第26話 クラスの擬態ギャルに喋らせてはいけない

「で、何飲む?」

「私はカフェラテで」

「わかった。俺は……俺も同じでいいか」


 姉さんに言われた通りにカフェに入った俺達は、飲み物を受け取ると奥の方の席に座る。なるべく人の目を避けるためだ。

 そして、若干の沈黙を挟んで久我さんが話しかけてきた。


「てかさ、おねぇからめっちゃ可愛いって聞いてたけどヤバくない? マジで超可愛いんだけど!」

「ぶっ……!」


 ちょっとカップに口を付けたところのまさかのギャル口調。少し気を抜いていたせいもあってか、思わず吹いてしまった。


「ちょっ! こっち飛んできたし! ばっちいんですけどぉ〜?」

「待て。ちょっと待て。待ってくれ」


 口元を拭きながら空いてる手を前に突き出し、これ以上久我さんが喋るのをやめさせようとする。


「ん? なになに? どしたん? あ、もしかして彼女のこと可愛いって言われてテレちゃった感じだったり〜?」


 しかし止まらない。


「まぁでもわからないでもないかな〜。あれだけ可愛かったらそうなるよね。マジで。てゆーか実はね? 可愛いって言っても案外そこまでじゃなくて、あーしでも可愛さ勝てるんじゃない? 胸もあるし押せ押せでイケるんじゃない? 的な事も考えてたんだけど、まさかあの可愛さでおっぱいも大きいなんてズルくない? てかずるいっしょ!」

「いいから少し黙ってくれ……」

「えーーーーー」

「おい」

「はいはい。静かにしますよ〜だ。ぶぅ」


『ぶぅ』じゃないんだよ『ぶぅ』じゃ。

 いや、マジですげぇ喋るなコイツ。ギャルスタイルの方が合ってるんじゃないかってくらいに喋る。学校での姿を知ってるだけに、普段と別人すぎてちょっと理解するのに時間がかかった。


「…………ふぅ。よし、落ち着いた」

「餅ついた?」

「おいコラ黙れ」


 おっと。少し謎の青鬼さんが出てしまった。いけないいけない。


「え、超怖いんですけど。でもカッコイイ。好き♪」

「なぁ、まさかずっとその話し方をするつもりか?」


 俺はいつも通りの表情を作ると、久我さんの目を見て真剣に問いかけた。これ以上ふざけるのは許さないと言わんばかりの圧を込めながら。

 すると、どうやらちゃんとそれは彼女に伝わったらしく、先程までの軽そうなニコニコした目から、クラスにいる時の目に変わる。


「ごめんなさい。ついうっかり素が出るといけないと思って……」

「いや、そんなのその時に切り替えればいいじゃないか」

「無理なんです。私、この格好をして出かける時は、家でちゃんとくーちゃんになりきって出てくるので……」

「あ……なるほど。そのタイプか……」


 露出の多いギャルの格好をしながら、背筋を伸ばして礼儀正しく座っている久我さんの姿を見て、少し前の莉々香の姿を思い出した。


 そういえば莉々香も切り替えが苦手だったな──と。

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クラスで一番可愛いギャルは俺の嫁。家に帰ると清楚な黒髪美少女になって甘えてくる あゆう @kujiayuu

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