第17話 怪しい!

ホブゴブリンを倒したあと、俺達は梶木に捕らえられていた人達を連れて備品倉庫に戻ってきていた。


目の前で恐怖の対象である梶木を殺した俺にひどく怯えている様子だったので誘導は凍堂に任せて俺はモンスターをひたすらに倒して帰ってきた。梶木から暴力を振るわれていたのだから仕方のないことだろう。


変に怯えられるのも居心地が悪いので俺は部屋の隅に座っている。被害者とのコミュニケーションは凍堂の役目だ。


話終えたのか凍堂がこちらにやってくる。


「話は終わったのか?」


「はい。一応の説明は終わりました。それでこの人達をどうするかなんですけど......」


被害者の面々をここにおいておく気は更々ない。体育館ならあの人もいるだろうし丁度いいのではないだろうか。あとは生徒会の奴らに任せてしまいたいものだ。


「そうだな.....体育館に避難させよう。あそこならほとんどの生徒が集まっているし彼らも安心するんじゃないか?」


「体育館.....ですか」


凍堂にとって体育館に行くのは辛いものがあるだろう。なにせ自分を裏切った奴がいるんだ。


「俺が連れて行くから凍堂はここにいてもいいぞ」


トラウマを乗り越えるのは別に今である必要はない。凍堂を案じての発言でもあるが、余計な感情を持ってモンスターの前に立たせるわけにはいかない。


「.......いえ、私も行きます。とりあえず食堂にいた人達にそれでいいか聞いてきますね」


そう言って凍堂はまた真ん中の方に戻っていった。大丈夫か?駄目そうなら無理矢理にでもおいていくか。


もし体育館に行くのが嫌だとかいう生徒がいたらどうするか。まあそこまで面倒は見れないし倉庫から叩き出そう。もう既に印象は最悪だろうし痛くも痒くもない。


一人になってやることがなくなるとふと思考の片隅に一つの事実が浮かび上がる。俺は今日、人を殺してしまった。モンスターとはまた違う人間の肉を裂く感覚が手に残っている気がする。後悔はしていない。殺さなければ俺が、凍堂が死んでいたからだ。この世界で俺を取り締まり、縛るものは何も無い。だからこそ自制心が必要になる。


相手に俺を殺す気があるのなら俺はこれからも迷わずソイツを殺すだろう。生き残ると、そう決めたのだから死ぬわけにはいかない。それでも気持ちの良いものではなかった。


すでに何人も殺しているんだ。もう後戻りはできない。俺がやったことは一生ついてまわる。俺の手はもう血塗れなんだ。





♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢





少しすると、凍堂が人を連れて戻って来た。


「先輩!こちらの人が先輩に聞きたいことがあるそうなんですけど.....」


話?何か話すようなことがあったか?


「あーわかった。名前は?」


凍堂に着いてきた女子が口を開く。


青海せいかい なぎさよ。よろしく」


そう言って手を差し出してくる。青色の髪にキリッとした顔。普通に美人だな.....梶木の野郎が囲っていたのも頷ける。二年にはこんな人いなかったし三年か一年だな。


「ああ。よろしく。んで、聞きたいことってのは?」


差し出された手を握り、用件を尋ねる。


「私達を体育館に移すと聞いたわ。それを貴方達が護衛してくれるのかしら?」


「そのつもりではある。何か問題が?」


もしかして俺が護衛するのは嫌だとか?だったら泣くよ?俺


「いえ、何も問題はないわ。聞きたいことはそれだけなのだけど、お願いが一つだけあるの」


お願い.....ねえ。面倒くさそうだな。このまま聞かないってのは有りか?いや、凍堂に怒られそうだしやめておこう。


「まあ聞くだけ聞いてやる」


そう言うと青海はにこりと笑い、お願いとやらを話し始める。


「ありがとう。それでお願いというのは貴方達や梶木の使っていた能力のことについてよ」


「......それで?説明しろって言われても——


「私にもあれを教えてくれないかしら?」


発言の途中で割り込まれる。


ほらな面倒くさい「お願い」だ。


にしてもこの人、梶木に捕われていた中俺達を観察する余裕があったのか?他の人とは違い暴力は振るわれていなかっただろうが何故こんなにも飄々としていられるんだろうか。


「教えるようなものでもない。モンスターを殺せば自然と手に入るからな」


それにステータスは人に教えられるようなものじゃない。凍堂に教えているのは立ち回りや武器の使い方だけだ。


「それは分かってるわ。凍堂さんが戦っている間に私もモンスターを倒したもの。私が貴方に求めているのは戦い方の伝授よ」


ますます怪しいな、コイツ。凍堂がゴブリン共を相手取っている間にゴブリンを殺しただと?


「ステータスを持っているなら自分でなんとかしろ。厚かましいとは思わないのか?」


「ええ。その自覚はあるわ。でも体育館に行って誰かに管理されるよりも貴方のような人の下で動く方が好きなの。それに貴方達にとっても決して損にはならないはずよ?」


自覚あるんかい!これでも引き下がらないのかよ。


「その根拠は?」


「私、ステータスに一つだけスキルがあったのよ。【羅刹】っていうスキルよ」


「それがなんで俺達の得になると?」


重ねて質問を続ける。


「スキルランクはS。効果は相手に与えるダメージの増加に加えて身体能力の強化よ。これでも得にならないかしら?」


.......正直言ってかなり良いスキルだ。俺も今回のことで前衛がもう一人欲しかったんだ。丁度その条件に当てはまっている。でも怪しいんだよなぁ!疑わずにはいられない。逆に簡単に人を信じられる奴の方がおかしいだろ。


「教えて欲しいってのは仲間になりたいってことでいいのか?」


考える時間をもらうべきか?いや、考えても何も変わらないだろうな。戦力は多いほうが絶対に良い。


「その解釈で構わないわ」


「なら一つ条件がある」


そう、これさえ守ってくれるのなら後はどうでもいい。


「なにかしら?」


「俺達を裏切らないこと、だ。それができるなら仲間にしてやってもいい」


これは相手が仲間になりたがっている状況だ。少し強めに出ても問題ないはず。まあ組むといっても学校を出るまでのつもりだし。


「......それで構わないわ。これからよろしく。ところで....貴方の名前は?」


あ、やべ名乗ってなかったか。


「戦場 蓮だ。改めてよろしく」


俺達のパーティーに怪しい奴が加入したのだった。







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登場人物が多くなって来ましたね。いつか登場人物紹介を書きたいです。



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