第6話 役割分担とエヴァンスの特技

 五人でようやく入学手続きをする。

 鑑定の時とは色が違う水晶に手を翳して、名前を発すると登録が完了するらしい。

 年齢や、持病なんかも分かるらしくて、体調面で入学を拒否されるなんてこともあるんだとか。

 俺たちは全員バッチリ健康体だったので、問題なしである。


「えーと、授業が始まるまではまだ結構あるんだな」

「うん、まだ鑑定期間は残ってるからね。鑑定が終了した二日後から授業開始みたい」

「授業が始まるまで待ってらんねーだろ? ダンジョン行こうぜダンジョン。五人いりゃそこそこいけんだろ」

「めんどくさい……」

「様子見くらいなら問題ないと思うが、回復薬くらいは準備してからのほうがいいんじゃないか?」

「あー、それもそうだな。つーか、まほれんじゃーってさ、具体的になにすんの?」


 エヴァンスの言葉に俺が話し出そうとすると、ミュリエラの手がそれを遮った。

 ぶんぶんと首を横に振り、お腹に手を当てて困ったような顔をした。

 男だと分かっていても、めちゃくちゃ可愛い。

 すごいなー。


「ねぇ、そーゆー話はご飯食べながらにしない? ボクお腹空いたよ!」

「うるせぇな……じゃあ飯屋行こうぜ、安いとこ知ってんだ」

「うち、台所あるよ?」

「俺が料理できると思うのかよ」

「思わなーい! ちなみにボクも料理は無理」

「……Zzz」

「ちょ、立ったまま寝るな! 料理ならシュルツが得意だぞ、な!」

「…………言うなよ」


 シュルツが眉間に皺を寄せて俺を睨む。

 あっと思った時にはもう遅く、材料を買ってシュルツにご飯を作ってもらおうという話になっていた。


「洗い物はしないからな」

「ごめんシュルツ……」


 学院から出ると、ようやく王都をじっくり目にしたような気持ちになった。

 たくさんの建物がひしめくように建っていて、街路を歩く人間も大勢。

 生まれ変わる前にはよく見た景色だった。

 少しだけ、前のお母さんを思い出してしまって胸の辺りがきゅうとした。


「カイル?」


 はっと我に帰ると、シュルツが心配そうに俺を見ていた。

 慌てて駆け出し、隣に並ぶ。


「大丈夫か?」

「うん、ちょっと、“ホームシック”になってた」


 シュルツには言葉の意味は伝わってなかったと思うけど、きっと何となく察したのだろう。

 村から離れて生活をすることになったのは事実だし、今の両親と会えなくなることを寂しく思う気持ちもある。

 だから、シュルツにわしわしと頭を撫でられて、泣きそうになったのは秘密だ。


 オリバーが限界を迎えそうだったので、ミュリエラと先に家に帰っているということになった。

 家の位置を言われても俺は全然分からなかったが、エヴァンスには伝わったらしい。

 シュルツとエヴァンスと俺で、食材を買うことにする。


 商店街みたいな、お店が立ち並ぶエリアがあるらしい。

 店先に野菜や果物、肉や魚が置いてある店がひしめきあっていた。

 そんなに広くない通りだったから、買い物客がたくさんいるみたいに見える。


 エヴァンスは八百屋さん(こっちでそう呼ぶのかは知らない)のおじさんに近付くと、近くに山積みになっていたキャベリキャベツっぽいやつを一つ手に取って言った。


「おっちゃん、このキャベリちょっと痛んでるぜ。三個買うからまけてくれ。あとこっちのキャロリアにんじんっぽいやつ、葉っぱが萎びてるヤツまとめて全部買うからまけてくれ」

「またお前か! はいはい、それでいいよ。ったく、あんまりデケー声で値切るんじゃねぇよ。最近他の客からも値切り交渉されるようになったんだぞ?」

「そりゃ悪いな。でも損はさせてないだろ?」

「お前は弁えてるからな。だから値切りに乗ってやってんだ。他の奴らはそんなことお構いなしだぜ? 困ったもんだよ」

「大丈夫なのかよ」

「あ? お前に心配されるほどヤワじゃねぇよ! ほら、おまけも入れといてやる」

「それもそーだな! ありがたくいただいてくわ」


 その後も、いくつかのお店を周り、どの店でもエヴァンスは値切り交渉をした。

 店先に掲示してある商品の値段は、さすが王都だなって思ってしまったくらいの値段だったけど、最終的にはかなりお安く買えたんじゃないだろうか。

 あまりにもお店の人とエヴァンスの計算が早くて、全く追い付けなかったんだけど。


 山盛りの荷物を抱え、ミュリエラの家に到着する。

 似たような家がずらりと並ぶ中で、その家だけはちょっと古めかしくて可愛かった。


 玄関の横にある鳥の置物に触ると、家の中からピィピィと鳴き声がした。

 すぐにミュリエラが玄関を開けてくれて、荷物を運び入れる。


「あとでさっきの鳥ちゃんを、クチバシの先、尾羽、右足、左の羽の先、クチバシの根本の順番で触っておいて。鳥ちゃんの目が緑に光ったら登録完了。登録が済んだ人は、鳥ちゃんの頭を撫でるだけで家の鍵が開くから」

「すげー!」

「ふふん、そうでしょう! この家にはそういう魔道具がいっぱいあるから、不用意に触らないでよね? 部屋割りはこんな感じで勝手に割り振ったけど、いいでしょ?」


 そう言ってミュリエラが指差した先の壁にはプレートが埋め込まれていて、どうやらこの家の案内図が書かれているらしい。

 一階から三階まで部屋があって、それぞれの部屋に名前が振ってある。

 ”物置”、”書斎”、”カイルの部屋”、”浴室”……。


「浴室⁉︎」

「うわ、ビックリしたぁ。なに?」

「この家、お風呂あるの⁉︎」

「んふふふふふ……あるよ! あるんだよ! この家に決めたのはお風呂が付いてたからなんだよ! カイルとシュルツでお湯沸かしてくれるよね?」


 シュルツの眉間にしわが寄り、冷気が漂ってくる。

 俺は慌ててミュリエラを見た。


「や、家賃は取らないから!」

「…………カイルはどうなんだ」

「ま、魔法の練習になるから……やってもいいかな」

「風呂に溜める分の氷を出すことと、夕食の支度だけならいいだろう」

「じゅうぶんすぎるね!」

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