第11話 集まる若き英傑たち

「ふむぅ。そしてそれらの善なる行いが、妖魔たちの源泉である悪しき行いを、断ち切り、妖魔たちの気も静める事に、なると言う訳か?」道三は顎髭を撫でながら答えた。


「仰る通りです。この戦いに参戦できる人数も人材、そしてを失うのは、非常に苦しいですが、この日ノ本全土から若い印章士と覆滅士、双方を持ち合わせる章滅士たち頼りの戦いになります」


「何故若者たちを限定するような言い方をするのじゃ?わしもまだまだ戦えるぞ?」


「我々がこの遠江に攻め込んだのは、人間に課せられた使命なほど、神を近くに感じます。仮に全兵力を投じれば、敵はその間に、この日ノ本への侵攻を再開する事でしょう。その場合、地の利をよく理解している者が、戦うのが一番です」


「今度ばかりは、死に急ぐ若者たちを、頼りにする事になるのかのぅ」


「いえ。これは運命と呼ぶものでしょう。我々は偶然この状況を、誰よりも早く知り得ました。そして扉はここにしかありません。我々が先手を打って、攻め込むなど、微塵にも感じてないはずです」


道三はまだまだ未来ある若者が、熱心に無駄な死ではないと、自分の命が少しでも役に立つのならと、本当に思っている事深く理解した。


「我々が今は敵よりも、数手先に行っています。もしも我々が遅れていたら、各地に扉が出現し、手のつく仕様も無くなるでしょう。ここにしかないからこそ、今しかないのです」


「其方のいう通りだ。まずは霧陰よ、三名に事を簡潔に、伝えて来てくれ。惜しみなく出して行こう。しかしこう考えると、実に数が少なすぎる。若手を行かせる理由もよくわかる。二十五歳以下あの妖魔の門に行かせるとしよう。それ以外はこれまで通りの配備よりも密集陣形をとらせよう」


 三名は霧陰の説明を聞き、皆すぐに英断し、行動に移した。国元に帰り近隣諸国にはそれぞれ援軍を乞い。これは妖魔と人間の戦いであり、我々が最後の砦だと伝えた。


諸国は最初はなかなか動かないと、考えていた真田幸隆は、国元には国を守れる程度の兵以外は、全て遠江に向かわせるよう伝えた。


これにより、真実味を増し、元々妖魔の噂もあった国々は動き出した。そして真田幸隆は真田家の豪族として各国に手紙を送った。



「我、真田幸隆以上の知ある者、天下に無し、そして我は遠江に出向き現実を見たものなり。これは人間と、人間の争いから生まれた二百年の怨念から、生まれた妖魔たちとの戦いなり。人間であるならば参戦されたし、参戦せぬ者は、これ以上争い合い妖魔に加担する者と見なすべきである。これは運命をかけた人間の戦いである」



真田幸隆の名は勇名であり、参加せねば妖魔の敵と見なされると書かれている以上、隣国が参戦し、簡単に国を奪える情勢ではあるが、奪えば少なくとも多数の国の敵になる。つまりは参戦するしかない状況を生み出した。



「近隣諸国の若き戦士たちを集めよ! 出し惜しみ等しても意味が無い事を、しっかり伝えるよう厳命せよ! 今川義元を倒した織田信長の言だと言えば、多少重みもあろう。徳川家、武田家、斎藤家もこれに同意したと重ねて伝えろ」



事は急がなければならないと、すぐに即断を下した。そして織田家、徳川家、武田家はすぐに動けたが、北条家の力も欲しかった。



 真田幸隆は南下の途中、武田信玄の茶会に招かれ、甲斐の館にいた。

武田信玄は真田幸隆に、北条家の参戦も何とか説得する手立てが無いものか、相談していた。「幸隆殿、何か良い方法はありませんかのぅ?」


「信玄公の阿部金山と港は、取るしか無かった事です。しかしすぐに派兵した事で同盟等、無きものだと言ったも同然の行動になってしまいました。幸隆の手紙だけでは北条は動きません」信玄は茶を立てて、幸隆に差し出した。彼はそれに一口だけ、口をつけた。


「信玄公もお聞きになったはずです。大原雪斎が北条に妖魔を送り込んでいると。今頃は大原雪斎は後悔している事でしょう。言うべきではなかった言を言ったと」


真田幸隆はまぶたを閉じると、話し出した。


「このような大戦は記憶には残すべきでしょうが、記録には残すべきではない戦いになります」


真田幸隆は扇子パシリと閉じると同時に開眼し、「この一件真田幸隆に一任させて頂きますでしょうか?」


「勿論です。何か妙案が浮かびましたか。これで信玄は安心して兵を送り込めます。このような情勢を短期間でどのようにすれば、状況変化が可能に出来るのか知りたいのが本音です。恥じを忍んで、お教え頂けぬでしょうか?」


「信玄公には、此度の事が無ければ信濃制圧で、私は家臣になっておりました。それ故、お教えしたします」


「まず我らは北からは武田勢、西からは徳川、織田、斎藤勢が攻め込みます。我らが攻めるタイミングを僅かずつ遅れさせていきます。各国は既に動き始めているのが現状です。西と北には兵を回さないと攻勢できませんが、東はがら空き同然です。佐竹や蘆名、伊達などが攻める進路を取るなら、東しかありません。しかし大国である北条家が動かないと言う事は、心理的に妖魔の仲間なのかと勘繰かんぐる者も出てきます。北条には妖魔がいる事を明かした、大原雪斎の言は敢えて書きませんでした」


「それは何故ですか?」

「人は不思議な生き物です。否定の言を否定すれば、それだけで人は簡単に迷子になります。ですが本物を見れば、今回の事は信じるしかないでしょう。紫色の肌をした大原雪斎の心臓を突いても死なないのを目にすれば、噂は一気に広まります」


「そうなれば北条にも妖魔の仲間がいるしかないと、最終的にはそこに答えを、落とす事になるでしょう。北条としても本音では、妖魔が仲間にいるなど、疑いたくは無いのが、本心です。そして私はまだ見てはいませんが、北条の妖魔が誰なのか、予測はついております」


「誠に恐ろしいお方ですな」

「心は既に武田にあります」


二人は澄み切ったお茶を、安心してゆっくりと喉に通した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る