第5話 ソウズィの遺産

ガラテアに案内されてついたのは何もない小部屋だった。何もないぞと言おうとすると、彼女はその部屋の壁に触れる。



「一体何を……」

「離れてくださいマスター」

 


 その一言と同時に床の一部が轟音と共に動くと、その先には下へ潜るための階段があった。



「おお、隠し通路か……いいな、秘密基地って感じでテンションあがるぜ!!」

「だいぶ本格的じゃのう。わしもわくわくしてきたぞ」

「お二人からドキドキを感知致しました。ご期待を超える事を保証致します」



 興奮している俺達に、ガラテアも嬉しそうに、そして少し自慢げに、そんな事を言いながら俺達はガラテアについていく。しばらく通路を歩くと扉が見えてそれを開くと同時に、まばゆい輝きに包まれる。


 

「これはなんじゃ……? まさか、炉か!! じゃが、こんなの見たことないぞ!!」



 そこには見たこともない素材で作られた巨大な円形の置物があった。何かをいれるための扉に、煙突のようなものが天井を貫いて伸びている。

 ボーマンが興奮した様子で炉の方へと駆け寄り、色々と触り始めた。ボーマンがそんな声を上げるのも無理はない。だって、こういう炉って普通レンガとかじゃないのかよ? どう見ても金属とかなんだが……俺も慌てて、炉の方に駆け寄りそれに触れる。



『宗次の炉 狂王宗次が異世界の知識を使い造らせた炉。温度を調整し、信じられない程の高温にも耐える事ができる』



「あー、なんかこれ、高温にも耐えれて、温度も調整できる炉みたいだぞ」

「本当か!! 坊主!! これなら今まで加工できなかった金属や、できなかった実験ができるぞい!! やっぱりお前さんについていって正解じゃったな!! ソウズィの遺物にあえるなんて夢の様じゃ!!」



 興奮した様子でそう言うとボーマンは子供の様に目を輝かせながら、背中に背負っていた鞄から様々な金属を取り出した。やたら荷物を持ってきたとおもったらそんなもん持ってきたのかよ。



「これってそんなにすごいのか?」

「当たり前じゃろうが!! 今までは炉を高温にするのにも魔術師の力を借りたり、温度を維持するのにずっと監視をしていたりとすごい大変じゃったんだぞ、これさえあれば、今まで理論だけであきらめていたこともできる。坊主楽しみにしておれ!! これが世界を変えるぞ!!」



 そう言うと彼は炉をノートにびっしりと書かれた文字を読みながらぶつぶつとつぶやき始めた。あー、だめだこりゃ、完全に自分の世界に入っちゃったわ。



「マスター、嬉しそうですね。喜んで頂けて私もうれしいです」

「ああ、ボーマンはこうなるともう他の事が目に入らなくなるからなぁ……でも、こんなに生き生きした姿は久々に見たよ」

「いえ、ボーマン様だけでなく、マスターからも嬉しいを感知しておりますよ」

「え……ああ、そりゃあね……親であり、師匠みたいなもんだからなぁ。こんな顔を見れば俺も嬉しくなるさ」


 

 俺が『世界図書館』に目覚め父や兄が失意に満ちた目で見てきた時も、彼だけが祝福をしてくれたのだ。お前の力はすごいぞと、儂は羨ましいと……

 そう言われて嬉しかった俺は暇な時間には彼の工房へ遊びに行ったものだ。その時も、忙しいだろうに俺の話を聞いてくれたり、金属でできたおもちゃを作ってくれたりと、冒険していた時の話を教えてくれたりと、いろいろと面倒を見てくれたのだ。

 だから彼が喜んでくれるのは素直に嬉しい。俺が自分のスキルに価値を見出せたのも彼の存在が大きいのだ。



「マスターにはこれを……父からです」



 そう言って彼女が指さす先には金属で作られた机の上に手紙と木の箱が置いてあった。俺は手紙を手に取り読んでみる。



『この手紙を読んでいるという事は私はもう生きてはいないのだろうね、我が娘ガラテアが連れてきた君が私と同じ異世界からの転移者なのか、現地人なのかはわからない。

 だが、彼女が認めた君に私がもってきた異世界の道具を託そう。どう使うかは君次第だ。私の世界にはなかった魔術やスキルといったこの世界の知識と合わせれば世界を革命する事すら可能だろう。

