第29話 ヒスイとライトの腐れ縁 1/2

ごきげんよう。

ちょうど先ほど、ヒスイ様からお手紙を受け取りましたのよ。

あなたの事も、書かれていましたわ。

また、あなたにお会いしたいと。

よっぽどあなたの事をお気に召したようですわね。

ふふふ、もしかしたら、本当にまたあなたに会いにいらっしゃるかもしれません。

もっとも、あの方は神出鬼没な方ですから、いつになるかはわかりませんが。


そうですわね。

せっかくですから、今日はヒスイ様のお話をいたしましょうか。

ヒスイ様がライト様と出会った時のお話を。

幼い頃のヒスイ様は、今のヒスイ様からは想像もつかないほどに、心を閉ざしている方でしたの・・・・


※※※※※※※※※※


~9年前~


「見つけたぞっ、ヒスイ。いざ、尋常に勝負!」


ギャグ王国内。

フラフラと公園内を気ままに歩く、淡い栗色の髪を肩まで伸ばした身なりの良い少年の姿を見つけると、ライトは木刀を手に駆け寄った。


「ねぇ、僕が今何をしているように見える?」

「そりゃ、暇つぶしの散歩、だろ?」

「相変わらずだね、ライトは」

「どういう意味だ?」

「無粋、ってこと。僕は今、この心地の良い風の奏でる音を、全身で聴いているんだよ」

「・・・・はぁ?」


(相変わらず、掴みどころの無い・・・・いや、これもコイツの作戦かっ?!)


思わず脱力した手から落ちそうになる木刀を握りなおすと、ライトはヒスイの姿を真っ直ぐに見据えて、攻撃の隙を窺った。



ヒスイとの出会いは、今から2年ほど前の事だった。


ライトの父親は、ロマンス王国国立騎士団総隊長を務めている。

幼い頃、病で母を亡くしたライトを、父は厳しくも温かい愛情を持って育ててくれていた。

強くて優しい父は、ライトにとっては純粋な憧れの対象。

いつかは自分も父のような騎士になる事を強く望み、父からの教えも受けながら、ライトは日々鍛錬を重ねていた。


そんなある日。

ライトはギャグ王国に向かうという父に連れられて、共にギャグ王国へと向かった。

職務上の大事な話があるからと、ギャグ王国城内で広い客間に通されていたライトだったが、好奇心を抑えきれずに客間から抜け出したところで、1人の少年の姿を見かけた。

自分とそう変わらないだろうその少年は、優しい色の淡い栗色の毛先を顔周りに纏わせ、大人が着るような一目で仕立てが良いと分かるジャケットにパンツを身に付けて、そしてまるで大人のように、ひどく不機嫌そうな顔をしていた。


(なんだ?何がそんなに、気に入らないんだ?)


「ねぇ、キミ」


気づくとライトはそう、少年に声を掛けていた。


「誰?」


不機嫌さを隠そうともせずに、少年は立ち止まるとライトを見た。

日に焼けた健康そうな肌。

人懐こそうな笑顔には、片頬にえくぼがある。

そして、興味を持って自分に向けられた黒い瞳は、おそらくは本人の性格がそのまま表れているのであろう、まっすぐな瞳。


「おれ、ライト。将来のロマンス王国の騎士団長だ!」

「・・・・そ」


興味の欠片もなさそうな声でそう言うと、少年は再びライトから視線を外して歩き出す。


「え?・・・・おいっ!」


慌てて少年を追いかけその腕を掴むと、ライトは言った。


「名前くらい教えてくれよ」

「ヒスイ」


ボソリと呟き、少年-ヒスイはライトの腕を振り払おうとする。

だが、服の上からでも分かる細い腕の少年の力では、日ごろ鍛えているライトの手を振り払う事などできるはずもなく。


「なぁ、ヒスイ。暇ならちょっと付き合ってくれよ」

「暇じゃないんだけど」

「お茶もお菓子もあるから、さ。ほら、こっちこっち!」

「・・・・はぁ」


話し相手を得て嬉々としたライトに引きずられるようにして、ヒスイは客間へと連れ込まれた。


「なぁ、なにかあったのか?」

「なにか、とは?」

「さっきからずっと、ブスッっとした顔、してるだろ?誰かとケンカでもしたのか?」

「そっちこそ、なにかいい事でもあったの?さっきからずっとご機嫌みたいだけど?」


テーブルを挟んで向かい合い、ソファに身を沈めてヒスイは呆れたような目をライトに向ける。


「いや?別に普通だけど」


キョトンとした顔で首をかしげるライトに、ヒスイは目を丸くした。


ヒスイの父親は、ギャグ王国の重臣として重職についている。

その関係で、しばしば城に出入りしているギャク王国の2人の王子とも、顔見知り程度にはなっていた。

年の近い2人の王子は、子供ながらも王族としての意識を持っているからだろうか、いつ見ても笑顔を浮かべてはいるものの、目の前のライトのように、真っ直ぐな思いをいきなりぶつけてくるような事は無い。

ヒスイが放っておいてほしい雰囲気を纏わせていれば、それ以上は近づいてはこないのだ。

・・・・下の王子の方だけは稀に、分かっていて近づいて来るような時も、あることはあるが。


(そうか、あの2人は意外と賢かったのか。だから僕のことを放っておいてくれていたんだな)


ふとそんな事を思いながら、ヒスイは言った。


「僕もこれが普通だけど」

「なんで?」

「・・・・なんで、とは?」

「もっと楽しそうな顔、すればいいのに」

「楽しくもないのに、それこそなんで楽しそうな顔なんて、する必要があるの?」

「楽しくないのか?じゃあほら、これ食べろ。さっき食べたんだけど、美味しかったぞ」


そう言って、ライトは片頬にえくぼのある笑顔を浮かべながら、ヒスイにお菓子のひとつを差し出す。

自分には無い、ライトから滲み出る真っ直ぐなやさしさが、なぜかヒスイの癇に障った。


「うるさいなっ、何も知らないくせに!僕のことは放っておいてよ!」


ライトが差し出した菓子を手で邪険に振り払うと、ヒスイはソファから立ち上がった。

そして、そのまま客間から出ようとしたヒスイを、ライトが慌てて追いかける。


「なんだよ、どうした・・・・わっ!」


背後から近づいたライトに、ヒスイの体が自然と反応し、気付けばライトの体は床に叩きつけられていた。



※※※※※※※※※※


思いも寄らない展開、だったのではないでしょうか?

私は、2人のことももちろんずっと見守ってきましたから、予想はできておりましたけれど。

ただ、見守ることしかできないこの状況は、さすがにハラハラしましたのよ。

少し長くなりそうですので、今回はこのあたりにいたしましょうか。

続きは、また。

よろしければ、聞きにいらしてくださいな。

それでは、ごきげんよう。

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