第30話 決着
なぜ凍堂がここにいるのか。避難は無事完了したのか。そんな疑問は隙だらけになったキングを目前にしてあっさりと吹き飛んだ。
職業を選択して新たに使えるようになったのであろう《
極限の集中状態になると動きがスローに見えるというのは本当だったらしい。原理が気になるところではあるが、今はコイツを殺すことに意識を集中する——
までもなく、両手に握られた短剣は狙い通りキングの首元に吸い込まれていく。
「グガアァァァァァァァァァァァァ!!!」
断末魔が辺りに響き渡る。流石のエリアモンスターでも、急所を串刺しにされれば生き残る術はもはや無い。俺を仕留めようとしていた腕も、行き場を失ってだらんと崩れ落ちた。しかし、これだけでは済まさない。エリアモンスターうんぬんでは無く、今更手を抜くことなど有り得ないから。
「グアァァァ.......」
声を発するための喉を潰したのだから当然発声は出来なくなる。叫べていたのはキングの最後の気合ありきのことだろう。
ダメ押しに喉に突き刺した「純黒」に魔力を集め、そこで爆発させる。俺も少し巻き込まれるが、これでキングを確殺できるなら安いものだ。
キングが倒れ、青い粒子になって消えていくのを確認すると凍堂が駆け寄ってくる。
「先輩!大丈夫ですか!?血が.....!」
「大....丈夫だけど..ちょっと、眠たい....」
正体不明のスキルの副作用だろうか。元々傷だらけの身体に凄まじい疲労が襲いかかってくる。カラリと両手の短剣が手から滑り落ち地面に落下する。
あ、やば....マジで意識保ってられな....い。
「先輩!?先輩!?.....!..........!」
ピロン!
————————————————————
エリアモンスター「ゴブリンキング」の討伐を確認しました!
————————————————————
————————————————————
初めてエリアモンスターを討伐しました!その功績を讃え、報酬が贈られます!
————————————————————
————————————————————
『世界の意思』が貴方の功績を讃え、貴方を世界の中心へ招待しました!
————————————————————
..............................!
.....................!
............!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
一旦ゴブリン達の波が引いた後、私はずっと心の中がモヤモヤとしていた。
なんと言葉にすれば良いのか分からないけれど、酷く先輩のことが心配になったのだ。いつも心配はしているが、先輩がエリアモンスターをどうにかすると言ったのだから大丈夫だと思っていた。しかし、それとはまた違う、心配というより不安という感情が私の中に渦巻いていた。
でも私に出来ることなんて何もない。ここを離れれば他の生徒が危険に晒されてしまう。
何も出来ないというのはとても心が痛むと初めて知った。誰か自分の大切な人が命の危機に瀕しているとして、何もしない、出来ないなんてことが有れば私は絶対に後悔する。例え、そのせいで他の誰かが命を落とすとしてもそれでも私は——
気がつけば、私は自然と走り出していた。
「天堂先輩!ここ、お願いします!」
これを先輩に話したら怒られるかもしれない。勝手に戦線を、自分の持ち場を離れたのだから当たり前だ。でも、動かずにはいられなかった。私が行ったところで何も変わらないかもしれない。何の役にも立たないかもしれない。盾にでもなれればそれで良い。少しでも先輩の生存率が上がるのなら、それで良い。
そう思いながら長い廊下を駆ける。さっきから轟音が鳴っているのは中庭だ。恐らく先輩はそこで戦っているはず。
避難している方にゴブリン達が集中しているはずだが、ここにもまだゴブリンが残っている。道を塞ぐようにして立ちはだかるゴブリン。ゴブリンが三体にホブゴブリンが二体。決して手間取るような相手ではない。
「邪魔しないで下さい!!《
横一文字に振った杖剣に合わせて水の刃が射出される。廊下の幅目一杯に引き伸ばされたそれは、ゴブリン達の身体を簡単に切り裂いて飛んでいく。
ここまで簡単にゴブリンを倒せたのは、レベルアップと職業選択の恩恵だろう。ゴブリンの死体には目もくれず、私は再び走り始める。
ゴブリンを倒し、瓦礫を粉砕し、やっとの思いで中庭に到着する。そこで私が見たのは、巨大なゴブリンに突撃する先輩の姿だった。助けはいらないと思った。でも嫌な予感は止まらず、むしろ強くなっていた。案の定、ゴブリンキングの腕がブレて先輩が殴られそうになっているのが目に入る。
咄嗟に私はこう叫んでいた。
「《
————————————————————
次回は会長視点であります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます