第10話 だって先に教えちゃったら面白くないじゃないですかぁ

「うわぁああああん! 刹那が怒ったぁああああ!」

「ちょ、泣くなよ! 悪かったって!」


 ギャン泣きする真白をなだめる。

 店のみんなのあーあー……って視線が痛い。


「うぅぅ、ひっぐ、ぐしゅ……じゃあ、もう怒ってない?」


 大きなおめめをうるうるさせて、上目づかいで聞いてくる。

 可愛さと罪悪感で、俺の胸は張り裂けそうだ。


「怒ってないよ。怒るわけないだろ? さっきはつい大きな声出しちゃっただけだって……」

「あたしの事嫌いになってない?」

「なるわけないだろ! そんな事絶対ないから!」

「じゃあ、バッタも食べてくれる?」

「あぁ! もちろ…………おい真白!」

「言質取った! 勿論って言った!」

「言ってない! てかウソ泣きすんなし!」

「だって刹那が怒るんだもん!」

「怒るだろ! 虫なんか無理やり食わされたら! 飯テロだぞ!」

「それは意味違うくない?」

「むしろこっちの方が正しいまである」


 心配させて悪いんだが、バカップルの日常はこんなものだ。

 見守りの皆さんが、あー心配して損したリア充爆発しろみたいな顔で盛大に溜息をつく。

 毎度ご迷惑をおかけしております……。


「で、話ってなに?」

「だから、俺達チート持ってるんじゃないかって話」

「なになに? こんなに可愛くて強い彼女のあたしは存在がチートみたいな?」


 にやにやと口元に手を当てて、殴りたくなる程可愛い笑みで真白は言う。


「それもあるけど」


 はぁああああああああああ……と、ため息の合唱。

 すみませんね、バカップルで。


「じょ、冗談じゃん!」


 真白は真白で真っ赤になって照れている。

 可愛い奴め。


「それとは別でさ。俺達、転生したばっかりなんだぜ? 何の努力もしてない普通の元地球人がさ、こんなに早く強くなるのはおかしいだろ」


 一応声は潜めてみた。チートとか転生とか、言った所で現地人の皆さんに理解出来るとも思えないが、一応異世界物のセオリーとして隠した方が良さそうなので。


「そうかな?」

「そうだって」


 近場だし、まずは戦闘に慣れたり、最低限のステータスやスキルを上げたかったので、この半月の間、俺達はひたすら例の初心者草原で魔物を狩っていた。


 お陰で俺は、黒魔法も白魔法もクラス1なら100パーセント成功するぐらいまで熟練度が上がった。失敗はするが、クラス2の魔法も使えない事はない。真白もステータスやスキルが上がって、腕兎のような雑魚モンスターが相手なら、一人でも余裕で戦えるくらいには強くなっている。


 けど、冷静に考えればそれはちょっとおかしい気がする。俺達は、本来冒険者を目指すような人達がしてきた努力を何もせずにいきなり冒険者になった。それで、たったの半月で最弱モンスターと余裕で戦えるようになってしまった。


 雑魚モンスターだって数を狩れば、とりあえず生活できるくらいの稼ぎにはなる。こんなに簡単に強くなれるなら、この世界の人間はみんな冒険者になるんじゃないか?


「じゃあ、チート貰ったんじゃない? 成長チートみたいな奴。よかったじゃん」

「よかったじゃんって、それだけかよ……」


 呑気な真白に俺は呆れる。

 俺が心配性なだけなのだろうか……。


「だって別に、貰って困る物でもないし。むしろ嬉しいし、ラッキーじゃん。サクサク強く慣れるなら、お屋敷だって夢じゃなくなるし」


 冗談だと思ってたけど、結構本気でお屋敷を欲しがってるらしい。

 いや、俺だって冗談で言ったわけじゃなが。


「そうだけど……気にならないのか? なんでとか、どうしてとか。実は魔王みたいな奴がいて、そいつを倒せとか言われるかもしれないぞ」

「んー。別にだけど、気になるなら女神様に聞いてみれば?」


 困った時の取説という事なのだろう。

 まぁ、ここで憶測を言った所でしょうがない。うだうだ考えて行動に移せないのは、俺の悪い所でもある。その点真白は分かりやすい。思いついたら即行動だ。


「素直に教えてくれるとは思えないけどな」


 とりあえず取説を広げてみる。


「……あー。普通の地球人をそのまま転生させてもムリゲーなので、成長ボーナスがあるんだと」

「ほら! やったじゃん! それ聞いたら、もっと頑張ろう! って気になるね!」


 真白はすっかり戦う喜びに目覚めたようで、冒険者ライフを満喫している。俺もまぁ、嫌ではないし、魔法を使えるのは楽しいんだが、真白程じゃない。というか、毎回戦闘になる度に、真白が怪我をしないか心配で仕方がない。


