第2話 初めての迷宮案内

「ここが地下三層だな」

「「「ちょっと待てーーーーーー!」」」


 迷宮案内を進めるガレナに冒険者達が激しく突っ込んだ。


「何か?」

「いや、何かってお前……」

「ここにくるまでマジで魔物に出会ってないぞ?」

「しかもしっかり宝を回収しつつ最短で向かってる感じだしよ」


 手応えがないとでも言いたげに冒険者達が言った。文句のようにも思えるがガレナは彼らの希望通り案内してるだけである。


「それに宝にしてもそんな小さな袋に全部入ってるなんてな。魔法の袋だとして容量大きすぎだろう」


 ガレナの腰に吊るされた小さな布袋を指差し男が問う。


「いや合気で中身を拡張しただけだが」

「は?」


 ガレナの答えに男たちはわけがわからないといった顔を見せた。


「貴方達もこれぐらいはできそうだが」

「いやいや無理だろう」

「俺たちはそんなスキルも持ってないしな」

「なるほど」


 彼らの答えを聞き、ガレナは少々自分基準で考えすぎたなと反省した。


 きっと彼らのスキルは戦闘に役立つ物が多いのだろう。ダンジョンの入口前でも相当な実力者であることを匂わせていた。


「やはり只者ではなさそうだ」

「何がだ?」


 ガレナの発言に小首を傾げる冒険者達である。


「そもそもどうしてここまで何事もなくこれたんだ? まさか何度も足繁く通って覚えたとか?」

「だとしても魔物はランダムで出てくるだろう?」

「罠も定期的に変わるはずだし何より迷宮の構造も変化するよな?」


 こういった迷宮には不思議な力があり、彼らの言うように迷宮内では魔物がどこからともなく湧いてくる。そのうえ罠の位置と迷宮の構造も定期的に変わっている。罠は毎日どこかで入れ替わり迷宮の構造は一週間から一ヶ月ぐらいの間と幅は広いがその間に構造が変わってしまう。


「この迷宮は一時間程前に構造が変わったばかりなようだだ」

「は? マジかよ!」

「てか、何でそれがわかるんだ?」

「俺は合気というスキルを持っている」


 ガレナがそう答えたが三人は疑問符の浮かんだ顔を見せた。


「こうするんだ――合気」


 ガレナが迷宮の壁に手を付け合気を行使。だが、ガレナの行動を見ていた三人は何がなんだかわかっていない様子だ。


「こうして合気を迷宮に向けて使うことで迷宮内を循環する魔力を受け流すことが出来る。その結果魔力に合気が干渉しダンジョンの構造、それに魔物の場所や宝の配置が把握できる」

「「「さっぱりわからん」」」


 冒険者の三人が声を揃えていった。ガレナの合気があまりに特殊すぎて三人の思考が追いついていない。


「まぁいいや。とにかく急ごうぜ」


 冒険者に先を促されたのでガレナは迷宮の最深部に向けて案内を再開させた。


「おい、待てお前ミスったな」


 ふと冒険者の一人から声が掛かった。何の事か? とガレナが振り返ると小柄な冒険者が脇に逸れていった。横穴がありその先は広めの空間となっている。


「見ろ。あそこにお宝があるぜ」

「いや、それは違う」

 

 小柄な男が嬉しそうに言ったがガレナが待ったをかけた。


「それは宝じゃない。罠だ無視した方がいい」

「は? ばかいえ。俺のスキルには罠察知もある。罠スキルが基礎でそっから派生して覚えていったんだよ」


 そう言って得意がる。だからこそもし罠だったなら判るはずと豪語しているのだ。


「しかし――いや」


 そこまで語りガレナはハッとした。彼らはD級冒険者だ。きっとガレナには気づけなかったことを察したのだろう、と。


「いいから黙ってみてろ。もしこれが普通に宝だったら依頼料減額だからな」


 また減額の話をされるガレナ。どうやら男たちは依頼料を減らしたくて仕方ないようだ。


「見てみろここまで近づいても俺の罠察知は全く」

『あjfぁjふぁlsjflksjfぁsj!』


 その時だった。宝箱の蓋が開き鋭い牙の生え揃った口となり近づいた男に襲いかかった。


「う、うわぁああぁあ!」

「合気!」


 男が悲鳴を上げ尻もちを突くが肝心の宝箱は吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。

 

