第6話 ギャグ王国:とあるメイドのお話 1/2

ごきげんよう。

今日は随分と早い時間にいらしたのですねぇ。

え?いえいえ、迷惑という訳ではございませんのよ?

このような早い時間ですと、なにやら空気も澄んでいて気持ちが良いですわね。

そうですわ。

早起きと言えば、メイドたち。

ロマンス王国にもギャグ王国にも、それはたくさんのメイドがいるのですけれど、中でも私がとてもお気に入りのメイドが、ギャグ王国に1人、いるのです。

もう勤め始めてから長いのですけどねぇ・・・・初々しさが残る、色々な意味でとても可愛らしいメイドですのよ。

今日は、そのメイドのお話にいたしましょうか。



※※※※※※※※※※


頭につけた三角巾をキリリと結わきなおし。

ミルクティー色の長い髪をキュッと首元で結びなおす。

これは、自分に気合を入れるための、毎朝のルーティーン。

スゥッと大きく息を吸い込み、お腹に力を入れ。

ミーシャはスヤスヤと気持ちよさそうに眠っているギャク王国の第一王子カークの側で、叫ぶような声を上げた。


「カーク様、起きてください!起床の時間にございます!」

「う、う~ん・・・・スーちゃん、だめだってば・・・・」


ギャグ王国、王子付きのメイドのミーシャは、7歳で母と共に王国のメイドになってからもう10年が経っている。

その母がとある事情で他界してから、8年。

王子達のご指名で王子付きのメイドになってからも、8年。

だが。

今のところ、王子たちを1度で起こせた試しが無い。


「カーク様!」

「スーちゃ~ん・・・・俺の可愛い天使・・・・」

「わっ!」


ベッドの死角から突然ニュッと出て来たカークの手に腕を取られ、ミーシャはそのままカークの眠るベッドに倒れ込んだ。

だが、これはもう、毎朝のルーティーンのようなもの。

ミーシャは小さく『失礼』と呟くと、空いた片手でカークの頭をひっぱたく。


「いい加減起きろっ!毎朝毎朝こんなくだらんことに時間を取らせるなっつーのっ!」

「いてっ!わっ!!」


頭部への刺激に目を覚ましたカークは、慌てた様に掴んでいたミーシャの手を放り出し、ベッドの上のミーシャを押しのけると、元々吊り気味の目をさらに吊り上げ、ミーシャを睨む。


「なんだよ、ミャーっ!俺の寝込みを襲うなっ!俺は心も体もスーちゃんだけのものなんだからなっ!」

「誰が襲うかっ!己のベッドに私を引きこんだのはおんどれじゃっ!セクハラで訴えたろかっ?!」

「えええっ?!俺がっ?!」


目を大きく見開いて、カークは信じられない事を聞いたかのような顔で自分の体を抱きしめる。


「寝ぼけていたとはいえ・・・・ごめんよ、スーちゃん。でもこれは浮気なんかじゃないんだ。信じてくれ!」

「・・・・はいはい。どうでもいいけどさっさと起きてお支度してくださいね。私はこれからユウ様を起こしに行くんで」

「ミャー!絶対絶対、スーちゃんにだけは言わないでっ!」

「・・・・はいはい」


カークの悲痛な叫び声を右から左へと聞き流すと、ミーシャはカークの私室を後にし、ユウの私室へと向かう。


(毎朝毎朝よく凝りもせず・・・・つーか、私への謝罪は無いんかいっ!ほんと、いつかセクハラで訴えてやろうかしら)


ふぅっと大きな溜め息をひとつ。

ミーシャはユウの私室の扉をノックし、部屋へと足を踏み入れた。


「ユウ様・・・・あれ?」


ベッドにユウの姿が無いことに気付き、ミーシャはすぐさま部屋の中の捜索を始める。

カークがほぼ100%自室のベッドで休むのに対し、ユウが自室のベッドで休んでいるのは、およそ50%。

つまり、半分はベッド以外のところで寝てしまっている、ということだ。


「今日は、どこなのよ~!」


パッと見る限り、ユウの姿は見当たらない。

ソファの上、デスク周り。

そんな簡単に見つかる所で寝てくれているのであれば、ミーシャも毎朝これほど苦労することは無いだろう。


クローゼットを開き。

ベッドの下を覗き込み。

ふと思いついて、ミーシャは『物置部屋』とユウが呼んでいる小さな空間へと足を運んだ。

そこは、ユウが結界の外からの珍しい土産物を陳列している、お気に入りの場所。


「・・・・いた」


思った通り、ユウはその小さな空間の中で、体を丸めて眠っていた。

手に持っていたものを抱きしめる様にして。


「ユウ様、起きて・・・・」


起こそうと手を伸ばしたミーシャの手が、思わず止まる。

近づいて見たユウの頬には、涙の跡が残っていた。


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