第27話



「有罪!」

「有罪だ!! 死刑にしろ!」

「殺せー!!」


 感染した悪意がエイミーを追い詰める。

 耳を覆い、その場に俯く。


 困惑する裁判長、決して目線を会わせないジミル。


 ユリア王妃はこの状況にニンマリとし、それから自分が裁判長であるかの様に、威厳をもって念押しする様に皆に言った。


「それでは、エイミー・サウラ・イギルの裁判は終了で宜しいですね?」


「死刑!」

「死刑だ!!」

「早く殺せ!」


「近衛兵! 今すぐ、処刑台の準備を!」


 ユリア王妃が、壁に待機していた兵士に滞りなく指示をする。



 リンゼは理解した。



 ここまでがユリア王妃のシナリオだ。

 この裁判は、滞りなく公式にエイミーを死刑にするための通過点に過ぎない。


 真面目に法廷で競う気など、最初から全く無かったのだ。


「リンゼー!!」


 ハッと顔を上げると、エイミーが近衛兵に両脇を抱えられて、連れて行かれようとしている。


「姫様っ!」

「早くエイミーを処刑台へ! 国王と同じ様に剣で胸を突かれて殺されるが良い!」


 リンゼはたまらず、ユリア王妃の言葉を遮る様に両方の拳を天高く上げ、机を力いっぱい叩いた。



 バアン!! と音が響き、周囲が一気にシーンと静まり返った。



「――な、なんです?」



 突然の暴挙に驚くユリア王妃。

 拳を机に当てた姿のまま、表情の見えないリンゼ。


「リンゼ、いくら貴方が暴挙に出ても、もう反論は聞かな――」

「ここで、処刑して下さい」


 ザワリと、傍聴席からどよめき声がする。


「え?」


「もう処刑で結構ですから。ここで処刑して下さい」


「こ、ここで!?」


「ええ。皆さんが、私の主張を全く聞く気が無いのならば、これだけは譲りません。そして、死刑に賛同した傍聴席の皆さんにも、ぜひ処刑を見て貰いたい。だから、今、ここで姫様を処刑にして下さい!!」


「リン……弁護人。ここは神聖なる法廷ですぞ!」


 裁判長が慌てて反論する。


「裁判長……この偽りない真実を説く法廷の場で、偽りだらけの証言を繰り返す検察官と王妃達。……もう法廷ここは神聖な場所では無いのです」

「……なっ!」


「いえ、良いでしょう。責任は私が持ちます」


 ユリア王妃がそれを止めた。

 国王が亡くなり、エイミーが捕まっている以上、今のイギルの最高権威はユリアにあるのだから。


「ただし! リンゼ、お前がエイミーの息を止めなさい!」


 ユリアは嬉しそうに口角を挙げて、リンゼに言う。

 ユリアはきっと、ショックを受けるリンゼを想像したのだろう。


 しかし、リンゼはしれっと「良いですよ」と言った。


「え……?」


 その想定外の返事に口元が歪むユリア。


「けれど、こちらにも条件があります」


 リンゼは、指差した。


「僕は、あれで姫様を処刑致します!!」






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