その6 ふりかえって

 ということで、一歩間違えたら死んでいたというお話だ。

 あれから数年、時々振り返って考えてみる。

 読者の皆さんもオレの経験を参考にして欲しい。



 まず、最大の問題は誰が悪者わるものなのか分からないということ。

 言いかえれば被害者と加害者が分からないということだ。


 財布を持った男の手をつかみながらも「オレは間違って一般市民をつかまえようとしているのでなかろうか?」という疑念が頭の隅から離れなかった。

 もし相手の持っている包丁が目に入ったら、少なくとも自分に対する敵意は確信できたはずだ。

 でも、あの時点では包丁が目に入らなかったのでそのような確信を持つことはできなかった。


 なので、もし何らかの暴力的な場面に出くわして介入しようと思っても、どちら側に肩入れするべきかはなかなか判断できない。

 それが現実だ。



 次に相手がどんな武器を持っていて何人いるかも分からない、ということだ。

 今回でいえば相手が1人で素手すでなら体格差もあって確保できたかもしれない。

 しかし現実には包丁を持っていたので、たとえ1人であっても対処は極めて困難だ。


 しかも実際には3人いて全員が包丁を持っていたものと思われる。

 いかなる武術の達人であっても1人で制圧するのは不可能だろう。


 そう考えると五反田警察が包丁3人組を確保したのは超人技ちょうじんわざとしか言いようがない。

 たとえ何人がかりであったとしてもだ。



 最後に、たかが財布ごときお金ごときに命をかけてはならない、ということだ。

 ヒーローになる必要はない。

 あの時の場面では、もし包丁が目に入ったらその時点で掴んでいた手を離すべきだった。


 実際には包丁が目に入らなかったので振りほどかれるまでは手を離さなかった。

 犯人もオレを刺すために包丁を持ち出したのではなく、逃げるために振り回していたのだろう。


 もし手を離していたら一目散いちもくさんに逃げていったはずだ。

 どんな時も瞬時に損得を考えて行動しなくてはならない。



 ということで、危なく死ぬところだった、という話をさせてもらった。

 そのような場面に出くわしたのは運が悪かったが、スーツを切られたくらいで済んだのは運が良かった。

 読者の皆さんもくれぐれも注意して欲しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

包丁で、背中を刺された! hekisei @hekisei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