第27話 ヨーデルの恋? 1/2

ごきげんよう。

今日もいらしてくださって、嬉しいですわ。

ふふふ・・・・あら、ごめんなさいね。

最近、微笑ましい事がございまして、つい。

先が楽しみと申しますか・・・・

え?あなたも、お知りになりたいですか?

まだ、どうなるか分からない、若い2人の恋のお話。

私はとてもお似合いだとは思うのですけれど、あなたはどう思うかしら?

そうですわね、私はあなたがどう思われるかがが、とても気になってきてしまいました。

では、今日はこのお話にお付き合いいただけますか?

ヨーデル様の、新たな恋の始まりになるかもしれないお話に。



※※※※※※※※※※



「よぉ」

「あら、ヨーデル様。おはようございます」


ギャグ王国城内。

ユウから呼び出しを受けていたヨーデルは、城に入ったところで見覚えのあるメイドと顔を合わせた。

そのメイドは、他の若いメイド達とは異なり、ヨーデルを見たところで特に態度を変える事はない。

それどころか、おかしな行動を取れば即座に容赦のない言葉を投げかけて来る。

最初こそ営業用の甘い笑顔を見せていたヨーデルだったが、このメイドにだけは、いつの頃からか素の態度で接するようになっていた。


「ああ。おはよう」

「どなたかにご用でいらっしゃいますか?」

「ああ。ボンクラ王子に呼び出しくらっててな」

「どちらのボンクラ王子ですか?」

「下の方だ」

「そうですか」


ミルクティー色の長い髪を三角巾で覆っているメイドは、ニコリともせずにそう言うと、王子たちの私室の方へ手を向ける。


「私室にいらっしゃいますので、どうぞ。ご案内は・・・・必要ございませんわね。後程お茶をお持ちいたします」


ヨーデルに向かって軽く一礼すると、メイドはそのまま城の奥へと行ってしまった。


「キャーキャーうるさいのも面倒だが・・・・あんなに愛想が無いメイドも珍しいな。その割に、面白いし」


そう呟いて小さく笑うと、ヨーデルはユウの私室へと向かった。



「まぁ、落ち着いてるように見えたよ。国民の中にももう、それほど不満は無いみたい。ただ、未だに【ヨーデル親衛隊】みたいな人たちは、残ってはいるけどね。それでも、革命起こして国を取り返そう、みたいな動きは見られなかったよ」

「そうか、それは良かった」

「旗頭が居ないんじゃ、【ヨーデル親衛隊】も動けないだろうし。何よりヨーデル自身が望んでいないって、ちゃんと伝えているから、きっと大丈夫だと思う」

「ああ、そうだな」


俯き加減に長めのブルーブラックの髪で目元を隠し、唇に薄っすらと笑みを浮かべて、ヨーデルは小さく頷く。

定期的に、このギャグ王国第二王子のユウには、自分の祖国の様子の確認を依頼していた。

結界師の力を持つユウは、結界の外に出てもそれほどの危険は伴わない。

そして、両王国で唯一、ヨーデルの祖国が奪われる瞬間に立ち会った人間であり、この結界内に自分を招き入れた張本人であるから。

ユウはヨーデルにとって、両王国内で一番心許せる存在でもあった。


「失礼いたします。お茶をお持ちいたしました」


話がひと段落したちょうどその時、先ほどのメイドが紅茶と菓子が乗ったトレイを手に部屋の中に入って来た。


「ありがとう、ミャー。そうだ。ミャーも一緒にお茶しない?」

「ご冗談を。私は今仕事中です」

「えー、でもあとは兄さんの部屋の片づけだけで」

「あのとっ散らかし王子の部屋の片づけが一番時間がかかるので」


ヨーデルとユウの前に手早く紅茶と菓子を置きながら、相変わらず真顔でそんな言葉を吐くメイドを、ヨーデルはマジマジと見る。


(仮にも王子に【とっ散らかし】って・・・・ま、確かにあいつの部屋はいつでもとっ散らかっているが)


「・・・・何か?」


ヨーデルの視線に気づいたメイド-ミーシャが、小首を傾げてヨーデルを見る。


「いや・・・・面白いな、お前」

「面白い・・・・何が、でしょうか?」

「自分で気付け」

「は?」


ポカンと口を開けるミーシャに、ユウがたまらず吹き出す。


「もしかしてミャーって、自分が面白い事に気付いてなかったの?!」

「ですから、私のどこが」

「やっぱりさ、一緒にお茶しよう。これ、僕からの命令・・・・」

「お断りします」

「えーっ?!一応第二王子の命令だよ?!」

「やかましいっ!私には仕事が残ってるんじゃいっ!ボンクラに構っている暇は無いっ!」


ユウとミーシャのやりとりに、今度はヨーデルが腹を抱えて笑いだす。


「あっはっは!こりゃ傑作だな!最高のメイドがいたもんだ!」

「そこの毒舌大王もっ!」


キッと目を吊り上げ、ミーシャはヨーデルを睨みつける。


「気になる事を吹っかけておいて、【自分で気付け】とは何事ですかっ!失礼にも程がありますっ!まったく・・・・お茶のお代わりなんて、ありませんからねっ!」


憤懣やるかたない様子でミーシャは部屋を出て行った。

扉の向こうから


『まったく、面白いってなによ、面白いって。他に言う無いんかいっ!』


という言葉を残して。




※※※※※※※※※※


ヨーデル様は今でも祖国を気にかけておいでのようです。

本心では、ご自身の目で確かめに行きたいとお思いのようですが、さすがにそれは難しいということも分かっておいでですから、ユウ王子に依頼されているのでしょうね。


ところで私、時折思うのですが。

ミーシャもヨーデル様に負けず劣らず、『毒舌』ですわね。

ふふふ・・・・彼女だからこそ、許されてしまうのでしょうけれども。

かく言う私も、彼女の事を本当に愛おしく思っておりますのよ。

両王国の民は全て、愛おしいのですけれども、ね。

少し長くなりそうですから、今回はここまでといたしましょうか。

続きは、また。

よろしければ、聞きにいらしてくださいね。お待ちしております。

それでは、また。

ごきげんよう。

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