第3話 入学テスト

 やる気満々でテスト会場に入った俺だったが、ズラリと並んだ長机に紙が伏せられているのを見て血の気が引いた。


「え、テストって、筆記⁉︎」

「は〜い、受験生は空いている席に座ってね〜。紙を表っ返した瞬間からテストが始まるよ〜。制限時間が来たら問題文は消えちゃうから注意してね〜」


 テスト用紙にも魔法が使われているらしい。

 俺はとりあえず前の方に詰めて座り、問題用紙をめくった。


「うわぁ」


 そこにはびっしりと問題が書かれていて、目がチカチカした。

 この世界にはいくつの言葉があるのか知らないが、俺の暮らしている国に関して言えばどこに行っても言葉は共通だった。

 国の端から端まで行ったことがあるわけじゃないが、隣の村も、王都に来るまでに立ち寄った村や町も、同じ言葉を使っていた。


 紙は貴重品だし、本もほとんどなかったけど、悪いことを考える他者に騙されないようにってことで、村でも文字とかお金に関しては大人たちから教わった。

 こっちには絵本とかもないんだなーなんて思いながら、簡単な絵を地面に描いて、そこにその絵の単語を添えるってのをやってたら、大人たちに『天才だ!』って担ぎ上げられたっけ。

 一つ教わっただけで十個のことを理解してるみたいだったシュルツの方がよっぽど天才だったけど。


(あー、シュルツもテストしてんのかなぁ……きっといい点なんだろうなぁ……)


 暗い気持ちになりながら回答用紙に名前を書き、問題文を眺めていく。


 現時点で確認されている魔法属性の種類……いっぱい。

 鑑定に使われる水晶はどこで産出されたものか……王都の近く。

 魔物の中でも特に強力な力を持つものをなんと呼ぶか……中ボス。

 炎の魔法を極めると何ができるようになるか……炎の魔人になれる。


 何も書かないのもどうなのかと思って、せっせと解答欄を埋めてみてはいるものの、全然分かる問題がない。

 筆記テストだけだったら確実に不合格である。

 俺は冷や汗が噴き出るのを感じていた。


 しばらくすると問題文が消えていって、俺は机に突っ伏した。

 似たような人が結構いたから、大丈夫なんじゃないかと思うけれど、不安は拭えない。

 『簡単だったな』なんて話している人たちもいて、自分の知識のなさに絶望した。

 魔法が使えてやる気があれば入学できると思ってたけど、そんなに甘いもんじゃなかったのかもしれない。

 

「問題文が消えた方はここに回答用紙を提出しにきてくださいね〜。次は実技です〜」


 実技があった!

 実技で結果を残すしか俺に道は残されていない。

 まだ炎を出したことがないのが不安だったが、何とかなるだろう。なってくれ。


 広い運動場みたいなところに案内されると、そこでは他の属性の人たちもテストをしていた。

 どうやら、離れたところにある的に魔法を当てるらしい。


「魔法を身体から離れた場所に届かせるのってセンスがいるんだよな」

「早めに鑑定受けられてよかったぜ」

「あぁ、二日も練習すりゃそれなりになるからな」


(もしかして、みんな早く王都に来て色々と準備してからテストを受けに来てるのか?)

 

 俺は準備も何もせずに呑気にやってきたことを早くも後悔していた。

 少し離れたところからどよめきが上がり、何事かと顔を上げるとシュルツが見えた。

 シュルツの前にある的は、もはや的だったかも分からないくらいの氷の塊になっていて、試験官らしき人が惜しみない拍手を送っている。


 合格者はこちらですと案内されていく途中、シュルツの青い目が俺を見た。


『早く来い』


 声は聞こえなかったものの、そう言っているのが分かって、俺は燃えた。

 そうだ。後悔している場合じゃない。

 俺は気合いを入れ直して実技テストの列に並んだ。


 そうだ。待ちに待った魔法を使う機会なのだ。

 全力でやって的をぶっ壊すくらいはしないとな。


(魔法っていえば、必殺技だよな。マホレンジャーも叫んでたし)


 毎週楽しみにしていたマホレンジャー。

 マホレッドも炎の魔法使いで、濃い赤のマントを翻しながら敵に魔法を放っていた。


(よーし、やるぞ!)


「はい、次。的に向かって魔法を使ってみてくれ」

「はい! 行きます!」


 俺はマホレッドに習ってポーズを取った。

 右手を斜め上に、左足を斜め下伸ばし、右足に重心をかけて左手は腰!

 そこから機敏な動きで真っ直ぐな体勢になりつつ、左膝を曲げながら前に出し、両手を正面に突き出した。


「必殺! “ボルカニックエクスプロージョン”!」


 そう叫んだ俺の手に魔素が集まり、炎となって放たれ……あれ?


「小さい……」


 俺の手のひらからポヒュっと出た野球ボールくらいの火の玉は、ひょろひょろと的に向かって飛んで行き、的の真ん中を少しだけ焦がした。


「あれー? もっとでっかいの出るはずだったんだけど……」

「ふ、ふはっ……あははははははは!」

「⁉︎」


 横に立っていた強面のごっつい試験官が、お腹を抱えて大爆笑していた。

 そんなに面白かったか?


 しばらく笑い続けた試験官は、ヒーヒー言いながら涙目になって俺を見た。


「ひ、必殺技って、ものすごいものが飛び出すのかと思ったらそんな……小さい火の玉……くくっ……はー、久しぶりに笑わせてもらった。合格だ。あっちの部屋に行きなさい」

「ご、合格⁉︎」

「頑張って必殺技の名前に負けない魔法が使えるようになるんだな」

「はいっ!」


 何がよかったのか分からないけど合格した!やった!

 俺はスキップでもしそうな勢いで合格者の集まる部屋へと向かった。

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