第3話 エイプリルフール

「ふふふ。今日はエイプリルフール。嘘を言っても大丈夫な日。俊樹としきくんを驚かせちゃお!」

 そんな些細な思惑が、あんなにも大きなことになるなんて思いもしなかった。


※※※


「ねぇ。今日は何の日だか知っている?」

「ああ。四月一日。俺の母さんの誕生日だ」

「ふえっ!?」

 俺の発言に驚いたのか、千瀬ちせは変な声を上げる。

「なんだ? 知っていたわけじゃないのか?」

「う、うん。だって今日は……」

 言いよどむ千瀬。

 きっとエイプリルフールと言いたいのだろう。

 だが、俺が先にを言ったことで、動揺しているな。

 俺の母さんの誕生日は明日の四月二日だ。俺の鉄板ネタだ。それを初めて聴く千瀬があたふたしているのが可愛い。

「どうしよ! やっぱり彼女としてプレゼントした方がいいのかな!?」

「え。いや、そんなつもりじゃない」

 というか、そこまでしなくてもいいんじゃないか?

「ううん。そんなことない。未来のお嫁さんになるんだから――」

 いやいや。もう嫁にくるの決定かよ!

 俺への信頼度が高い!

 それにしてもうっかりものの彼女のことだ。

 その分、俺がしっかりしないとな。

「いや、今日が誕生日というのは嘘だ」

「え。ど、どいうこと?」

「今日はエイプリルフールだ。だから嘘をついた。ホントの誕生日は明日だ」

「え! でも明日には誕生日でしょ。何かプレゼントした方がいいんじゃない?」

「それは俺からやるからいいんだよ」

 千瀬は変なところで気を遣うな。

 まだ千瀬のことを親には話していないというのに。

「か、彼女として失態は許されないもの」

 ごごごと言う効果音がぴったりの顔をする千瀬。

 なぜにすごむ?

「まだ彼女がいると伝えていないしなー」

「な、なら。今からでもお会いして」

「ま、待て。紹介するってことか!?」

「そうよ。善は急げって言うし!」

「そんな簡単に決めちゃん!?」

 帰り道。

 千瀬は俺の家に向かう。

 いや、本当に紹介する形になってしまったじゃないか。

 メッセアプリLionライオンでも母さんに会わせたい人がいる、と送った。

 いきなりは失礼だと思い、メッセを送ったが、母さんもうっかりしているところがあるからな。

「いざ、出陣!」

 千瀬が玄関に着くと、緊張した面持ちでついてくる。

 俺は玄関を開け、ただいまと言う。

「お、お邪魔します!」

 かみかみの声で千瀬が言う。

 それを聴いていた母さんがエプロン姿で現れる。

「あら、いらっしゃい? 会わせたい人ってこの子?」

「ああ。そうだ。俺の彼女だ」

「は、初めまして! 井上いのうえ千瀬ちせと申します」

「あら。可愛い。ちょっと待っていてね。今ケーキを焼いているから」

「待って、母さんはそんなものをどうしようと?」

「だって彼女をつれてくるって。だからケーキでも焼こうかな?って」

「うっかりというよりも、張り切りすぎだな……」

「でも見立てが良いじゃない。好きよ、こういう子」

 千瀬が小さくガッツポーズをとる。

 最初は緊張した様子の千瀬だったが、母さんへのプレゼントなど忘れて、ふたりは楽しげにしゃべり明かした。

 あけすけな彼女だもの。母さんの好きそうな子だよな。

 まるで姉妹みたいに仲良くなる千瀬だった。


 そういえば、千瀬はどんな嘘を考えていたのだろう?

 気になる。

 うっかり者の彼女のことだ。もう忘れているだろう。

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