第6話 農業をはじめよう

「異世界の知識をどう活かすかだよな……」



 俺は畑を耕しながら、新しく得た知識に関して考えていた。ソウズィの炉はボーマンが今様々な実験をしており、つきっきりで色々なものを作成している。

 その一つがこのクワである。ちなみにこれは従来は木で作ってあった刃の部分を鉄に変えた俺考案の新型のクワである。非力な俺でも硬い土を掘れる優れものなのだが、『世界図書館』で調べると色々とやばい事が発覚した。



「実験でこれかよ……やばいな……」

「何がやばいんですか、マスター?」



 俺の独り言に反応があった。声の方をみてみるとお盆にコップをのせたガラテアがこちらに歩いてくるところだった。



「マスターお疲れ様です。お水をどうぞ……」

「ああ、ガラテアか、ありがとう」



 俺は水を持ってきてくれたメイド服姿のガラテアに礼を言う。ちなみにこの服の趣味は俺のものではない。彼女が主に仕えるものの礼儀ですといって着てきたのだ。これって絶対ソウズィの趣味だよな……娘にこんな服を着せるって変態じゃ……考えると何か闇の深いものを感じたので俺は質問に答える。



「ああ、このクワなんだが見てみて気づくか?」

「これは……かなり質の良い鉄を使用してますね」



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鉄のクワ+30 農工具の一種。ただし、使われている鉄の純度がかなり高いため品質は一般的なものと比べると高性能

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 流石ボーマンというということだろうか、鉄のクワの横にある+という数字はこの世界での一般的なものに比べた数字である。



「さっすが、ガラテア。見る目もあるな。このクワはこの世界の一般的な物よりもはるかに質が高いんだ。俺のクソ長兄が、初めて戦に勝った時に授かった我が王家に伝わるミスリルの剣が+15だぜ。その二倍質が良いんだ。もはや国宝級のクワだよ」



 まあ、このクワはボーマンがもってきた選りすぐりの鉄を使っているから、量産したらこうはならないだろうが、それでも十分やばい。

 実際これを使うと硬い土でも泥の様に掘れる事もあり、非力な俺でもすでに畑を一つ完成させてしまったくらいだ。これさえあれば開拓は相当楽になるだろう。



「あの炉とボーマンが合わさるとまじでやばいな……」



 ちなみに、この炉でヴィグナはミスリルの剣を打ち直してもらったのだが、切れ味がすごいあがったらしく、楽しそうに「こんなに斬れるのよ」って言いながら近くの木々を切断していた。やべえよ、あの剣とあの女。環境破壊って言葉を知らないのだろうか?



「それで、マスターの方は順調ですか? 私の方もお手伝いをできればいいのですが……」

「いや、ガラテアには色々やってもらってるからな、これくらいは俺がやらないとな、マジで口先だけのバカ王子になってしまう」



 ガラテアの申し訳なさそうな言葉に、俺は気にするなとばかりに笑って答える。ガラテアは家事全般は得意なのだが、細かい作業は苦手なのだ。よくはわからないが、インストール? されていないプログラム? に関しては力加減ができないらしい。

 まあ、よくわからんが、魔力が無いから魔法を使えませんよ的な感じだろう。



 ここを拠点とすることに決めた俺達はまず生活環境を整えることにしたのだ。ボーマンが建物の最低限の修理をして日常で使う工具の作成、俺が畑を作り食料の確保、ヴィグナが魔法で土壁を作り魔物からの襲撃に備える。


 要は衣食住を整えるのだ。衣類は近隣の街から買うとして、食も魔物を食べるだけではきついからな。魔法も使えず戦闘で使えない俺が畑を作っているのである。改めて見ると農民すげーなって思うよ……



「マスターが植えているのはなんなんでしょうか?」

「馬鈴薯だよ、過酷な環境でも育ち、根を張るために踏まれても強い。異国では主食とされている食料だ。わが国では小麦が主食だけどこういう所では馬鈴薯の方がいいんだ。」

「なるほど……マスターは博識ですね」



 これは俺が『世界図書館』を使い辺境でも育ちやすい植物を調べた結果手に入れた知識だ。この世界に関してならば城内でひたすら本を読んでいた俺の知識も大量にストックされている。

 それにしても、結局異界理解度ってなんだろうな? あの後、ガラテアや、銃に触ったが何の変化もなかったよな。



「いやいや、俺なんてまだまだだよ、これだけ耕すので精いっぱいだからな」

「フフフ、苦労してできた作物は別格と我が父も言っていましたよ」

「へぇー、意外だな。ソウズィもこんなことやってたのか」

「はい、趣味で肥料などを使って家庭菜園などをしてましたよ」



 狂王ソウズィってどんな人物なんだろうな。メイド服好きで家庭菜園が趣味か……と俺は疑問に思いながら聞きなれない言葉に気づく。



「なあ、肥料ってなんだ?」

「申し訳ありません、私も詳しくは……」

『異世界にて植物を生育させるための栄養分として人間が施すものです。動物の骨や糞などが使われます』



 申し訳なさそうにするガラテアに、割り込むようにして『世界図書館』が答える。

 待った、なにそれ? 畑って基本的には水あげて、あとは神様に豊作を祈るもんじゃないの? というかさ……なんで聞いただけで異世界の知識が出てくるんだ?



『異世界理解度があがったため、理解できる範囲の異世界の知識の検索が可能になりました』

「まじかよ……」



 つまり、俺が異世界理解度を得るたびに、異世界のアイテムに触れなくても、単語が分かれば知識を手に入れるようになるって事か……

 ああ、だから世界図書館は『いずれはロボットも作れる』といったのか……今はよくわからないロボットや銃に関してももっと理解できる日がくるかもしれない。

 そして、今まで、何気なく行っていた事も異世界の技術を使って、より良く出来るかもしれないのだ。この能力よく考えたらやばくない?



「マスター、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。それよりもガラテア、一つお願いがあるんだが、昨日倒した火竜の骨をもってきてくれないか? ボーマンがばらしていたからまだそこらへんにあるはずだ」

「はい、おまかせください、マスター」



 俺がお願いをすると、ガラテアは嬉しそうに飛んでいった。さっそく手に入れた知識を使って畑を耕すことにしよう。それはさておきだ……


「なあ、世界図書館、ツンデレってどういう意味だ?」

『……』


 え、返事がないんだけど、そんなに高レベルな単語なの? 俺は突っ込みながらガラテアと一緒に農作業をするのだった。

 この時の俺は気付いていなかったのだ、異世界の知識とこの世界の知識を合わせることによって、予想外の出来事が起きる事を……

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