海編

第20話 もぅ、最近の誠司は積極的すぎ! ドキドキしちゃうじゃない!

 

 その日、僕は実家に帰って来ていた。

 夏が本格的に始まり、大学は夏休みに入っていた。

 父さんから手紙が届いたのは夏休みに入ってすぐのことだった。手紙の内容から、どうやら僕にお見合いをさせるつもりらしい。

 もちろんお見合いなんてするつもりはない僕は久しぶりに実家に帰って来ていた。


「おかえりなさいませ。お坊ちゃま」

「ただいま」


 玄関先でメイドの美緒さんに出迎えられた。

 相変わらず年を感じさせないほど美しい人だな。

 美緒さんは長年僕の家に仕えてくれているメイドさんだ。

 今年で五十歳くらいだったと記憶している。


「父さんは?」

「書斎におります」

「ありがとう」


 美緒さんに見送られながら僕は書斎に向かった。

 扉をノックして、父さんがいるか確認する。


「帰ってきたよ。入ってもいい?」

「入っていいぞ」


 書斎の中から父さんの声が聞こえてきたので扉を開けて中に入った。


「久しぶりだな。誠司」


 読書中の父さんは本を閉じて僕の方を見た。


「久しぶり。で、何なのあの手紙?」


 久しぶりの再会もそこそこに僕は単刀直入に聞いた。


「ああ、届いたのか」

「俺、お見合いんなんてしないからね」

「なんだ。好きな人でもできたのか?」

「……そ、そういうわけじゃないけど」

「その言い淀む感じは、いるんだな。好きな人が。まさか、彼女でもできたのか?」


 父さんは目を細めてニヤッと笑った。


「で、できてはない」

「なんだ。つまらん」


 僕はまだ彼女ができていないと知った父さんはつまらなそうに机に頬杖をついた。


「とにかく、お見合いなんてしないからね」

「ああ、あんなのはただの口実だから気にするな。まさか父さんが本気で誠司にお見合いをさせると思ってたのか?」

「そりゃあ、手紙が届いたらそう思うでしょ」

「こうでもしないと誠司はなかなか家に帰ってこないじゃないか。父さんは寂しいんだ」

「子供か」


 そういえば、実家に帰ってくるのはいつぶりだろうか。 

 母さんが死んでからは、あまり実家に寄り付かないようにしていたから、随分と久しぶりな気がする。


「分かったよ。ちゃんとたまには帰ってくるようにするから」


 もう少し心がざわつくと思ったが案外そうでもないな。

 決して母さんのことを忘れたとかそういうわけではなく、少しは心が成長したってことなんだろうな。

 あの二人のおかげか?

 二人の顔を思い浮かべ自然と口元に笑みが浮かぶ。


「好きな人のことでも思い浮かべてるのか?」


 ニヤけてしまっていたらしい。

 父さんにからかわれた。


「そんなんじゃないって」

「別に隠さなくてもいいだろ。いるんだろ? 好きな人が。誠司のその顔は母さんによく向けていた笑顔だからな」

「そんな風に笑ってた?」

「ああ。父さんにはお見通しだぞ」


 父さんは年甲斐もなく僕に向かってウインクをした。


「そっか」


 僕は今、母さん(大好きな人)に向けていた笑顔をしていたのか。


「その顔が見れてよかったよ」


 ウインクからの微笑みはズルいな。


「父さん。心配かけてごめん」


 父さんにはかなり心配をかけていたからな。

 うん。これからはちゃんと定期的に帰ってこよう。


「子供が親に心配かけるのは普通のことだ。謝ることじゃない。それに父さんとしては元気そうな顔が見れて満足だよ」


 そう言って父さんは微笑んだ。


「ま、話はそれだけだ。ゆっくりしていくといい」

「母さんのお墓に行ってくるよ」

「そうか。じゃあ、今日はもう帰るのか?」

「うん。待たせてる人もいるし」

「なっ! やっぱり彼女ができたんだろ!」

「まだ、そんなんじゃないって」


 目を丸くして驚いている父さんにニヤッと笑い返すと、僕は書斎を後にした。

 ゆっくりと家の中を見て回るのはまた今度にしよう。そう思い玄関に着いたところで美緒さんに呼び止められた。

 

「坊ちゃま。こちらをどうぞ」

「これは?」

「ご主人様からです。手土産だそうです」

「やっぱり気づいてたのか。なら、言ってくれればいいのに」


 まったく、食えない人だな。 

 僕は美緒さんから手土産を受け取った。中身はプリンだった。


「ご主人様はそういう方ですから」

「そうだね。父さんはそういう人だったね。じゃあ、またね。父さんにありがとうって伝えといて」

「かしこまりました。伝えておきます。ところで、お坊ちゃま」

「ん?」

「家のそばに停まっている車に乗ってらっしゃる女性といつ子供を作る予定で? 私も早くお坊ちゃまの子供が見たいですよ」


 美緒さんは僕にからかいの笑みを向ける。

 なんで僕の周りはからかう女性しかいないんだ! 

 そういえば、母さんもよく僕のことをからかってたな。

 母さんにからかわれていた日々を懐かしいと思いつつ、僕は「まぁ、そのうちね」と美緒さんに言った。


「あら、まぁ。お坊ちゃんがそんなことを言うなんて・・・・・・」


 僕をからかった美緒さんは、なぜか目に涙を浮かべていた。


「なんで泣いてるの?」

「奥様が聞いたら、なんて言うか・・・・・・」

「さぁね。それを今から伝えに行ってくるよ」

「そうですか。行ってらっしゃいませ。お坊ちゃま」


 美緒さんに見送られ家を出ると近くに停まっている水色のポルシェの助手席に乗った。


「お待たせしました」

「もういいの?」

「はい」

「それで、どうなったの?」


 奈美さんが心配そうな顔で僕のことを見つめてきた。 


「どうって?」

「お見合いよ!」

「ああ、もちろんしませんよ」

「ほ、本当に?」

「はい」

「よかった〜」

「僕がお見合いをすると思ってたんですか?」

「うん」


 奈美さんはこくっと頷いた。


「しませんから安心してください。てか、こんなすぐそばに魅力的な女性が二人もいるのにお見合いなんてすると思います?」


 僕がそう言うと奈美さんは頬を赤く染めた。


「わ、分からないじゃない! ほら、美人は三日で飽きるって言うし」

「たしかにお二人は美人ですけど、三日で飽きるほど魅力のない女性ではないでしょ?」

「もぅ、最近の誠司は積極的すぎ! ドキドキしちゃうじゃない!」

「あはは、ごめんなさい。調子に乗りました。それじゃあ、行きましょうか」

「絶対に後でからかうんだから!」


 そう言って頬を膨らませた奈美さんは母さんのお墓がある場所へと車を走らせた。


 母さんはこれから僕が伝えようとしてることを聞いたらどんな顔をするだろう。

 険しい道のりだけど頑張りなさいと励ましてくれるだろうか。

 それとも、楽しそうな人生になりそうねと微笑むらだろうか。 

 何にしても母さんが否定する姿は想像できなかった。


 この先の未来がどうなるかなんて分からない。もしかした、奈美さんも響子さんも心変わりをするかもしれない。

 それでも受け入れていこうと思った。

 僕のことを好きだって言ってくれてる二人の気持ちを。


☆☆☆


終わりみたいな終わり方ですがまだまだ続くのでご安心を!笑


そんなわけで久しぶりに

週間ランキング10位に入りました〜✨


皆さまが読んでくださっているおかげです😭

ありがとうございます!

これからも、面白い、キュンキュンすると思ってもらえるような話を書き続けますので、

応援よろしくお願いします✨

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