第12話 カーク王子の悩み 1/3

ごきげんよう。

またお会いできて嬉しいですわ。

私のお話は、退屈ではございませんか?

子供達などは、よく途中で眠ってしまうものですから。

聞き手の興味を引くようなお話をするということは、とても難しいものですわね。

目下のところの、私の悩みです。


そう。

悩みと言えば、ギャグ王国のカーク王子も、悩みを抱えていらっしゃるのですよ。

恵まれた容姿に恵まれた環境ながら、あの方にはあの方なりのお悩みがおありのようで。

今日はカーク王子のお話にいたしましょうか。

・・・・眠たくなってしまったら、我慢なさらずにお眠りくださいね。ふふふ・・・・



※※※※※※※※※※


「ユウ、入るぞっ!」

「も~兄さんったら。いつも言ってるけど、ノックくらい・・・・」

「なんだ?突然入られて困ることでもあるのか?」

「そんなの無いけど・・・・親しき中にも礼儀あり、って言うでしょ?」

「知らん」


きっぱりと言い切る兄に、ユウはやれやれと溜め息を吐く。

巷で自分がなんと言われているのか、この兄は知っているのだろうかと。


(『麗しの貴公子』の名が泣くよ、兄さん・・・・)


口さえ開かなければ、その身のこなしや見せる表情などは、さすが第一王子と唸るほどに、カークは品位に溢れている。

城から一歩出たとたんにスイッチが切り替わるのか、城の外でのカークの姿は噂通りの『麗しの貴公子』だ。

城の中でも、心を許した人以外の前では、貴公子然とした振る舞いをしているように見える。

ただ、残念なことに、本人にはスイッチを切り替えている自覚は皆無らしい。


(まぁ、僕はどっちの兄さんも好きだからいいけどさ)


「そんなことより、これ、おかしくないか?」


そう言うと、カークはユウの前でクルリと一回転してみせた。

良く見ると、カークはいつもよりも気合の入った服を身に付けているように見える。


「なになに、スーちゃんに会いに行くの?」

「・・・・そうだよ。だから、おかしくないかお前に確認してもらいに来たんだよ」


照れた様に口をとがらすカークはいつもの兄とは思えないほどに可愛らしく、ユウは嬉しいようなくすぐったいような気持ちでカークの服装を念入りにチェックし、GOサインを出した。


「完璧だよ、兄さん!」

「そうか、じゃ、行って来る!」


いそいそとカークはユウの部屋を出て行きかけ。


「ありがとな、ユウ」


そう言って、部屋の扉を閉めた。




(8年、か)


馬を走らせながら、カークはスウィーティーと出会った日のことを思いだしていた。

もちろん、周囲から掛けられる挨拶の声には、全て笑顔で挨拶を返しながら。


カークが初めて出会ったスウィーティーは、生まれたての赤ん坊だった。

その赤ん坊と目があった瞬間。

カークが契約する火の精霊が、忙しなく動き始めたのだ。

同時に、スウィーティーを守る様に取り巻く、水・風・土・木の精霊たちも、騒めき出した。

亡きロマンス王は、亡くなる直前、まだ王妃のチェルシーのお腹の中にいたスウィーティーに、精霊たちとの契約を移行したとは聞いていた。

代々、ロマンス王国には水・風・土・木の精霊の加護があり。

ギャグ王国には火の精霊の加護があった。

契約が結ばれるのはいずれも、王家の人間。

カークは父に同じく、幼い頃に火の精霊との契約を交わしていた。


(俺きっと、この子と一緒になるんだろうな)


澄んだ瞳で笑いながら自分を見上げる小さな赤ん坊に、10歳のカークは、直感的にそう思った。

とたんに、精霊たちが皆、落ち着きを取り戻す。

まるで安堵し、カークとスウィーティーの将来を温かく見守るかのように。


「カーク様。どうかスウィーティーを抱いてやってくださいな」


チェルシーに言われ、カークは恐る恐る、柔らかくて心許なく、小さくて温かくて愛らしいスウィーティーを腕に抱いた。


キャッキャと笑い声を上げ、スウィーティーはカークを見て笑っていた。


「まぁ、この子ったら。カーク様の事が大好きなようですわ。私以外に抱かれると、必ず泣き出してしまうというのに、こんなにご機嫌だなんて」


チェルシーは嬉しそうにカークとスウィーティーの姿を見つめる。


(キミも分かるんだね。俺達がいずれ一緒になるんだってこと。大丈夫、俺、絶対キミの事守るから。大事にするから)


いつの間にか5属性の精霊たちが2人を囲み、まばゆいばかりの光を放っていた。

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