消えた猟奇的殺人犯

チャロリーナ

第1話

 高橋登は目の前の中西悟に拳銃を向けていた。


「やっと追い詰めたぞ、中西」


 目の前には中西と被害者の女性が裸で倒れている。まだ息はあるようだったが、早く助けなければ危険な状態だ。


 中西はこの女性の前に、既に3人の女性を殺害していた。何れの女性も既婚者で、皆んな乳房を切り落とされていた。胸にはキリの様な物で複数の刺され傷があった。手足は紐で拘束されていた。目の前の女性も同様の状態で、血を流していたが、胸の傷は恐らくこれからつけようとしていたに違いない。


「動くなよ、後ろを向いて四つ這いになれ」


 中西は観念した様に両手を挙げたが、次の瞬間薄ら笑いを浮かべた。


「早くしろ」


 高橋は不気味に感じ、背筋が凍った、こちらの方が焦っていることは完全に悟られていた。冷静になれと自分に言い聞かせるが、喉は枯渇し、冷や汗をかいた。


 中西は高橋を見ているが、あまり意に介していなかった。それどころか、倒れている女性の方を気にしていた。


 その時、階段を駆け上がってくる同僚たちの足音が聞こえてきた。間に合った。高橋は少しホッとする気持ちがあったが、目の前の猟奇的殺人犯から目を逸らさなかった。意識はしていないが、瞬きもしていなかったと思う。


 中西は薄ら笑いを浮かべて


「また」


 と呟いた。


「また?」


 高橋は混乱した、何がまたなのか?また会おうのまたなのか?でもこの状況でまたはない。意味が分からなかった。更に冷や汗が流れた。


 高橋が生唾を呑んだ瞬間、中西は手を左右に振ると共に一瞬で消えた。


「えっ?」


 高橋は動揺した、動揺して尻餅をついた。腰が抜けたのか、良く分からなかった。

 瞬きはしてない、いや、瞬きの問題ではない。密室だし、そもそも中西は逃げていない、消えたのだ。


 中西の「また」の言葉が甦る。どうなっているんだ。


 同僚の北林と菅野が部屋に入って来た。


「中西!」「あれ?」

「高橋さん大丈夫か?逃がしたのか?」


「いや、よく分からん。」

「先ずは救急車だ、この人を助けてくれ」


「手配はしてある、直ぐに来ますよ」北林が言った。菅野も狐につままれた様な顔をしていた。


「中西は逃げたのですか?」

菅野が聞いた。


「まぁ、半分正解だ」

 高橋はまだ自分の頭は整理出来て居なかったが、確実に言えることは、中西は生きていて、また殺人を企てるということだった。


「今井さんの居場所分かったか?」

高橋が北林に聞いた。


「分かったんですけど・・。」


「そうか。」「そうだろうな。」

 高橋は予想通りの答えが返ってきて納得した。


 高橋は過去の猟奇的殺人と今井先輩のことを考えていた。


 直ぐには立てそうもなかった。

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