「――へ?」

「お、おいおいどうなってんだよ!」

「あれってパニックボックスか!?」


 冒険者の一人が知ったような口を聞く。


「いや、あれはハングリーボックスだな」


 しかしガレナは別の魔物だと言った。三人の冒険者はまさか! と驚きを隠せない様子だ。


「ハングリーボックスはパニックボックスの上位じゃねぇか。俺たちでもやべぇ紙一重の相手だぜ!」


 冒険者達が冷や汗混じりに囁きあう。パニックボックスは迷宮で宝箱のフリをして近づいてきた相手を襲う魔物だ。


 ただパニックボックスであればきっと罠感知のスキルを持った彼らなら気がついただろう。しかしハングリーボックスはまた別だ。ハングリーボックスはより巧妙であり獲物が襲える範囲内に近づいてくるまでは宝箱そのものの状態を保つ。当然これだと罠感知には引っかからない。


 もっともガレナの合気であれば問題なく看破出来る。故に彼らに警告したわけだ。


「――もしかしたら俺は余計なことをしてしまったか」


 ガレナが眉を落として三人に告げた。冒険者達が目を丸くさせている。


「え?」

「D級冒険者であればあの程度余裕だろう。きっと何か考えがあって罠だと知りながら近づいたのだろうが、俺はつい反射的に割って入ってしまった」


 ガレナがそう語ると冒険者達が目をパチクリさせた。


「て、ことはこれをあいつが?」


 冒険者の一人が呟く。何がおきたか彼らには理解出来てないが話しぶりからいてガレナがやったと考えたのだろう。


「ご、合格だ!」


 冒険者の一人がガレナに向けて叫んだ。うん? とガレナが彼に顔を向ける。


「実はお前を試していてな。宝箱の罠に襲われた時にどうするか見ていたってわけよ。勿論正体に来づけるかも含めてな」

「なるほど!」


 ガレナは特に疑いもせず納得した。D級冒険者であればこの程度の魔物に苦戦するわけがないと思っていたガレナだが得心がいったようだ。


 同時にミネルバにも感謝した。迷宮に現れる魔物の特徴などは彼女に叩き込まれた。


 ミネルバは、すぐには無理だけどいずれ役立つと言っていた。その時が思ったより早くきたわけだ。


「しかしあいつはどうやってハングリーボックスを吹っ飛ばしたんだ?」

「き、きっと何か特殊な道具を持ってたんだろう」

「なるほど」


 引きつった顔で何とか納得する冒険者たち。勿論それは勘違いでありガレナの合気によって受け流されハングリーボックスはふっとばされたのである。


 合気であれば相手が攻撃を仕掛けてきた場合、数倍数十倍数千倍ともはや何倍が正しいのかもわからないぐらいの倍率でダメージを跳ね返してしまう。


「理解は出来たが、やはり戦闘は不得手ということなんだな」


 冒険者がそう語った。この発言はガレナがアイテムに頼ってると結論づけたゆえの物である。


「――やはりD級冒険者からするとそう視えるのだな」

「あたぼうよ。俺らは泣く子も黙る三勇漢だぜ!」


 得意がる三人を見て、やはりそうか、とガレナは頷く。ガレナの合気など彼らからしたら子どものお遊戯みたいなものなのだろう、と判断した。


 ガレナにとって件のF級の冒険者の実力こそが基本としてあるのだった。


「ま、まぁ俺たちが本気出せばあの程度楽勝だったわけだしな」


 三人がうなずく。この三人の冒険者にしても見えっ張りなタイプであったが結果としてガレナを納得させることとなった。


 こうして三人は再びガレナの案内で迷宮を進み遂に最深部まで辿り着いたのである。

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