第23話 強襲





 まあ、困っている者がいるのだからやる以外の選択肢が無い・・・力を手に入れてヒーローになったつもりは無いが・・・すぐに動けるのは俺だけだしな・・・。


「ヴァルディ殿!貴方のお力は分かっております・・・ですが貴方一人に罪を被せる訳には・・・」


 出来れば奴隷取引の書類を押さえて免罪符にしたいところだけどな・・・。


「リゼ殿、ここは私を信じて任せてはくれないだろうか?」


「・・・絶対無事に帰ってくると約束して頂けますか?」


「ああ、約束するとも 」


「分かりました・・・納得はまだ出来ませんが貴方を信じます・・・」


「ち、ちょっと待ってください貴方達はそれでいいんですか!?男爵の屋敷に一人で行くなんて正気じゃありません!!」


「ヴァルディさんですしね・・・ボク達は信じて待ってます!」


「ヴァルディさん!どうかご無事で!」


「・・・頑張って・・・」


「ヴァルディさんは無茶ばっかりする人ニャね・・・」


「すまないな、だがどうしても見過ごせなくてね・・・」


「ヴァルディさんらしいニャ!」


「本当によろしいのですね・・・分かりました男爵の館について情報をお教えします」


 奴隷達を引き連れて逃げるのは実質不可能だ、そのために一度村まで移動し場所を記憶してから“転移門”(ゲート)を使って男爵の館から直接 奴隷達を逃すしかない。


一度、村を経由するから少し時間がかかるな・・・。


「はい・・・お気をつけて!」


「うむ」


「ウォォォォ〜」


「ちょうどゴーストも戻ってきたようだ」


 ゴーストには悪いが完全に無駄足を踏ませてしまったな・・・。


「モンスター!?」


「いや、私が召喚したものだ 安心してくれ」


「・・・ゴーストの召喚・・・聞いたことない・・・」


「では一旦お別れか」


「はい、こちらはお任せください」


「“楽園の戦車”(エデン・チャリオット)!さあ、これで奴隷達を村まで運べるはずだ」


 “楽園の戦車”は2頭の白い馬に引かれた車輪付きの戦車が特徴の召喚獣・・・攻撃能力はそれほど無いが戦車に乗せた者の傷を癒す効果を持つ。


 空を駆ける事もできるし、この状況にあった召喚獣だ。


「ハハハ・・・本当に何者なのですか・・・貴方は・・・」


・・・・・・・・・・・・・


「あそこが男爵の屋敷か・・・思ったよりは小さいな」


 作戦はシンプルなものを考えてきてある、まずは召喚獣で屋敷を襲撃。


 それと同時にローブの女から聞いた情報を元に“飛翔”(フライト)で男爵の部屋に行き男爵を確保する。


「“生命探索”(ライフ・サーチ)!・・・誰にも見られていないか・・・」


「陽動作戦、開始だ“邪悪な巨人”(イヴィル・ジャイアント)!」


 “邪悪な巨人”(イヴィル・ジャイアント)は7〜8mほどの巨人・・・簡単に言えば黒いサイクロプスといった感じだ。


 ゲーム内では壁役としてよく使われてたな・・・。


「屋敷から出てくる敵意持つ存在を殺せ、一匹も逃すな 門以外には攻撃しなくていい」


「ゴァァァァアアァ!!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ゴァァァァァァ”


 交戦したか、よし・・・


「“存在消失”(ロスト)


“消音”(サイレント)


“飛翔”(フライト)」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 無事ベランダに着いたな、扉を静かに開けてっと・・・


ーーカチャ・・・


 ドアにカギも掛かってないとは無用心なものだな・・・前の椅子に座り背を向けているのが男爵か。


ーーバタン!!


「グレネーゼ様ッ!!!!」


「無礼者が!!いきなり部屋に入るとは何事だ!!」


「も、申し訳ございません!!緊急の報告がございます!!」


「何だ?」


「只今城門前にて謎の生物が屋敷を襲撃しております!!死傷者多数!!まったく歯が立ちません!!」


「今すぐお逃げ・・・」


ーーザク


「ガッ・・・」


「ご機嫌よう男爵」


「な、何者だ!!?何処から現れた!?」


「お前に用があってきた、奴隷取引の件でな」


「な、何故その事を知っている!?誰から頼まれた!!こんな事をしてただで済むと思っているのか!!」


「お前の話はどうでもいい・・・奴隷取引の書類は何処にある?」


「クックックッ!!愚か者が!私がペラペラとそんな事を話すと思うのか?衛兵!!傭兵ども!!侵入者だ!!」


・・・・・・・・・・・・


「な、何故こない!?衛兵!!」


 どうやらこの男は相当の間抜けみたいだ、さっきの報告を聞いていなかったのか?


「衛兵はお取り込み中のようだな?」


「そ、そんな・・・た、頼む!金ならいくらでもやる!!こ、殺さないでくれ・・・」


「書類を渡せば考えてやる」


「わ、分かった・・・」


 脂汗を流しながら震える手でガサガサと机をあさりだした男爵は吐き気を催す程、醜悪な生き物に見えた。


 散々、奴隷達に酷い事をしてきて本気で自分が助かると思ってるとは・・・。


「こ、これが書類だ!さあ持っていけ!!」


「これで全部か?」


「そ、そうだ!これで全部だ!!助けてくれ・・・」


 念のためだ他に隠していないか確かめるか・・・


ーーザシュ!


「えっ・・・私の手が・・・!!!ゔぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!!!手がぁ!!わ、私の手ぇぇ!!!!!」


「本当にこれだけか?隠しているなら手足が無くなる前に言った方がいいぞ?」


「ヒィイィイ!!!ほ、本当にないんだ!!!い、いだいぃい!!」


 どうやら本当らしい、では彼女を呼ぶか。


「“転移門”(ゲート)さあ終わったぞ?」


「ありがとうございます、騎士様・・・」


「お、お前は!!貴様本当にこの私を裏切ったのか!!拾ってやった恩を忘れたのか!!!!」

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