第2話 ホワイトデー

「ほら。バレンタインのお返し」

 俺はそう言い個包装になったマシュマロを手渡す。

「わぁ~。ありがとう。俊樹くん!」

 嬉しそうに飛び跳ねる千瀬。

「大切にするね!」

「いや、食べてくれよ」

「そんなこと言って。わたしのときは食べていないじゃない」

「いや渡されていないからね!?」

 あのあと、何度も謝ってきたし、暖房の前に置いていたせいで、チョコはドロドロに溶けていたらしく食べられなかった。

 そんなこともあり、チョコは食べられていない。

「そうだ! 何を入れてくれたの?」

 鼻歌交じりで意気揚々とプレゼントを見る千瀬。

「そんなに気になるなら開けてみてくれ」

「うん♪ そうする!」

 そう言って開けると、千瀬の顔色が変わる。

 え。なんで?

「ご、ごめんね。俊樹くん」

「へ? い、いや、何が?」

 明らかにうろたえてしまう。

 何かミスをしたのだろうか?

「ごめんね~!」

 そう言って走り去っていく千瀬。

「学校は!?」

 俺は置いてけぼりにされ、困惑する。

 なんだったんだ?

 俺はそうぶつくさと言いながら教室に戻る。

沢渡さわたり~。ノート見せてくれよ~」

厚木あつぎ。いつも自分で移せって言っているだろ?」

「いいじゃんか。いつも絵を描くので忙しいんだよ」

「まあ、俺もお前の絵好きだし、いいけど。でも赤点とったらマズいだろ?」

「いいもん。また教えてもらうんだから」

「千瀬の前でも同じこと言える?」

 うっと言葉に詰まる厚木。

「で、でも、絵の仕事があるから」

「はいはい。すごい高校生ですね」

 厚木は女子高校生でありながらイラストレーターとしても活躍している。

「それで、空チョコのお返しはできたの?」

「ああ。マシュマロを渡したら、顔色変えて家に帰ったよ。なんでだろうな?」

「え。もしかして俊樹ってお返しの意味を知らない?」


 マシュマロの意味は「あなたが嫌い」

 キャンディーの意味は「あなたが好きです」

 クッキーの意味は「あなたはお友達」

 マカロンの意味は「あなたは特別な人です」

「という意味があるんだよ」

「マジか。今日の授業のノートはお前がとっておいてくれ。俺早退する」

「ええ~!」

 厚木が目を丸くするのも確認せずに、俺はいの一番にコンビニによる。

 そこでキャンディーを買い、千瀬の家に向けて自転車をこぐ。

 千瀬の家は確か隣町。電車通学していると聞く。

 そこまで体力が持つか? いや持たせるんだ。

 自分に言い聞かせ、俺は千瀬の家に着く。

 インターホンを鳴らし、千瀬を呼ぶ。

「千瀬。話を聞いてくれ」

「いやだもん。どうせ俊樹には分からないんだもん」

 ぶりっこのような言い方をする千瀬。

「いや、俺はホワイトデーのお返しに意味があるなんて知らなかったんだ!」

 ガチャッと開く玄関。

「ホント?」

 涙目の千瀬が玄関からそっとのぞき込んでくる。

「ああ。だからこれ、買ってきた」

 キャンディーを差し出す俺。

 無骨でなんの包装もしていない、ただのキャンディー。袋にたくさん入ったお徳用パックなのはご愛敬だ。

「食べてくれ」

「うん。うん! ありがと!」

 にへらと笑う千瀬。

 その笑顔を見て、確信した。

 俺はこの子を守る。

 そうして生きていくんだ、と。

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