第27話 凛の病院へ



 そして午後の授業が始まった。


 教室を見回すと、相変わらず米倉は居ない。そしてその取り巻き達の女子の姿も消えていた。



 キーンコーンカーンコーン。最後の授業終了のチャイムが鳴り、今日一日の学園生活が終わった。長閑はいそいそと下駄箱で靴に履き替え、校舎を後にした。


「龍馬に凛ちゃんの病院に連れて行ってもらわんといかん。あの野郎は待ち伏せでもしないとドラゴンブラット狩りにコッソリ帰宅しそうだからな……」


 そして校門に差し掛かった時だった、何者かの視線を感じた長閑は、門柱にもたれかかる一人の女子生徒に目が行った。


 背はすらっと高く脚も細い。肩まで伸びた真っ黒な髪の毛は肩口で綺麗に揃えられいる。そして鋭い眼から発せられるエネルギーは、マリ姉を凌ぐ勢いだ。


(ぬお……モデルみたいな高校生だな。てかこっち睨んでないか?)


 門柱にもたれる女子を横目に、そんな風に考えながら門を跨いだ時だった。


「お前、朝比奈タエだよな?」


 モデル風の女子が両腕をオレンジのスカーフ前で組んだまま唐突に質問してきた。


「え? あ、はい。そうですが……?」


 まさか話し掛けてくるとは思わなかった長閑は、慌てながらそう答えた。


「明日……明日の放課後でいいから私につきあってよ」


 モデル風女子は静かにそう言うと、返事も聞かずにそのまま校門から遠ざかって行った。


「うーん……これは一体全体どういうことなんだ……それにあの子は誰なんだ?」


 長閑は両眉を寄せながら混乱していた。


「ま、いいか……明日になればわかるだろう。龍馬が校門に来る前に隠れておかないとな」


 言いながら長閑は門柱の陰で身を潜めた。


 暫くして挙動不審な動きをする龍馬が現れた。


「よよよし! このままダダダッシュで家にかかか帰ろう」


 龍馬は門柱に潜む長閑に気がつかないままそう発した。


「よし! 龍馬。さぁ凛の病院へ行くぞ!」


 門柱から飛び出して来た長閑は、龍馬の左肩を叩きながらそう言った。


「ぎゃぁぁぁぁ! タタタタエ姉ぇぇぇ!」


 龍馬が悲鳴をあげた。そしてそのまま長閑に引きずられるように病院へと進路をとるのだった。



 道中のバスでの出来事。


 二人はバスの一番奥の席に並んで座っていた。


「ねねねぇタエ姉」


「んん?」


 龍馬がオドオドしく質問して来た。


「たたタエ姉って、いつからあのオンラインゲームやってるるるの?」


「ああぁ、えっと……いつからかなぁ……忘れた。けど、何年かやってるよ」


 長閑は笑顔で答えた。


「じゃあ今度……いいいいいっしよぉぉにぃ」


『次は〇〇病院前、〇〇病院前』


 龍馬が吃りながら何か言いかけた時だった。凛の病院前のバス停に到着した。


「着いたっぽいな?」


「う、うん……」


 下を向いたまま龍馬が頷いた。


「では降りますか!」


 長閑と龍馬は連れだってバスを降り、目の前の病院へと足を向けた。

 そして二人は一緒に病院の受付前で佇んでいた。


「えええっと……り凛の部屋は、なな七階だよ」


「よし! ではいざまいろう!」


「あ! そのせせ台詞! ぼぼ僕のキャラのだ!」


 自身のキャラボイスを真似た長閑に食い気味で反応を見せる龍馬。長閑は得意気な笑顔を浮かべながらエレベーターへ乗り込んだ。


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