 そして、これはお願いなのだが、ガラテアの……私の娘の面倒をみてあげてほしい


鈴木 宗次』



 俺は目の前でニコニコと笑っているガラテアを見つめる。彼女が俺を認めた? 俺なんて、火竜が来てギャーギャー騒いでいたくらいしかないんだが……



「どうしました? マスターから困惑を感知したしました」

「ああ、その……ガラテアは何でここに俺達を連れてきてくれたのかなって」



 俺の質問に、彼女は一瞬目を見開いた後に少し恥ずかしそうにこう言った。



「それは……あなたが私を父と同じ様に、一つの個体として……住民として認めてくれたからです。それと、私はある程度ですが人の感情がわかります。あなたの周りの二人はあなたを心の底から、信頼しており、あなたもそんな二人を深く信頼していて、それが心地よかったからです。あなたといれば私もそんな感情を抱けると思い、マスターになってもらいました。改めて言うと恥ずかしいですね……マスターその箱を開けていただけますか? それは父が良く使っていた形見なのです」

「形見か……」



 彼女の指示に従い木の箱を開けると、金属の長い筒状の物体が置いてあった。これは置物か何だろうか? 俺はそれに触れてスキルを発動する。



『銃:火薬を用いて弾を飛ばす異世界の武器。強い殺傷力や破壊力を持つので、狩猟の道具などに使われる』

『また、一定の異界の知識を入手したので異界理解度のランクが上がります。異世界の事も検索可能になりました』



 世界図書館の言葉と共に手にある銃の情報だけでなく、使い方が脳内に入り込む。これが異界理解度が上がるという事か……もしかしたらガラテアや宗次の炉を触ればまた新しい情報が手に入るかもしれないな。



「しかし、これって武器なのか。弾を飛ばすって、弓みたいなもんなのかな」

「実際につかってみればわかると思います。ちなみにその銃は最初に触れた方しか使えません。マスターだけが使いこなせる強力な武器になるはずです」

「強力な武器か……剣も魔法も使えない俺にね……」



 俺は試しに銃を構えて、壁に向けて引き金を引く。幸い使い方は世界図書館が教えてくれた。すさまじい轟音と共に弾丸が放たれ壁に大きな穴をあけた。



「なにこれやば……」



 俺はいまだ自分の手の中で煙を上げている銃を持って冷や汗を流す。弓よりも強力で、魔術の様に詠唱もいらない。何よりもやばいのは初めて使う上に非力な俺でもまっすぐ狙い通りに弾が飛んだ事だ。

 確かにこれは世界を変える力かもしれない。魔術を使わなくても、これだけのものが作り出せるのだ。この異世界の知識とこの世界の知識をあわせれば……俺は……



「なあ、ガラテアはどんな世界がみたい?」

「そうですね……私はマスターの作る世界がみてみたいです。マスターが父の世界の知識を使ってどんな街を作るか気になります。きっとみんなが笑顔なにぎやかな街を作ってくれると思っています。」

「そうか……どんな街をつくるか気になるか……」



 そうだよな、別にソウズィの残した知識は武器だけじゃない。だったら俺は彼の世界の知識と俺の持つ知識を使って、何ができるか、どんな街を作れるか試してみるのがいいだろう。

 きっとそうして得た知識は世界を……世界の産業を革命する力になるだろう。



「ちょっと、今すごい音がしたけどどうしたのよ!! てか、ここって何なの?」



 銃の音で異変を感じ取ったのかヴィグナもやってきた。ボーマンは……まじかよ、あの音も耳に入っていないのか早速炉を使いながらなにやらぶつぶつ言っている。



 追放同然の俺についてきてくれたヴィグナやボーマン、そして、俺に父の遺産を託してくれたガラテア、彼女たちを見て俺は決めた。



「みんな聞いてくれ、ここに俺の街をつくるぞ。異世界の知識で始める街づくりだ」



 そうして、俺の物語がはじまるのだった。とりあえずは……衣食住を何とかしなきゃだけどな。




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領地情報

 領民:3名(ガラテア追加)

 

異界理解度 レベル2

(触れたものがどのようなものか、またどのように扱うか、及び、原材料に触れた際に低レベルならばどのように使用できるかを理解できる)

 


技術:異世界の鋳鉄技術

  :銃の存在認知

  :ロボットの存在認知

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