03 仕事と給料。戦いと報酬。職業選択の自由。天の声とレベルアップ!

「ん。何か落ちている」


 ……アレか。ゲームでいえば、ドロップアイテムってやつか?

 モンスターを倒したご褒美的なもの。


 倒したゴブリンは塵になって消えてしまって、死体は跡形もない。

 その足元に赤黒い石のようなものが落ちている。

 俺はそれを拾い上げ、手のひらで転がしながら観察する。


 小石くらいのサイズ感で、鈍く輝いている。

 にごったアメ玉みたいだ。べっこう飴に似てるかもしれない。


 多分これは魔石とか、そういうものだろう。

 アニメや小説だと、魔法の燃料になったり、取引に使えるものだ。


「せっかくだから、取っておくか!」


 何かに使えるはずだ。

 ポケットに入れておく。


 そのとき、頭の中に声が響く。慣れない感覚にぎょっとする。


<経験が一定値に達しました。レベルが上がりました!>


「うお! びびった! 頭の中に声が!?」


 レベルが上がった?


 ダンジョンやゴブリンが現れた時点でうっすらと予想できていたことだけど――

 ――これはまるでゲームだ!


 モンスターを倒すとレベルが上がる。ご褒美のアイテムが手に入る。

 よくある設定だ。そして、俺はそういうのが好きだ。


 働いたらお金をもらう。仕事したら認められる。

 そうあるべきなんだ!


 現実に仕事を頑張っても、給料が増えたりしない。


 え、残業代? 何それおいしいの?

 ブラック企業にはそんなものはない。


 ゴブリンの人権以前に、俺の人権が守られていなかった!

 ブラック企業滅ぶべし!


 残業代は払われず、仕事は評価されない。

 現実では、そんな当たり前のことすら守られない。

 努力が実を結ばず、賞賛されるどころか罵倒ばとうされる。


 ゲームは公平だ。ルールが分かりやすい。

 戦って勝てば報酬がある。経験値にドロップアイテム……山ほどのお宝。


 このダンジョンの中にもそれがある!


 頑張れば評価される。力が身につく。

 レベルが上がるっていうのは、楽しい!


「レベルが上がったってことは、ステータスもあるのかな?」


 ――そう考えると、半透明のウィンドウが目の前に浮かび上がった。


 ステータスが、目の前に表示される。

 お、あるみたいだな。ステータス。


 しかしそのステータスは……。


「ステータス全部がC!? 平凡かよ!」



 --------------------

 名前 : クロウ ゼンジ

 レベル: 2

 筋力 : C

 体力 : C

 敏捷 : C

 知力 : C

 魔力 : C

 生命力: C


 職業 : なし(取得可能)

 スキル: なし(残ポイント:10)

 --------------------



 ABC評価で"最低"なのか。ABCDEで"普通"なのか。

 良くても普通ってことじゃん。

 チートなパワーはないようだ。そんなに都合よくはないか。


 筋力が普通だとしても、ゴブリンは一撃で倒せた。

 だけど、ゴブリンが弱いだけかもしれない。

 武器を持って奇襲すれば一撃で倒せる程度の弱さ……一応は安心材料だな。


 ステータスのほかに職業やスキルの欄もある。


 職業……なし! 無職!

 ちょっと心をえぐるもんがあるぜ。


 あ、まだ有休消化中のはずだから、俺は無職ではない。

 まだまだ立派な社会人だ。セーフセーフ。


 謎の言い訳をしている俺だが、実際の職業はたぶん関係がない。

 ここでいう職業ってのはゲームでいうクラスみたいなものなんだろう。


 ステータスウィンドウの表示では、職業とスキルが取得可能となっている。


「職業か……何が選べるのか見てみよう。えーと、ここか」


 このウィンドウはスマホのように指で操作できるみたいだ。

 職業の表示をポチりと操作する。



 --------------------

<職業を選択してください>

 ・料理人

 ・奴隷

 ・掃除屋

 ・管理者

 ・戦士

 ・忍者

 ・スラッガー

 --------------------



 ウィンドウの表示が切り替わる。

 いくつかの選択肢から選べるみたいだ。なんかラインナップがおかしいけど。


 料理人、掃除屋、管理者か。

 これは実際の俺の仕事に関係しているのかな。飲食店の店長だからな。


 料理が上手くなったり、掃除がはかどったりするのだろうか。

 説明の類は表示されていない。選んでみないとわからないのかもしれない。


 奴隷って職業か?

 これはブラックな労働環境が影響しているのかもしれない。

 企業戦士は生活の奴隷か。

 もちろん選ばない。選んでたまるか!


 戦士。

 ようやくまともなゲーム的な職業が出てきた。

 戦士は剣で戦う職業だろうか。


 忍者はNINJAだな。

 忍術とか使って戦うんだろう。有力候補だ。

 というかほぼ決まりだ!

 忍者とか、あこがれるよね!


 でもまあ、一応他も考えてはみよう。


 スラッガー。

 これは金属バットを使ったせいか。職業じゃない気がするが。

 かっ飛ばす強打者みたいな。

 たぶん、バットでの攻撃力とか上がるんだろうな。

 武器がバットに固定されるのもいやだし、とりあえずパス。


 この中から選ぶなら、戦士か忍者だな。


 忍者のほうができることが多そうだ。それに楽しそうだ。

 忍術や特殊な武器や道具の数々……ロマンもある!


 忍者で決定。ポチっとな。


 ステータスウィンドウを操作すると、頭の中にアナウンスが響いた。


<職業により、ステータスが変動しました>



 --------------------

 名前 : クロウ ゼンジ

 レベル: 2

 筋力 : C

 体力 : B(上昇)

 敏捷 : B(上昇)

 知力 : C

 魔力 : C

 生命力: C


 職業 : 忍者

 スキル: なし(残ポイント:10)

 --------------------



「おおっ! 職業でステータスが上がる感じか!」


 体力と敏捷びんしょうがBに上昇したらしい。


 敏捷か。素早さとか器用さだ。

 忍者には欠かせないな。


 試しに飛んだり跳ねたりしてみる。


「おおっ! 軽い! 体が軽いっ!」


 すごいな……!


 垂直に飛べば、見慣れないほどに視界が高い! 怖い!

 体感、元の5割増しか、倍くらいのジャンプ力なんじゃないか。

 子供のころ、親に肩車された時を思い出すな。


 走れば風を切るように速い。

 少し運動不足な俺でも、足がもつれたりすることもない。

 反復横跳びもスイッスイだ。残像が見えるレベルなんじゃないか。


 身体の動きが速くなっても、転んだりすることはない。

 反射神経とか身体の制御をする機能も上がるんだろう。


 そして体力も上がっている!

 スタミナ的なものなのか全然疲れを感じない。息も上がらない。


「NINJAすげえ! あるじゃん、チートパワー!」


 ステータスとはこれほどのものか。


 陸上競技やったら、世界新記録だせちまうぞ!

 ……目立ちたくないから、しないけどね。


 変な注目を集めるのはやばい気がする。

 目立ちたくないというだけではない。

 現代社会で、こんな不自然な動きをしている奴、怪しすぎる。


 ニュースになって有名人になって、根掘り葉掘り聞かれては困ってしまう。

 謎の力に目覚めて急にできるようになったんです! とか言うのもどうかだし。


 それに……。

 ダンジョンのことを人に知らせることは何か……言い知れない不安感がある。


 忍者なので、人目は忍んでいこうと思う。

 そう、忍者とは孤独な生きざまなのだ。

 ただの職業ではない!

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