第19話 2択

 ダナンがエミーリアについていくことを決めた後、村長のカースに事の顛末を伝えに来た。


「というわけで、僕はこのお姫様の配下になることにしたよ……短い間だったけど、世話になったね」


 ダナンの言葉に、カースは頭をポリポリと搔きながら返答する。


「そうか……まあ、もともとギブアンドテイクの関係だ。誰とつるむかは旦那の好きにしたら良い。こっちこそ世話になった……少し寂しくなるな」


 ダナンについて、命を懸けるほどの関係ではないと言っていたカース。とはいえ、それなりに情はあるのだろう、その口調は少し寂し気だった。


 そんな二人を見ていたエミーリアが、一歩前に歩み出てカースに提案する。


「ねえアンタたち、いっそのことアンタたちもまとめてアタシについてこない? 退屈はさせないわよ?」


 思ってもみなかったその言葉に、カースは驚いたような表情を浮かべた。


「おいおい正気かよ嬢ちゃん。魔王を目指してんだろ? 旦那を仲間にするのはわかる……そこの爺さんもな、傍から見ても桁違いの実力者だ。だが俺たちはただのつまらん野党だぞ? 戦力になんてならねえよ」


「数は力よ。今は一人でも多く兵が欲しい。それに……」


 チラリと背後に控えているローガンを流し見てからエミーリアは言葉をつづけた。


「ただの野党ではないでしょ?」


「……さて、なんのことだか」


「とぼけなくてもいいわ。ただの野党があれだけ統率の取れた動きができるわけないもの」


 カースは少し考えるような顔をして、やがてあきらめたようにため息をつく。


「ふぅ……降参だよ。嬢ちゃんにゃあ叶わねえな。確かに、俺たちはただの野党じゃない。女子供は違うが、それ以外の連中は皆訓練された兵士だ」


「やっぱりね、そうだと思ったわ。それで、アナタたちはアタシについてきてくれるのかしら?」


「……理由は聞かねえのか?」


 なぜ訓練された兵が野党に身を落としたのか、もちろん理由を聞かれるものだと身構えていたカースは拍子抜けしたようにそう言った。


「聞かないわ。過去になんて興味はないの……興味があるのはアナタたちの今と未来。アタシについてきて世界を敵に回す罪人となるか、それともこの村でつまらない野党として生涯を終えるのか……選んでちょうだい」


 世界を敵に回す魔王の手先となるか。


 それとも今のまま、野党としてくだらない人生を送るのか……。


「ふふ、どっちを選んでもろくでもねえな。なら、アンタについていった方が楽しそうだ」


 そう言ったカースは、何か吹っ切れたような清々しい表情を浮かべていた。


「よろしくな嬢ちゃん。部下ともども世話になるぜ」

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