難い。

 そのかわりと言ってはなんだが、私と鈴木はどうにもならないゾンビを始末する役目を担っているのだ。当たり前のことだからゾンビは人を襲い、仲間を増やす。普通に人間を投入してゾンビを増やすよりは効率の良い減らし方でもある。

 最初こそゾンビの頭を撃つ事に抵抗があったが、感情がほぼ無くなってる為辛くもなんともなかったのが幸いした。


 勿論この街で生存者の探索をする事も忘れていない。望みは少ないかもしれないが、もしかしたら未だどこかでゾンビ達に見つからないように生きている人がいてもおかしくない。

 彼らも以前の私と同じように外の情報を得る術なく、そこに赴き大音量でラジオを流す事も私達の役割なのだ。

 ラジオのせいでゾンビが集まってくるが、その音声が生存者に届けば儲けもん。そしてゾンビの気をひいているうちに逃げてても欲しい。街の中のゾンビがなかなか入れなそうな場所を選んでは食べ物を設置し、ついでにイヤホン込みの小型ラジオも置いておく。

 ほとんどの場合食べ物が無駄になるが、時たまラジオを消えているところもあるしもしかしたら本当に生存者いるのかもしれない。


「すズチャん、いくヨ」

「──ハイ、今日モ頑張リましョう」


 きっと、私たちがしていることなんてそれほど世界の役に立ってはいないのだろう。

 だがこうして意識を保ち生きされている以上、何かをせずにいられない。

 グルリと周りの風景を動画に撮り、今日もまた元気ですと世界に存在をアピールする。


 そういえば今この時でさえ私の心臓はきちんと動いている。それは勿論鈴木も同じで、もっといえばそこら辺に蠢いているゾンビ達の大半もそうなのだ。

 ゾンビだから死んでいると思いきや、死んでいるのは喰われて肉塊になっている者のみ。つまり頭か心臓を打ち抜けばゾンビとしても機能停止。ゾンビ化してるとしても最終的に生物として死ぬなんて皮肉なものだ。



 はてされ、そんな事はどうであれ私は私の仕事をこなさなければ。

 生きているからこそ、理性を持ち続けているからこそ偽善者ぶって生きていかなければ。


 じゃなきゃ半ゾンビなんてすぐに始末されちゃうしね。


「鈴木さン。お腹減っタ」



 どうせなら、人間らしく終わりたいものだ。

 そう願わずにいられない。







 

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