第31話 激闘の裏で

目の前のゴブリンを斬る。次にその後ろにいるゴブリンを斬る。もうずっとその繰り返しだ。波のように襲いかかってくるゴブリンとホブゴブリンを斬り伏せるだけの時間。こうしている間にも蓮の生存率は下がっている。


全員で協力して、という文言が示している通りエリアモンスターは単独で相手ができるような生優しい強さではないという推測が濃厚だ。蓮を一人で戦わせたのは間違いだったかもしれない。


もしかしたら、という気持ちもある。蓮ならばエリアモンスターすらも倒してしまうのではないかと。だが、今私にできるのはアイツを信じて進むことのみ。そのためにも直ぐにゴブリンを殲滅する!


「会長!お願いします!」


刀術一式【飛燕】を青海が下がったタイミングで前方に放つ。これでも倒せたのは数体だけ。エリアモンスターが出現したという告知が出てから、更にゴブリンの数が増えている。全てを倒す必要はないとはいえ、大半がこちらにいるので殆どを倒さなければいけない。


倒すうちにレベルアップするので、一体に割く労力は下がる。それだけが救いだな。


ピロン!


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レベルが上がりました!


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「青海!少し離脱する!」


「はい!出来るだけ速く戻って来て下さいね!」


言葉少なに意思疎通をし、一旦戦線を離れる。体育館を出る前、蓮がそこにいた全員に職業についての話をしていた。私も不思議に思っていた職業欄は、レベルが10になると選択が可能になるという。更に職業を選択することによって、スキルやステータスに恩恵があると蓮は言っていた。


なので、私と青海はレベルが10に上がったときは一旦どちらかが戦線を維持してもう一方が職業を選ぶということを決めていたのだ。今回は私の方が先にレベルが上がったが、次は青海の番だろう。あれだけのゴブリンを倒していれば直ぐにレベルは10に到達するはずだ。


私は急いでステータスを開き、選択可能な職業を吟味していく。今ほど高速で文字を読もうと思ったことは受験の時すら無い。数ある職業の中から、最も自分に合い、かつ使いやすそうなものを選ぶ。これだと決めたものをタップし、戦闘に戻る。


「終わったぞ!【飛燕】!」


選択が終わったことを報告して【飛燕】を撃つ。先程までとは練り上げられる「気」の密度が段違いだ。刀術というスキルは、魔力ではなく「気」と呼ばれる生命エネルギーを媒介に発動させるものだ。魔力とは異なり、これはステータスには現れない力の一種だった。細かいことはまだ分からないが、とにかく私の気が強化されたということは分かる。


その上で放った【飛燕】は、明らかに勢いを増してゴブリンを切り裂いた。3メートルほどだった射程が、目算6メートルに伸びている。単純計算でも二倍の射程だ。職業による強化はかなり大きいと見える。


青海も手持ちの青龍刀でゴブリンを倒している。今の私のステータスならば速く避難を終えられるはず——そう思った矢先、何かの雄叫びが聞こえ、その直ぐ後に破砕音が鳴り響いた。


「なんだ!?」


何の音かは容易に想像がつく。恐らくエリアモンスターの声だろう。雄叫びが鳴った瞬間、目の前のゴブリンの皮膚に赤い紋様が刻まれていく。


俯いていたゴブリン達が顔を上げ、一斉に飛びかかってきた。その目は正気とは言えない色に染まっている。前の一体を斬り伏せ、次のゴブリンを斬ろうとするも横から新たなゴブリンが湧いてくる。さっきよりも腕力が上がり、中々引き離すことができない。動きも速くなっているので、迂闊に手出しが出来ない状況だ。それは隣で戦っている青海も同じようで、攻めあぐねているのが眼に入った。


あと少しという所で強化だと?巫山戯るなよ....!そう出るのならこちらも奥の手を使うまでだ。


「青海、一旦離れていてくれ」


「え?は、はい。何をするつもりですか?」


「...........」


青海の質問には答えず、これから使うスキルに意識を集中させる。心を鎮め、目を開く。


「刀術二式【閃駆せんく】」


次の瞬間、私達を取り囲んでいたゴブリン達は断末魔を上げる間もなく両断されていた。


この二式だけではこれ程のスピードは出ない。一瞬でゴブリンを斬ることが出来たのは、単に【修羅一刀】というスキルのお陰だ。


これは、使用者の身体能力を大幅に底上げし、気を増幅させるスキル。青海の持っているスキルに近いものだ。最初からこれを使っていなかったのには訳がある。青海のものとは違い、私の【修羅一刀】にはペナルティがあるのだ。強靭な精神力を持っていなければ、修羅に呑まれて意識を失う。こんな状況で気を失うわけにはいかない。


意地でも気合いでもいい、意識を保て!


自分にそう言い聞かせながら刀を振る。一式【飛燕】、二式【閃駆】。この二つを使って廊下を縦横無尽に駆け回る。強化されたとは言っても所詮はゴブリンでしかない。問題はホブゴブリンだ。


前方の二体を同時に両断し、その勢いで後ろのホブゴブリンに対応する。ソイツを蹴飛ばし、後方に飛燕を放つ。これで後は少し.....!


残った五体に向かおうとした時、身体がぐらつくのを感じた。視界がブれ、平衡感覚が狂う。もう【修羅一刀】の反動が....!こちらに向かってくるホブゴブリンの攻撃を今の態勢では受けることが出来ない。


それを、横から青海が突き刺す。


「会長!後は任せて下さい」


そう言って青海はホブゴブリンに突っ込んでいく。どう見ても上がっている身体能力に、青海も職業を選択したのだと悟る。まさか後輩に助けられるとはな......しっかりしろ!


今一度気合いを入れ直し、ホブゴブリンを倒した青海に感謝を述べる。重い身体を引きずりながら、もう目の前に迫っていた校門を抜けて私達は無事避難を完了させた。死者数はゼロ、怪我人は数名いるが、最悪の結果ではない。


本当は今すぐ蓮の所に行きたいが、ここで私が居なくなれば生徒達を統率する者がいなくなってしまう。後ろ髪を惹かれる思いで、私は学校を後にした。

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