フェイスマン Sinner Of Sendai

習合異式

0章 顔の無い男

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「お前の醜い顔が、お前の最後に見るものだ」


 友人たちのうめき声が周囲の暗闇から聞こえるなか『それ』はそう言葉を発した。

『それ』の姿は黒ずくめで、街灯のほぼ灯っていない河川敷では、夜の闇と混ざり、輪郭がはっきりと掴めない。かろうじて照らされた『それ』の手には、警察官が持つような、これまた真っ黒な警棒が握られ、その先端からは、先ほどまで一緒に『遊んでいた』友人たちの血が滴り落ちていた。

 だが輪郭のない姿より、友人の頭蓋を砕いた警棒より、恐ろしいものが『それ』にはあった。いや、正確に言えば『なかった』のだ。


「罪にまみれたその顔が、お前の最後に見るものだ」


 自分にゆっくりと近付いてくる『それ』の顔へ、税収の悪化により数を減らした街灯の、数少ない生き残りが発する光が当てられる。

 『それ』の顔には目がなかった。それどころか口も、鼻も、耳も人間らしきパーツがない。顔面が銀色の卵のような見た目をしていた。

 のっぺらぼう、という言葉が一番しっくりくる。大学生にもなってお化けを怖がる歳でもない。しかし、そういった怪物が実際に目の前におり、その怪物が友人たちを、いとも簡単に殴り飛ばす様子を見た青年は、ただ腰を抜かし震える手で必死にのっぺらぼうの怪物から離れるよう、虫けらのように地を這うしかなかった。

 しかし抵抗むなしく怪物は青年に急ぐでもなくゆっくりと、しかし確実と迫る。怪物が青年を掴みかかれる距離まで近づいたとき、怪物の顔に変化があった。


「その目にしっかりと刻み込め。お前の罪を」


 その銀色の、のっぺりした顔は次第に色を帯びる。そして数秒と立たないうちに、怪物の顔面が腰を抜かしている青年自身の顔に変わった。

 つい先ほどまで友人たちと飲み明かし、楽しく友人の家に皆で笑いながら向かっていて、そして今、怪物に殺されそうになっている青年の顔に。


「助けて……許して……」


 青年は乾いた喉から必死に言葉を絞り出す。自分はただの大学生で、友だちの家に行く途中で、道中たまたま遊んでいただけだと。それ以上でもそれ以下でもないと、必死に怪物に訴えかけた。

 だが自分の顔をした怪物は聞き入れなかった。持っていた警棒を投げ捨てると、素早く両手で青年の顔をつかんだ。怪物の力があまりにも強いためか、それだけで青年の頭蓋骨がミシミシと音を立てる。青年はもはや、悲鳴の代わりにひゅうひゅうと息を吐きだすことしかできなかった。


「この絶望が、お前の見る最後の景色だ」


 青年の絶叫と、犬の小さい鳴き声がこの街に、仙台の街に響く。

 その叫びを聞き、青年を助けようとする者は現れなかった。

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