第4話 あれ、なんで目が使えないんですか?

 ぼやけた頭を振り、昼寝特有の頭痛を取り除いていく。

 さっきの事が夢か現か判断が出来ない、やっぱりあれは夢だったのだろうか。

 少しして意識がはっきりしてくる。そういえば夢で天使という存在が言っていた気がする。


「この世界でも使える目を渡す」

 もしあれが本当に現実の出来事ならば僕は不思議な目を持っているはずだ。

 確か思い浮かべた人の事を遠くから見ることが出来るんだったよな。手始めに、学校の友人の事を思い浮かべてみる。

 呼吸を整えて、神経を目に集中させる。一度目をつぶり光と大量に取り込むようにして力んでみる。


しかし、なにも起こらない、目の前には少し眩しいいつも通りの部屋が広がっている。


 やはりあれは夢だったようだ、僕はこの年齢にもなってなぜ、あんな変な夢を見てしまったのだろうか。夢は考えていることが見えると言われているし、もしかしたら僕の心の奥底で持っていた痛い妄想だったのかもしれない。


 そう考えるととても恥ずかしい、でも勘違いしたまま誰かに話す前で本当に良かった。変な恥をかかずに済んだのだから。

 こんなの話していたら間違いなく変な奴扱いは避けられなかっただろう。


 でも夢に出てきた自分を天使と名乗っていた人本当に綺麗というか美しかったな、性格や動作にこそポンコツ感溢れていたが、見た目に関して言えばどんな女優でさえ足元レベルと考えられるほどに綺麗だった。


 もしかしたらあれこそが僕が求めていた理想の人物の妄想なのかもしれない。いや、だとしたらポンコツ過ぎて嫌だな。


「ちょっと城戸崎さん!私の事さっきからポンコツとか言い過ぎですよ酷いです!」

 驚きで反射的に体が動いてしまう。夢だけでなく、現実でも幻聴が聞こえるようになってしまった。


 病院に行った方がいいかもな。

「そんな必要ありませんよ~ あなたがさっき私に会ったのは夢じゃないですよ、近い場所ではありますが!」

 声だけでやたらと自信があることが伝わってくる。

 自分の肌を強く抓ると体に鋭い痛みが走る、ここは現実だ。


「もしかして、今のは幻聴でなくさっきのは夢じゃない…」

「そうですよ!あ、あと貴方は私の従者になったので、声を出さなくても貴方の言いたいことなら私は分かります、声を出さなくても大丈夫ですよ!」


 従者?なんだそれ、僕はそんなものに同意した覚えはない、それに声を出さなくても思考を読まれるなんて、脳内で何か妄想することすら許されなくなってしまうじゃないか。


「大丈夫です、私は城戸崎さんが何を考えていても嫌いになったりしません。」

 まるで数年の付き合いのある友達のような信頼だ、それに、嫌いになるならないの問題でなく、他の存在に自分の頭の中を見られるというのが気まずいうえに嫌なのだ。


「もう、しょうがないですね、じゃあ私に何か伝えたいときはさっきみたいに強く私の事を考えて、語りかけてください。 その時だけ、あなたに語り掛けますから」

 仕方なくといった風に天使は了承を見せる。


 しかし、本当に問題なのは今の話ではない。聞き逃しそうになっていたが「従者になった」という完了形が混ざった物騒な言葉があったのだ。


 また天使の事を強く思い、声を出さずに語り掛ける。

「従者って何ですか、あと僕は結局何をすればいいんですか?」

「従者というのは私のお手伝いという意味です!特に深い意味は… ないですね!」


 一瞬不自然な間が開いた、いやでも彼女は天使だ。この不思議な存在の言っていることが正しければ、人間を導く存在と言われている天使がそんなことを言うはずがない。あまり深く考えるのはやめておこう。


「そうだ、目の事について教えてください。どうやったら天使様の言うように他の人の事を見ることが出来るんですか?」

「あれ、簡単に使えませんか?おかしいですね、目の能力が宿った瞬間に使い方を直感が理解しているはずなんですよ。 視力もそのままですか?」


 そう言えばおまけ程度に視力がめちゃくちゃ良くなるという能力も付いていたな。でも、目が良くなった感覚はない。

「そのままですね」


 少しの間沈黙が流れる。

「あ… 城戸崎さんごめんなさい!実は目を与える人間違えちゃったかもしれないです」

 しばらくたって、おどおどしながら天使が口を開く。

「直ぐに城戸崎さんに目を与えますので、ちょっと待っててください、えっと、あーしてこーして」


 こちらが何か言う暇もなく天使は話を進めている、どうやら間違えて目を他の人に与えてしまったらしい。

「よし!これで城戸崎さんに目が入ったと思います! 一度強く目を瞑ってくださいね」


 言われるがまま強く目を閉じる。すると瞼の裏にすっと心地の良い何かが浸透していくような気がした。

「開けて大丈夫ですよ」

 

 目を開けると光が入り込む、自分の目なはずなのにどこか違和感があった。明らかにいつもより世界がはっきりくっきりと見える。


「どうです?凄いでしょう!これが魔眼です、貴方にはこれで人探しをしてもらいます。」


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