エピローグ

「ガレナよ。この度は本当に世話になったな。おかげで凶悪な魔人の手から私もそして娘のフランも救われた。この地を治める者として、そして父としてお礼をさせて欲しい」


 そう言ってグラハム公爵がガレナに頭を下げた。まさかこのような大領地を預かる領主から頭を下げられると思っていなかったのかガレナには戸惑いが見られた。


「頭を上げてください。俺はたまたま出くわしたから出来ることをしたまで。それにあれは魔人では――」

「そんなことはありませんわ。ガレナ様はとても立派な働きを致しました。そこは素直に誇って宜しいのですよ」

 

 そもそも魔人ではないはずと告げようとしたところでフランの母でもあるマチルの横槍が入った。マチルもまたガレナに感謝している一人であった。


「全くガレナは謙虚であるな。そこがいいところでもあるのだがなガッハッハ!」

「あぁ。今回はきっと私たちだけでは守りきれなかったと思う。情けなくも思うがガレナがいて助かったぞ」


 サリーとスライもガレナを褒め称えていた。それがなんともこそばゆくもあるガレナである。


「そこでだガレナよ。なんか形に残るものをお礼として渡したいと思うのだが、何か所望するものはあるか? なんでも良いぞ」


 グラハム公爵がそのようなことを聞いてきた。だがガレナは首を横に振り。


「俺はただの道先案内人。なので案内の報酬さえいただければ他には何もいらない」

「むぅ。しかしそれでは私の気持ちがな――そうだ! それならばガレナよ。屋敷二残り今後も我が家の護衛を務めては貰えぬか? 勿論その分報酬は筈もう。どうかな?」


 グラハム公爵が身を乗り出しながらガレナに聞いてきた。その提案にフランもどこかソワソワした様子を見せ、スライも喜んでいた。


「それはいい! ガレナよこんな好条件そうはないぞ! 是非受けるがよい」

「折角の提案を申し訳ないがそれは受けることが出来ない」

「判断が早いな!」


 テンションの上がっているスライを他所にガレナが申し出を断った。サリーも思わず叫んでいた。


「ふむ。駄目か。良ければ理由を聞いても?」

「俺は両親を亡くしてからここまで叔母に育てられてきた。その叔母に恩返しする為にも道先案内人としての仕事をこれからも続けていくつもりなのだ。しかし俺はまだまだ未熟。こんな状態で仕事を投げ出すわけにはいかない。それが理由、です――」

 

 最後はガレナなりに言葉を選んで締めくくった。


「そうか。なんと勿体ない話だ。君の力を我が領のために使えれば良いのだが、気持ちはやはり固いのだな?」

「……はい」


 残念がるグラハム公爵に対して、短く返答するガレナである。その様子にフランは寂しい顔を見せたが、すぐに笑顔に戻った。


「やはりガレナ様は心優しくそれでいて責任感に溢れていますね。お父様私はガレナ様の気持ちを尊重するのが一番と思います」

「そうですね。貴方お礼は他の形で」

「ふむ、仕方ないか」


 フランとマチルの気持ちもありガレナへのお礼は報酬の上乗せという形に落ち着いた。ガレナは当初これも遠慮していたがそれでは気がすまないという強い気持ちに押し通され受け取ることとなった。


 そして朝になりガレナは帰路につくこととなった。


「全く残念だな」

「仕方のないことだ。ガレナ元気でな」

「ガレナ様。その、いつか村まで遊びに言っても良いですか?」


 フランが名残惜しそうに声をかけてきた。ガレナは顔を綻ばせ。


「ああ是非来てくれ」


 そう伝えるのだった。そしてその後はロイス夫妻も近づいてきて声を掛けた。


「ガレナもいつでも遊びに来るといい。我々はいつでも貴殿を歓迎するからな」

「そうですね。出来ればいずれは息子になるぐらいの気持ちで……」

「ちょ、お、お母様!」


 母の言葉にフランは耳を真っ赤にさせて慌てていた。そんな様子を微笑ましく思いつつもガレナは故郷の町へと戻っていくのだった。





「どこに言ったかと思えばそんな面白い事になっていたなんてね」


 町に買えると既にミネルバは帰宅しており、ガレナは謝罪と一緒にこれまでの経緯を話した。怒られると思ったがミネルバは寧ろ愉しそうにガレナの話を聞いていた。


「それでガレナは本当によかったのかい? 公爵家の護衛なんて一生安泰できるというのに勿体ないと思っていない?」

「そんなことはない。俺は道先案内人として一人前になってみせるとそう決めたのだから」

「そうかい。はは、嬉しいこと言ってくれるね。それじゃあその為にもこれからもビシビシ行くよ!」


 こうしてガレナには再びいつもの日常が戻った。それからあっという間に一ヶ月が過ぎたころ――


「ガレナ。あんた指名のお客様だよ。なんでもこの町を案内して欲しいんだとさ」


 叔母のミネルバがニヤニヤしながらガレナに仕事を持ってきた。町の案内というのが妙に思ったガレナだったが表に出て更に驚いた。なんとそこにいたのはフランと護衛騎士の二人だったのさ。


「ガレナ様。早速来ちゃいました」

「フラン様たっての願いでな。見聞を広げる為に暫くこの村で暮らすことになったのだ。護衛の俺たちもな」

「そういうことだ。まぁ今後とも宜しく頼む」


 そう言われ参ったなと頬を掻くガレナ。そんなガレナの手をフランが取り太陽のような笑みを見せた。


「ガレナ様。先ずはこの町を案内して欲しいです」

「いや、しかしそれでいいのか?」

「勿論です! 私、知りたいんです。ガレナ様が生まれ育ったこの場所のことをもっと!」

「ははは。これはいいね。ガレナにもいよいよ春が来たってわけだ。このチャンス逃すんじゃないよ」

 

 誂うようなミネルバの言葉に弱った顔を見せるガレナだが、同時にまんざらでもない様子だった。そして数年後、仲睦まじくフランと一緒に道先案内人を続けるガレナの姿が見られるようになるわけだがそれはまた別な話である――


あとがき

これにてガレナの物語は完結となります!ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!そして現在下記新作も公開中です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330668155828278

↑↑「現代の暗殺者として育てられた俺、召喚された異世界で躊躇なく復讐を果たしたのでこれからは普通にマイペースで暮らしていきたいと思います」学校で虐められていた主人公がクラスメートと共に異世界に召喚され、暗殺者の力で容赦なく復讐し異世界で無双する物語です。合気無双を楽しめていただけていたなら次は暗殺無双は如何でしょうか?少しでも興味を持たれたならチラリとでも読んで頂けると嬉しく思います!

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極めた【合気使い】の勘違い冒険譚~俺の【合気】が最強過ぎると言われてもFランク冒険者にも劣る外れスキルでしかないんだが?~ 空地大乃 @oozoradaithi

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