地味系リケジョの私がイケメン極道を助手に雇ったら超肉食系で雪だるまも溶けるほど愛を囁いてくるの! やめて! 私のハートが臨界しちゃう!

暮伊豆

道を極める男

儂の名は瀧川剛三たきがわごうぞう。泣く子も黙る関東一の広域指定大組織、極悪組の組長だった。

ちいっと昔話を聞かせたろう。


儂が数年前に始めた趣味。それは小説投稿サイト『小説家になったれや』で小説を書く事。それも本格任侠推理ものをな。主役モデルはもちろん儂。鏡、時計、密室。何でも利用してやった。だが百ptポイントを超えたことすらない。いつも感想欄には「リアリティがない」だの「ニートの妄想」だの書かれたもんだ。


儂の経験で書いたせいか?


だが、そんな泣かず飛ばずも今日までだ。儂はついにやった。

新作『地味系リケジョの私がイケメン極道を助手に雇ったら超肉食系で雪だるまも溶けるほど愛を囁いてくるの! やめて! 私のハートが臨界しちゃう!』が!

森の妖精社ラブラブラズベリー杯で大賞をとったんじゃあ!

孫娘が読んでたラズベリー桜子先生の作品を参考に書いたら儂の作風と見事にマッチしたようだ。


儂はやった! ゴルフにも行かず、ハワイどころか銀座にも行かず。執筆の邪魔をする対立組織だってしっかり潰した。

そうやって捻出した時間で! 儂はやったんじゃあ!


ペンネームは瀧川チェリー。尊敬する桜子先生から拝借した。背中の桜吹雪ともマッチした素晴らしいネーミングはさすが儂。一瞬チェリー瀧川にするか迷ったがな。


そして儂は呼ばれた。ラズベリー桜子先生の待つ森の妖精社本部ビル、受賞セレモニーに。


「親分、用意できやした」


「おう!」


手入れから帰ってきた紋付き袴。桜子先生に失礼があってはいかんからな。


「行き先聞いてるか?」

「いや分からねぇ。知らされてねぇ」

「よっぽどの大物と会うんだろうぜ」

「どうすんだ? タクシーを呼べってことだが」

「仕方ねぇだろ。ついて行ったら破門だぜ?」


いずれ儂がミリオン作家になって驚かせてやるからの。今日はその第一歩じゃあ。


車が来たか。行ったるぜ。森の妖精社にカチコミ、いやいや訪問か。


『いってらっしゃいやし!』


「おう!」


数百人の子分どもが見ている。待ってろよ。お前らの親分は日本一の小説家になったるからの。




で、どうなったかって?

受付で名刺を出したら別室に通されて、二十分後に逮捕されちまった。

瀧川チェリーだって信じてくれたのは収監後。もちろん受賞は取消し。だが担当は付いた。


久々に入ったが意外と刑務所ここは執筆に最適だな。

儂はやるぜ。ここで書き続けて再び大賞とったらぁ!

見ててくだせぇやラズベリー桜子先生!

あ、新刊と手紙の差し入れありがとうございやす!

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