第16話 村外れの小屋

 村の長、カースに連れられて二人は村の外にやってきた。


 てっきり村にダナンが匿われていると思っていたのだが、どうやら違うようだ。


「旦那は騒音を嫌う人でな、最初は俺たちと一緒に住んでいたんだが、あまり居心地が良くなかったらしい……今では村外れのボロ屋で一人暮らしだよ」


「なるほどね……しかし、ずいぶんあっさりと仲間の居場所を売るものね。あなた達には仲間意識なんてないのかしら?」


 挑発的なエミーリアの言葉に、カースは肩をすくめた。


「旦那とは互いにメリットがあるから付き合っているだけの関係だ。義理はあるが、命をかけて庇うほどじゃねえ」


 そう言ってカースはちらりとローガンを見る。


「爺さん、アンタはっきり言って異常だよ。こうして並んで歩いているだけでも鳥肌が止まらねえ……」


「褒め言葉として受け取って置こう。しかし随分とおしゃべりなんだな」


「なぁに、ビビってるだけさ。さっきから爺さんの殺気に当てられて膝がガックガクよ。何かしゃべってねえと落ち着かねえのさ」


 そんな軽口を叩きながら歩いていると、一行は目的の場所にたどり着いた。


 村からしばらく歩いた場所にポツンと一軒だけ建てられた小屋。


 ボロボロのその小屋の中に、漆黒のダナンはいるという。


「俺の案内はここまでだ。あとは勝手にやりな……巻き添えはゴメンだからな」


 そう言ってヒラヒラと手をふるカース。


 来た道を戻っていく途中で、彼はピタリと歩みと止めて、ついでとばかりに二人に忠告をした。


「……確かにアンタらは強いだろうがな、魔法ってやつはまた別格だぜ? まあ、俺が言うまでもねえだろうがな」


 カースは振り返り、真っ直ぐな瞳でヒタとローガンを、その仮面の奥の瞳を見つめる。


「死にたくなけりゃ、旦那は怒らせない方がいい……これは親切心で言ってるんだぜ? 俺にしては珍しくな」


「心遣い痛み入る。だが、約束はできんな、相手の出方によっては剣を交えることもあるだろう」


「……っへ、そうかい勝手にしなよ」


 そしてカースはズカズカと大股で帰っていった。


 その背中を見送りながら、エミーリアは意地悪くニヤリと笑ってローガンに問いかける。


「別格だってよ、我が騎士?」


「ふふ……だからこそこの場所に来たのではありませんか」


 ローガンは不敵に笑い、小屋の扉を開けるのだった。

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