第15話


 ジミルの紹介で、キューイと名乗る探偵と出会ったリンゼ。


「検察官の僕の仕事は証拠集めが基本でしょ? キューイはおおやけに僕が出来ないを調べてくれる凄腕の男なんだ」


 こげ茶の薄い髪を一つに括り、ベレー帽に深緑のサロペットを着た庶民風の中年の細身の男。その見透かす様に光る黒い三白眼に、リンゼは少したじろいだ。


「ジミルのお坊ちゃんにはいつもお世話になっています。今回はこのお坊ちゃんが依頼人ですかい?」


「こう見えて、ハイライン宰相の息子だから、僕よりも報酬は多く貰えると思うよ!」


「……こう見えて……?」


 報酬の事を出されて、キューイの目がギラリと光った。


「――で、あっしは何をすれば良いのでしょうかね?」


「ルイス王子とうちの国の姫様が結婚するのはご存じですよね?」

「へえ、イギルに住んでいたら犬でも知っている話ですね」


「大国の王太子であるルイス王子が、こんな小国の姫と結婚する理由を調べて欲しいのです」


 リンゼは思ったのだ。

 きっとユリアが縁談を持ちかけたのは間違い無い。


 しかし、この縁談はルイス王子にとってどんな利点があるのだろうか?


 彼は、ユリアから持ち出された条件を飲んで、エイミーと結婚する事を決めたのだ。


 結婚は国同士の結びつきに重要な役割を果たすが、こんな小国の姫よりもハンナにとって有益な国はいくつもある。


「報酬はジミルがいつも渡す三倍を渡します。どうでしょうか? お願い出来ますか?」


「!!」


 キューイは報酬額を聞いて、二つ返事で請け負った。

 キューイが去った後、彼を紹介したジミルは「いやぁ」と驚きの声を挙げた。


「君って何でも一人でやるタイプかと思えば、使えるものは使うタイプなんだね」


 驚くジミルに、リンゼは言った。


「そんな不効率な事していても、意味がないだろう? 自分が出来ない分野は誰にだってお願いするし、頭だって下げる。大事なのは『結果』だろう?」


「ふふ、キューイは僕のお墨付きの探偵だ。きっと良い返事をくれるよ」



 


 キューイに依頼をして四日経った日の夜。


 執務室で一人、忙しい父に代わって雑務をこなしていると、背後に気配を感じた。


 振り返るとキューイが立っていて、ベレー帽を取って頭を下げた。


「……旦那、お待たせ致しました。報告結果をお伝えしますので、先ずは報酬をお願い致します」


 リンゼはキューイに催促されるがままに、用意してあった報酬を手渡した。


「へへ、毎度。こちらにまとめておきました。ごゆっくり御覧下さい。何か不備や足りない所がありましたら、ジミル坊ちゃんを介して連絡をくだされば直ぐに飛んできますので」


 言いたいことだけを言うと、キューイは瞬く間に去って言った。


 流石、慣れた探偵だ。

 リンゼは仕事を止め、結果を見る。


 そして内容を見て驚いた。


 ルイスがエイミーを選んだ理由が、リンゼの思惑を逸脱していたのだから。 


 エイミーはハンナ国の正妃では無く、側室として迎えられると書いてあったのだ。


 一国の姫がただの側室に!?


 考えらえない、ふざけた待遇。

 この事をイギルの国民はもちろんの事、国王だって知らないだろう。


 そして、ルイスの後宮にはすでに側室が35人も居て、エイミーはその末席に加わるのだと書いてあった。


 リンゼは真実を知り、何が何でも婚約破棄をしなければと立ちあがったのだった。


 迫る結婚式までに!

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