第19話 戦


「父上、呑気に寝ている場合じゃありません。ハンナと戦争が起きそうです」


「ふあ……!?」


 エルレーン宰相は、相変わらずの激務に自分の椅子で失神する様に眠っていた。

 息子の爆弾発言に、覚醒したエルレーン宰相は飛び起きた。


「り、リンゼ!? 一体全体どういう事…………ああ、そうか。今回の婚約破棄で怒りを買ったのか……」


「すみません。僕がユリア王妃とデキているなんてデマを蒔いたから」

「……そうか…………。って! お前がっ!?」


 無表情で頷く息子に、驚きの色を隠せないエルレーン。

 しかし理由など、聞かなくてもエルレーンには分かっていた。

 エイミーの結婚を邪魔したかったのだろう。今はそこを言及してもしょうがない。起きてしまったのはしょうがないのだから。


「リンゼよ。お前のしでかした事は最早もはやハイライン家の失脚どころじゃ済まないぞ。イギルが消滅するに等しい行為だ」


「そうですよね、イギルにはまともな兵士は居ませんから」


「ああ! とりあえず、お飾りの騎士団長に話をつけて、国の男を全員徴兵せねば。数だけでも揃えて……」


「父上、そんな事は不要です。それよりも、ハンナとイギルを繋ぐ街道へと諜報員を送って欲しいのです」


「そんな事!? お、お前は! 自分が起こした大惨事に、そんな事とはっ!?」


「父上、僕の読みが正しければ……僕が予想する兵士の特徴が当たっていれば、彼らをイギルに来る前に撃退出来ると思います」


「……なんだと?」


「なので、早く優秀な諜報員を騎士団長に頼んで寄越してください」


 動揺しているエルレーンは、嫌に冷静な息子の言う事を聞くのは癪だったが、確かに敵の情報は必要でリンゼにお飾りの騎士団の中でも比較的使える男を二名寄越した。


 そして、リンゼは二人に商人の恰好をさせて、その日の内にハンナ国へと潜入させた。



 ――三日後。


 二人の諜報員は無事に帰って来た。

 そして、リンゼが依頼した内容をしっかりと調べて帰って来てくれた。


 二人の結果は、リンゼの予想通りだった。


 それを聞いて、リンゼはまだソワソワとしている父親に自信を持って言った。


「ご安心ください! これなら勝てます!」


「……戦の国のハンナ三千の兵士に対して、イギルは根こそぎ動ける男を集めても五百人……どう勝つというのだ?」


「父上、知恵と知識は剣よりも強い事をご存知でしょうか? 僕はこの国の誰一人殺す事なく、この国の草花一つ踏まれる前に、彼らを追い返して見せます!」

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