第7話 ビデオカメラ

 シュルツが料理を作り(俺は皮剥きとかだけ手伝った)、スープやら肉野菜炒めやらが並ぶテーブルを囲んで、第一回マホレンジャー会議が始まった。

 残念ながらオリバーは中庭の木の上で爆睡していていなかったが。


「で? まほれんじゃーって具体的になにするんだ?」

「えーっと……」


 俺は、前世の記憶があることを話してもいいものか悩んだ。

 変なやつだと思われたらどうしようとか、そんなことがぐるぐると頭の中を巡る。


「カイル、大丈夫だ。誘ってた時点でお前はかなり変なヤツだったからな。それでも誘いに乗ったこいつらに今更遠慮することはない」

「えぇー……」

「シュルツって黙ってたらクールなのにカイルが絡むと残念な感じになるよね」

「そんなこと気にしてたのか? そんなん言ったらコイツも大概だろ」


 エヴァンスはそう言いながらミュリエラを指差し、腹パンをお見舞いされていた。

 痛そう。


「俺、カイルとして生まれる前の記憶があるんだ。前に生きてた世界では、”テレビ”っていうのがあって、そこで”マホレンジャー”をやってたの」

「てれび?」

「人の動きとか音とかを記録して、何回も見られるものがあってね、それを全国の人が見られるように”テレビ”で流すんだ」

「あ、ちょっと待ってて、似たようなのあるかも」


 ミュリエラがばたばたと三階に上がっていき、何かを手に持って降りてくる。

 それは両手で持てるくらいの大きさの魔道具で、四角い石みたいなのが組み合わさってできていた。

 ミュリエラが中央に嵌め込まれた赤い石に触れて魔素を込めると、魔道具がぼんやり光り出す。

 

「はい、みんな何か喋って〜」

「初めて見る魔道具だな、高く売れそ「うちのもん勝手に売ったら空の彼方まで吹き飛ばすからな」

「こわ」


 もう一度赤い石に触れると光りが収まり、隣に嵌め込まれていた透明な石が薄い緑色に変化した。

 変化した石に触れると、魔道具の上に扇型に映像が映し出される。


『はい、みんな何か喋って〜』

『初めて見る魔道具だな、高く…………』


「すごい! ”ビデオカメラ”だ!」

「びでぇお? えっとねー、これは撮映写機さつえいしゃきって言うらしいよ。オジさんが仕入れたやつみたいだけど、すごい貴重品みたい。値段が付けられなくて売れなかった……って、そんなの物置に転がしとかないでよね⁉︎」

「そんなに貴重なら、やっぱり撮影してもそれをみんなに見てもらうのって難しいかぁ」

「ん〜、ちょっとオジさんに聞いてみる。もしかしたら他の国では作れるとか、そーゆーことあるかもだし」

「俺の前世ではそういうのが普通にそのへんで買えててさ、”テレビ”の撮影はもっとおっきなやつとか、もっとすごいの使ったりしてたみたいだけど」

「お前の生きてた世界すげーな」

「そう思う。で、“マホレンジャー“は“テレビ“でやってた俺の大好きなお話なんだ!」

「お話? 物語ってこと?」

「うん。前世には魔法なんてなくて、だから”マホレンジャー”は想像のお話なんだ。でも敵と戦ったり、人を助けたり、格好いいんだよ!」


 骨つき肉に齧り付きながら話を聞いていたエヴァンスが、ごくんと肉を飲み込んで聞いてくる。


「変身とか言ってたのはなんだ?」

「マホレンジャーたち、普段は特別な存在だってのは隠してたんだ。家族とか友達を危険に晒さないためだって言ってた。で、敵と戦う前に変身して、顔を隠してそれぞれの色を中心に作られた衣裳になるんだよ」


 俺はテーブルに置いてあったナプキンを広げ、そこに水で絵を描いた。

 マホレッドは目元が炎みたいにメラメラしてるサングラスみたいになってて、黒とシルバーのラインが入ったヒーロースーツを着てて、炎で出来てるみたいなマントを付けてて、基本は素手で魔法を放つんだけど、本気を出す時だけマホロッドを……。

 今でも詳細に思い出せるマジレンジャーの格好。

 ちょっと絵は上手くないけど、何となくは伝わると思う。


「え、ダサくない?」

「ダセぇな」

「…………絵が下手なだけの可能性もあるが」

「ダサくないっ!」


 俺の絵が下手なせいだと思いたい。

 俺は一生懸命ヒーロースーツの格好よさを熱弁したが、一向に賛同は得られなかった。


「え、だって全身覆われるんでしょ? 頭から足まで丸ごと。無理ムリ可愛くないよー!」

「なんかこんなの着て女と楽しむ変態お貴族様がいるって聞いたことあるぜ」

「変態じゃないって、失礼だなぁ!」

「こんなの着なきゃいけないならまほぴんくやめる!」

「えっ、待ってそれは困る!」

「じゃあ可愛いのにする? マントと、キラキラ眼鏡くらいならしてもいいよ」


 うーん……可愛いのってことは、魔法少女みたいになっちゃうんだろうか。

 まぁ、少しくらい混ざってもいいか。

 確かに、ヒーロースーツは身体の線がくっきり見えちゃうから、きちんと鍛えないと恥ずかしいかも、とは思ったのだ。


「分かった。じゃあミュリエラが考えてみてよ。それぞれの色はしっかり使ってね」

「任せてよ〜! カイルたちも見た目はいいんだしさ、やっぱそこを生かしていかないとね〜」

「なぁ、まほろっどってのは杖? 武器か?」

「ん? うん、”マホレッド”は基本は肉弾戦か素手の状態で魔法を放つんだけど、杖を持つと魔法の威力が全然違うんだって。その分、魔力……魔素も消費しちゃうから、大技をきめるとふらふらになっちゃうんだけど」

「ふぅん……」


 エヴァンスはそう返事をすると、また食事へと戻ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る