10 田中とネット

 

 



 必死に拠点まで帰ってきた私はスマホと充電器を入手した事と、Twitterに現状を上げてみたと鈴木に報告した。

 鈴木は両親に連絡しなかった事に少し驚いたようだが、半ゾンビの状態で希望を与えるのは良くないいう私の考えに賛同して何も言うことはなかった。


 少しの沈黙の後Twitterを開き話し合いをしようとするも、なかなかアプリが開かない。通信障害かと二人で顔を見合わせて数秒後、目の飛び込んできたのは今まで見たこともない数字であったのである。


「コれが、俗ニ言う、バズる」

「ダと思いマす」


 リプライに偏りぎりの通知だがそれでも多くの人間がコレを見たに違いない。

 私が危惧していたように嘘だ合成だと嘲笑っている人間の方が多かったが、中にはゾンビでも意識を保っていられるのかと疑問視する声も上がっていた。


 私は今度は鈴木の腕を入れて写真を撮り、拠点なうとツイートする。そして少しずつ現状を伝えていった。


 街にいる人の殆どがゾンビ化している事。

 交通機関はもちん停止いている事。

 電気やガスはつながっている事。

 ただ音に反応するので生存者はテレビやラジオを使えていないだろうという事。

 そして自分達二人は意識を保っている半ゾンビであり、人間を前にした理性を失うという事。


 そして一番最後に私達は"人を喰ったこともある"と批判覚悟で伝えた。

 その後の反応は思った通りであった。


 なぜ理性があるのに人を食うんだとか、助けようと思はないのだとか。化け物だとか。

 それが本当ならば生きてる価値ない、死ね。とも悲惨な言葉を多数投げられた。

 だけれども私たちにはその言葉に反応する感情が薄まっている。故に傷付くことはなかった。

 逆にそうだろうなと納得したのも事実だ。


 鈴木は私に変わり信用してもらわなくていいと蔑んでもらって構わないとツイートし、そして意識保ったままゾンビ化した二人の共通点も伝えていく。

 私はそこにゾンビ化した人間にはニンニクが効かないとも付け加えた。

 しかしリプは荒れるばかりでどうにもならない。


「──一旦、止メよウ」

「……ごめんナサイ」


 逆に世間が荒れてしまったとそれなりにショックを受けていると、鈴木はただただ首を横に振る。

 私とは違いそう簡単に信じてもらえるとは思っていなかったようだ。


「今は信ジテもらエなイが、繰り返セばなんトカなるカモシれなイ。気長ニいこウ」


 頬をピクピクとしてぎごちなく笑う鈴木に励まされ、私は手でもいなかったであろう涙を拭うふりをする。

 そして街へ繰り出して今度は動画を撮り始めた。


 きちんと稼働している信号があるのに自動車は動くことはなく、人はゆっくりと何かを探すように練り歩く。どこかでカラスが鳴けばそこへ向かい走り出すゾンビに、店内で何かを食い漁るゾンビ。

 なるべく遺体は移さないように撮影したが、体の一部は打ってしまう。

 歯を立てられる度に非常にも手足は揺れ、既に命は尽きていると知らしめた。

 きっとこの動画を上げたところでボロクソ言われのだろうなと分かっていても、現状を伝えずにはいられない。


「──こレが、今ノ現状でス。私は何モデキない。だカら、生きテル皆が何かヲ変えテくださイ」


 私たちにはどうにも出来ない事だからこそ、生きてる人間の手がいる。

 もしここで生きてる人間がいたとしたら、彼らを救えるのはコレを見ている人間だけ。


「──どウカ、生存者を助ケてくだサイ」


 なんて、偽善者ぶって言っておく。



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