第8話 ギルド

 先ほどとは打って変わって、ペコペコと低姿勢で頭を下げるギルド長エイダン。


 話を聞くと、どうやら彼が若い頃、竜王討伐のために編成されたチームに所属していたらしい。


 もちろん、竜王を討伐して ”竜殺し” の異名を得たのはローガンだ。


 エイダンは、かつてのローガンと竜王の戦いを直に見た数少ない一人だという。


「いや、しかし守護騎士ローガン様がまさかこのギルドにいらっしゃるとは! まことに光栄であります!!」


 机に叩きつけんばかりに大きく頭を下げつづけるエイダン。


 その大きな声も相まって、周囲の人々が何事かとこちらをチラチラ見ているのがわかった。


 目立つのは本意でない。


 どうしたものかと迷ったあげく、良い策も浮かばずに、結局素直に伝えることにした。


「……すまないエイダン殿。あまり目立ちたくないのだが、少し声を抑えてくれるかな?」


「やや!それは申し訳ございません……少々興奮してしまいまして」


 慌てて声のボリュームを下げるエイダン。しかし、まだ興奮冷めやらぬとばかりに目を輝かせ、前のめりになりながら語りだす。


「ローガン様、今私が生きているのは貴方様のおかげです。強大な竜族に対し部隊は半壊、誰もが死を覚悟したその時、ローガン様ただ一人が強大な竜王に立ち向かっていったのを覚えています」


 エイダンは深々と頭を下げる。


「今でも夢に見ます。竜王に対して単騎で立ち向かうあの姿はまさに英雄……私の永遠の憧れです」


 ああ、ローガンもあの時の事はしっかりと覚えている。


 ローガンの老骨に刻まれた生涯最大の戦い。


 竜王との戦。


 人類の未来を背負い、剣一本で最強の種族と渡り合った。


 戦いは三日三晩続き、気が付けばローガンは竜王の死骸の上に立っていた。


 今でも祖国フスティシアの王城には、国宝として竜王の鱗から作られた装備の数々が飾られていることだろう。


 チラリと隣に座るエミーリアを見る。


 竜王の末子たる姫の姿を。


 彼女はつまらなそうに紅茶を飲んでいた。


 自分の父が殺された話をしているというのに、そんな事には興味がないとばかりに……。


「すいません、長話をしてしまいましたね。ローガン様、本日は情報が欲しいとの事でしたが……」


「ああ、最近の犯罪者の情報が欲しい。すまないが、冒険者登録するつもりは無くてね、金は言い値で出そう」


「なるほど……本来なら絶対にお断りしなくてはいけない案件です。情報はギルド全体の宝、いくら金を積まれても、ギルド員でないものに情報は渡せません」


 これはダメかと思った矢先、エイダンはニヤリと不敵に笑って続きを話し出した。


「ですが、相手が貴方様なら別です。私はローガン様に救われて生きています。貴方のためならギルドの規則なんてクソくらえですよ」


 そしてエイダンは受付嬢に指示をする。彼女は奥の部屋から一冊の本を持ってきた。


「犯罪者の手配書をまとめたものの写しです……これを差し上げます。もちろんお代はいりません。どうぞお納めください」


 ローガンは本を受け取り、丁寧に頭を下げる。


 世情に疎いローガンでも、これがどれほど貴重なものかは理解できた。


「すまないな、恩に着る」


「かまいません。俺はローガン様に救われました。貴方様のためなら悪魔に魂も売りましょう」


 その言葉を隣で聞いていたエミーリアは、ローガンにのみ見えるように、意味ありげに片方の眉を上げてニヤリと笑った。





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