第8話 ロマンス王国:ヨーデルの過去 1/3

はぁ・・・・なぜこのようなことに・・・・

はっ、せっかくあなたがいらして下さっているというのに、ごめんなさいね。

近頃、胸の痛くなるようなお話ばかりを耳にするものですから、つい。

でも私、このような争いの話を耳にしますと、どうしてもヨーデル様の姿を重ねてしまいますの。

あの方は、本当は・・・・

そうですわね。

今日は、ヨーデル様のお話をいたしましょうか。

実はヨーデル様はもともと、こちらの世界にいらした方なのですよ。

そう、結界の外の、こちらの世界に。

そのヨーデル様が、何故ロマンス王国へとやってくることになったのか。

それには、ギャグ王国のユウ王子が、とても深く関わっておいでなのです・・・・



※※※※※※※※※※


(参ったなぁ・・・・)


結界の外の世界の【王国】というものは、一体どのようなものなのだろう。

今後の為にも見ておく必要があるだろうと、珍しく真面目な理由で外に出たのが仇となったのだろうか。

ギャク王国第二王子のユウは、とある王国で不審人物として捕らえられ、薄暗い牢屋へ入れられていた。

視察先として選んだ国が悪かった。

その王国は、先代の王が病で急逝し、次期国王と目されていた王子を差し置いて、王の右腕とされていた大臣が王の座に就いたばかり。

その王位継承には黒い噂が絶える事が無く、あちらこちらで『現王派』と『王子派』の争いが勃発し、国中が揺れていたのだ。

そんな最中。

身分証明も何も持たず、フラフラと街中を歩いては街ゆく人に片っ端から情報を訪ねて回るユウは、不審人物とされても致し方の無い事だった。


(どうやって出ればいいかなぁ・・・・)


外に出る事さえできれば、ユウにとっては結界の中へ戻ることは容易い事だった。

幸いな事に、ここは結界の場所からそう遠くは無い。

そして、亡きギャク王妃の力を継いだユウは、身を護るための結界を張る術を心得ている。

本来であれば、国ひとつ覆うくらいの結界を張る力もあるのだが、今はその力は現王によって抑えられているため、せいぜい2人分の身を護るための結界しか張ることはできないが。

今回は情報収拾に夢中になり過ぎていてうっかり捕まってしまったものの、結界を張ってさえいれば、誰もユウに手出しをする事など出来はしないだろう。


「困ったな・・・・」


そう、ユウが呟いた時だった。

牢の入り口付近に複数の足音が近づいてくると共に、見張りの兵士があっけなく倒されたのが見えた。

直後、激しい爆音と共に、ユウのいる牢から少し離れた場所の壁が崩れ落ちた。


「早くここから出ろっ!」


誰かの掛け声が合図となったかのように、牢の中に囚われていた人たちが一斉に牢から逃げ出し始める。


(えっ?えええっっ?!)


呆気に取られていたユウだったが。

ハッと我に返ると、牢の扉に駆け寄り、扉に手を掛けた。


が。


「えっ?!なんで~っ?!」


外からの衝撃が、ユウがいた牢から少し離れすぎていたのか。

扉には鍵が掛かったまま。


「ちょっと、ねぇっ!ここ、開かないんだけどっ!ねぇっ、誰かいないのっ!」


思わず声を上げると。

牢の入り口を通りかかった1人の男が、ユウの元へとやって来た。

少し長めのブルーブラックの髪の間からのぞく黒い瞳が、殺気を孕んでユウを睨む。


「何をしているっ!早く逃げろっ!」

「だから、ここ開かないんだってばっ!」


チッと舌打ちをひとつ。

男は牢の入り口で倒れている男の手から鍵を取ると、戻って来てユウがいる牢の扉の鍵を開けた。


「ほら、早く出て・・・・」

「ヨーデル様っ!」


ユウが扉を開けて出た直後。

1人の兵士が男の元へと駆け寄って来た。


「ここはもう危険ですっ!早くお逃げください!」

「・・・・わかった」


小さく頷くと、ヨーデルと呼ばれた男はユウの腕を掴んで言った。


「お前も来い」


そして、返事も待たずに走り出す。


(・・・・えぇぇぇっ・・・・ウソでしょ~・・・・)


引きずられるようにして、ユウも牢を後にしたのだった。




「殿下、口惜しい事ではございますが・・・・どうやらこれまでのようでございます」


ヨーデルに連れて行かれた場所で、ユウは部屋の片隅に座らされていた。

このままここから逃げ出して、さっさと結界の中に戻ってしまおうかとも考えたものの、今この国で起こっている事をもう少し見てみるのも悪くはないだろうと、ユウはその場にいる人たちの話に耳を傾けた。

もしかしたら、今ここで起きている事と同じ事が、この先結界の中の王国で起らないとも限らない。

今は平和な結界内の王国も、結界を張る前には大きな危機があったと、ユウは父から聞いていた。

この世に【絶対】など無いのだと。

それは、父が日ごろから口を酸っぱくして言っている言葉だ。


(殿下?ヨーデルは、殿下?ということは、この国の王子ってこと、だよね?もしかしてヨーデルは、この国を取り戻そうとして・・・・)


ユウもただ捕まった訳ではなく、捕まるまでの間には結構な情報を得る事に成功していた。

なんせ、ユウは人たらし・・・・いや、人心掌握術に長けている。

『天然浮気者』などと呼ばれるくらいに。


(やっぱり、大臣にこの国を乗っ取られた、ってことなのか。そういえば、いつか必ず殿下がこの国を取り返してくれるはずだって、『王子派』の人が言ってたな。そっか、だからヨーデルは・・・・)


集めた情報を元に、部屋に集う兵士が口にする言葉を整理していると。


「オディールは・・・・?」


部屋の中を見回していたヨーデルが、そう呟くのが聞こえた。

とたん。

すぐ側に控えていた兵士の顔が、歪む。


「残念ながら・・・・申し訳ございませんっ!」


瞬間。

ユウには見えてしまった。

ヨーデルの純白な美しい魂が、憎しみと哀しみの色に覆い尽くされていく様が。

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