第7話 魔力

先程までと変わらず、モンスターは増え続けていた。


「どこからこんなに湧いてくるんだか....」


二棟から集まっているとしてもあまりに多い。探索中はこれほどの数を見かけることはなかったのでどこかに巣があるのかもしれない。


厄介なのは狼だ。動きが速いというのもあるが、単純に姿勢が低くて戦い辛い。ゴブリンは戦闘力では問題にならないが、数が多くて邪魔だ。無駄に体力を削られる。


体力がなくなって動けなくなる前に動きださなければいけない。出来ることは全部試してやる。


そいつらと戦いつつ、廊下の奥の方に誘導していく。このまま誘導して彼女から注意を背けることができればいいんだが、危ない橋を渡る気はないので却下。


なので一か八かの方法に賭けることにした。誘導した場所で地面に手をつき、魔力を込める。【疾駆】を使った時の感覚を思い出せ!自分の内側に干渉して魔力を手に集める。


モンスター達は隙だらけの俺に向かって群がってくる。今にも食べられそうになった次の瞬間、眩い光が走り、空間が爆ぜた。


「ガッッ...!」


「グアァァァ!」


ゴブリン達の断末魔が聞こえる。爆発の余波で吹き飛ばされた俺は壁に激突し、モンスターは跡形もなく消し飛んでいる。


ピロン!


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レベルが上がりました!


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ピロン!


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レベルが上がりました!


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職業が選択可能になりました!


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【小鬼殺し】の称号を手に入れました!

【狼殺し】の称号を手に入れました!


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「一気に情報が増え過ぎだ.....」


壁からずり落ち、怪我の具合を確認する。全身が痛い、特に右手の状態が酷い。右手に魔力を集めていたからだろう。


俺がやったことは至極単純だ。【無限魔力】の代償として俺は攻撃魔法が使えない。魔法の有用性は広範囲攻撃にあると推測できる。魔法を使えていれば今回の救出ももっと楽だったかもしれない。


話を戻すと、攻撃魔法が使えないならすればいいんじゃないかと俺は思い立った。で、手から魔力をビームみたいに撃とうとしたら耐えきれなくなって溜めた魔力が外に放出されてしまったってワケ。それで起きたのがあの爆発。やっぱ事前に実験しておくべきだと心から思う。


後悔先に立たず。爆発によって出来た穴を避けながら家庭科室に向かう。


「だ、大丈夫ですか!?凄い音がして...!」


到着するなりそう言われた。異性に心配されるのなんていつぶりだろうか。さっきはよく見ていなかったが後輩だろうか?ネクタイの色が緑だからそうだろうな。ちなみに俺達2年は赤色だ。三年は青。


「いいから早くここから移動しよう。またモンスターが来るぞ」


「で、でも足が....」


あーそうだった。走れるんなら最初からこんなことやってねえや。


「ゆっくりでいいから。今は俺もそんな速く歩けないし」







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備品倉庫に着くなり俺はばたりと倒れ込む。戦闘中は気にならなかったが疲労がかなり蓄積していたようだ。一番酷いのは手だけど他の場所もかなり痛い。打撲の癖に....!回復魔法とかないのか?あるなら即買いなんだけどな。


倉庫にあっま救急セットで手当てをしながらそこに座っている後輩に話しかける。


「俺は二年の戦場 蓮。お前は?」


「は、はい!一年の凍堂とうどう 雪菜せつなと言います。助けてくださってありがとうございました!」


そう言って凍堂は頭を下げる。助けに行くのが遅れたことにずきりと胸が痛むが、それを無視して話を続ける。


「なんであんな状況になったかを聞く気はない。歩けるようになったら体育館に行け。生徒が集まってる。そこでなら食料も貰えるし守ってもらえる筈だ」


素っ気ないように聞こえるかもしれないがこれが正解だ。俺のように単独で動いている奴と一緒にいるよりもあちらの方が安全だからな。


「.......嫌です」


「は?」


声が小さくて聞き取れない。難聴系主人公みたいでなんか嫌だな。


「嫌です。あっちには.....あの子が!」


頭を抱えて震え始める凍堂。様子がおかしい。錯乱しているのか?


「落ち着け!おい!」


肩をつかみ、軽く揺すぶる。


「っ!」


目が覚めたようだがまだ不安定だな。何があったんだ?あの子.....裏切られたっていうのが一番濃いな。足の怪我もそうだけど到着する前【察知】に他の反応があった。去っていくから害は無いと思って放っておいたが....。


「す、すいません。また取り乱して.....。でも私!ここから移動するのは.....!」


「.......分かったよ。落ち着くまでここにいて構わない。が、その分働いてもらうぞ?」


「はい!承知の上です!」


うむ。いい返事だ。ただ飯ぐらいなんて俺は許さない。少しは役に立つはずだし存分に働いてもらおう。


「あ、でももう少し声量落としてくれ。奴らが寄ってくるから」


この言葉に怯える凍堂はおもしろかった。





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