第7話 魔境の生物

「ば、馬鹿な! ヘルズコンドルを何故こうもあっさり!」

「ん? ヘルズコンドルというのかこいつは?」


 スライが驚く様を認めガレナが?顔を見せた。


「そ、そうだ。私でも地上にでも引きずり落とさなければ、一歩及ばぬ相手」


 スライが答えた。ガレナは怪訝な表情を見せつつ言葉を返す。


「ふむ。しかしこの程度なら低ランクの冒険者で十分倒せる相手と思うがな」

「いやいや! ヘルズコンドルはAランク冒険者が何人もいるパーティーを複数集めて何とかといった魔獣だぞ! しかも対空系の魔法やスキルがなければどうしようもない!」


 ガレナは大したことのない相手と思っているがサリーはとにかくそれを否定した。かなり凶悪な魔獣であり下手な護衛では全滅していたと訴えている。


「だとしたらこれは違うのではないか?」

「ち、違う?」

「そうだ。正直俺はこの辺りの魔物や魔獣の名前まではよく知らないが、暫くここに籠もっていた時によく狩っていた鳥だ。ちょっと大きい程度の鳥でしかないのだ。恐らくそのヘルズコンドルに似ているというだけで別物だろう」

「別、物?」

 

 サリーが既に事切れているヘルズコンドルを眺めながら小首を傾げた。


「なるほど。確かにそう考えれば納得もいく。そもそも道先案内人程度が倒せる鳥が魔獣なわけないではないか」

「そのとおり」


 スライはガレナの意見に同意した。ガレナもそうに違いないと互いの意見は一致している。


 もっともガレナは実際この辺りの魔物や魔獣についてそこまで詳しくない。冒険者にもならず道先案内人としてやってきた為、仕事の為に必要と教わった魔物なら理解しているが魔境に関して言えば山籠りした時以来だ。当然一人修行していた時には誰もここの生物について教えてくれる相手はいなかった。


 その上ガレナの基準は全てあのFランク冒険者がベースになっている。自然と彼の要求レベルは大きくなってしまっていた。


「あ、あの? 何かあったのですか?」


 馬車からフランがひょっこり顔を出した。外で色々話していたので気になったのだろう。


「わ! な、なんですかその大きな鳥は!」

「これは旨くて大きな鳥だ。この辺りではよく現れ獲物を狙ってくるがそんなに強くないから狩りにピッタリだ」

「え? そんなに大きいのに?」


 フランが目をパチクリさせる。


「合気――」


 一方でガレナが合気で手際よく旨くて大きな鳥ヘルズコンドルを解体していった。


「ほう。見事な物ですね。正直何をしたかさっぱりわかりませんでしたぞ」

「……そもそも解体用の道具が何もなさそうなのだが……」


 執事のハイルがガレナの手際を褒め、女騎士のサリーは特に道具も持たず解体しているガレナに不可解な視線を向けていた。


「あぁ。俺は基本道具は使わない。敢えて言えば己の肉体と合気が道具だ」

「うむ。わからん」


 スライは顎に手を添えながら率直な感想を述べた。彼らにはそもそも合気がよくわからない。


「解体が終わった。馬車に詰んでも?」

「それは問題ない。食料はありがたいし助かる。本当にありがとう」


 サリーにお礼を言われガレナは照れくさそうに頬を掻いた。


「ガレナさん解体まで出来て凄いです! 何でも出来ちゃうんですね」


 フランは中々に豊かな胸の前で両手を組みキラキラした瞳でガレナを見た。サリーにお礼を言われた以上に気恥ずかしそうにしているガレナである。


「も、もう少ししたら休むのに適した場所がある。そこで休憩にし食事を摂るといいだろう」

「それはそれは。やはりわかっている人がいると違いますねぇ」


 ハイルがうんうんと頷いた。それから暫く進み予定通り休憩を取ることにする。


「しかし肉を焼くにしても調味料がありませんね」


 ハイルが、ふむ、と困った顔を見せる。


「それなら任せてくれ」

 

 ガレナはそう告げると、森に入っていった。


「どちらに向かったのでしょう?」

「まさか逃げたのではあるまいな?」

「ここまで来てそれはないと思うが……」


 残った面々がそれぞれの考えを語り合っていると、まもなくガレナが戻ってきた。


「ガレナさんどこにいかれていたのですか?」

「あぁ、ちょっと調味料を狩りにな」

「は? 調味料を狩る? 何を言っているのだ?」


 戻ってきたガレナの答えにスライが怪訝そうな顔を見せた。


「これだ」


 するとガレナが狩ってきた獲物を皆に見せる。それは植物タイプの魔物と顔のような物がついた塩の塊だった。


「ま、まさかこれは! ベッパーニードとソルトマンか!」


 ガレナが狩ってきたというそれを見てスライが叫んだ。


「これを知っているのか?」


 驚愕するスライにサリーが問う。どうやら彼女は知らないようだ。


「私も話に聞いただけだがペッパーニードは胡椒のような黒い香辛料をばら撒く植物型の魔物。しかしその香辛料は毒性が高くくしゃみを誘発させながら体中の血液を逆流させるのだ!」

「随分と恐ろしい魔物だな……」


 サリーが顔を引き攣らせた。


「更にもう一匹のソルトマンはまさに塩が人の形をしたような魔物でありつい飛びつきたくなるが実は恐ろしい魔物だ。触れた相手の塩分と水分を全て奪いカラカラにしてしまうのだからな!」


 そういいつつ恐ろしいものを見るような目を向けるスライ。だがガレナは、ふむ、と顎に指を添え。


「それならきっと勘違いだな。この植物も塩の魔物もそこまで強くない。こっちの毒も大したことなく合気で全て抜けたからな。塩だってそうだ俺はなんとも無い」

 

 そう言って自分が元気なことをアピールするガレナである。もっとも毒は当然合気であれば簡単に抜け、ソルトマンに触れられたところで合気で受け流せば水分も塩分も奪われることはなかった。


 そしてガレナにとってはあまりに手応えのない相手の為、スライが言うほどの強敵とはとても思えなかったのである――

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