 あそこの狩場も、腕兎の皮と肉が特別に高く売れるというだけで、その他の魔物の稼ぎはかなりしょっぱい。腕兎もそんなに頻繁に出会うわけではないので、生活に余裕があるわけではなかった。


 だから、ほとんど毎日のように狩りに出ているんだが、俺としては、もうちょっと安全で楽に稼げる方法を模索して、真白が戦う頻度を下げたかった。毎日のように戦っていれば、心に油断も生まれる。ただでさえ真白は調子に乗りやすいのだ。


 現に今日だって、角バッタの攻撃を受けそうになっていた。なにかの間違いで普段は現れないはずの強い魔物が出てくる事もあると聞く。戦闘は本来命懸けなのだ。間違いがあってからでは遅い。俺はもう、二度と真白を死なせたくないし、失いたくはない。


 そこんとこ、真白は全然分かってなさそうだが。


「なにその目……」

「いや、なんだ。俺としてはもうちょっと、戦う事を怖がって欲しいんだが」

「あたしは前衛の戦士なんだよ? あたしの後ろには刹那がいるんだから! 怖がってなんかいられないよ!」


 うぐぐぐ。悔しいが、それもまた正論である。てかクソかっけぇ。もう、真白の心はすっかり戦士様なのだ。そのセリフ、俺が言いたかったよ。あの時無理にでも前衛をやっていれば……。いや、俺じゃ真白のように勇敢に戦うのは無理か……。


 だとしても、いや、だからこそ、心配性で臆病者の俺が歯止めにならないといけないと思う。


「それよかさ、刹那こそあたしの話ちゃんと聞いてた? 冒険者なんだから、冒険しないと! いつまでこの街にいるつもりなの?」


 好奇心旺盛、オタク趣味に理解はあるが、本来アウトドア派で行動的な真白である。折角の異世界で、半月も同じ狩場に通うのは退屈なのだろう。


 効率よくステータスやスキルを上げるには、同じ場所で同じような敵と戦い続ける方が良いと思って我慢して貰ったが、それもそろそろ限界か。


 スキルの熟練度やステータスは難易度制で、格下と戦っても上がらないそうだし、潮時なのは分かっていたのだ。でも俺、心配なんだよなぁ……。


「わかってるって。だから、あそこでの狩りは終わりにして、他の狩場にも行ってみようって話になってただろ?」

「それはまた違う話じゃん? あたしは早く冒険したいの! 別の街とか国に行ってみたいの~! 旅がしたいの~!」


 バタバタと真白が暴れる。


「それはまだ早いだろ。俺達、この街とあの草原以外の場所行った事ないし。野宿した事もなけりゃ、旅のしかただって分からないんだぜ? 旅をしたら、盗賊とかに会うかもしれないし。見た事ない強い魔物に襲われるかも。まだ早いよ」

「それはあたしだってわかってるし! でも、そんな事言ってたら一生旅出来ないじゃん? だから目標立ててさ、ここまで出来たら旅に出ようって決めようよ! じゃないと、一生この街にいる事になっちゃうよ? 異世界物あるあるじゃん!」


 ……確かに、同じ街に長居して知り合いなんか増えたら出ていけないよな。俺は陰キャだし、あっちこっち旅するのは面白そうだけど、同じくらい面倒だし。どっちかっていえば、拠点を作ってどっしり構えたいタイプだし……。

 本当、悔しいくらい真白の言う通りではあるのだった。

 




【黒木刹那・人間・評価レベル3】


 ライフ 40→50

 マナ  60→120

 スタミナ40→50


 STR 4→5

 VIT 4→5

 DEX 6→8

 MAG 6→12

 AGI 5→6

 LUC 6


 スキル 黒魔法10→20/白魔法10→20/魔力呼吸10→20/魔法増幅10→20/???

 タレント 成長ボーナス ??? 


【天野真白・人間・評価レベル3】


 ライフ 60→100

 マナ  40

 スタミナ60→100


 STR 6→10

 VIT 6→10

 DEX 4→6

 MAG 4

 AGI 5→7

 LUC 4


 スキル 剣術10→20/戦技10→20/戦闘呼吸10→20/解剖学10→20

 タレント 成長ボーナス ??? 

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