第5話 ヤクザ襲来

「うーん」

「どれがいいんだろうね」


 二人して、依頼書の貼られた掲示板の前で唸っている。


 依頼は沢山ある。評価レベル1で受けられる依頼も少なくはない。ただ、魔物の名前を見てもどれくらい強いのか分からないし、指定された場所がどこなのかも分からない。だから、どの依頼を受けていいのか分からないのだった。


「まぁ、評価レベル1だし、適当に選ぶか」


 それっぽい名前の魔物は見れば分かるだろうし、地図もあるから、調べながらいけない事もないだろう。

 なんて思っていると。


「おい小僧」

「うぉ!」


 ドスの聞いた声に振り向く。

 すぐ後ろに、先程俺を睨んでいたヤクザみたいな顔のおっさんが立っていた。


「す、すみません。邪魔でしたよね」


 掲示板の前で長居していたから怒られたのだろう。

 一旦退こうとする俺達をヤクザ顔が引き留める。


「ちょっと待て」

「な、なんですか?」


 怯える真白を、俺は背に庇った。


 俺だって怖いが、引くわけにはいかない。

 さっき守ると言ったばかりだ。男らしいところを見せないと!


 ヤクザのおっさんは人殺しみたいな目で俺を威圧すると、乱暴に掲示板から一枚の依頼書を引っぺがした。


「お前ら新入りだろ。この依頼なら近くて相手も手頃だ」


 苛立たし気に告げると、傷だらけの拳で依頼書を突き出してくる。


「……良い人なんじゃない?」


 唖然とする俺に、真白が囁いた。

 なんだよ、驚かせんなよ!


「あ、ありがとうございます」

「別に、邪魔くせぇから教えてやっただけだ」


 ヤクザのおっさんは忌々しそうに鼻を鳴らした。

 ……やっぱ、ヤな奴か?


「あとな。もし場所が分からねぇなら、受付の姉ちゃんに言って地図に目印の魔法をかけて貰いな」


 良い人だ! ヤクザの皮を被ったツンデレだこりゃ!


「すみません。助かります」

「別に、てめぇの為じゃねぇ。そっちの綺麗な娘はお前の女なんだろ。大事にしてやれよ」


 不愉快そうに鼻を鳴らすと、ポケットに手を突っ込んでのしのしと元居た席に戻っていく。


 てかよく見たら、あのおっさんのテーブルにあるのフルーツパフェじゃね? なんですか? 悪い魔女の呪いでヤクザに変えられたツンデレ美少女だったりすんのか?


「……よくわかんないけど、良い人だったね」

「……あぁ。顔は怖いが、良い人だったな」


 そういうわけで、俺達は受付のお姉さんにお願いして地図に目印の魔法をかけて貰った。ここから目的地までの道のりを光の線で描いて貰っただけだけど。


 どうやらこれは魔法の地図のようで、地図アプリみたいに中の絵を動かしたり、現在地を光の点で示したり、拡大したり縮小したり、新しく通った場所を自動で書き込む機能があるらしい。


 地味に便利だ。

 女神様、しょっぱいとか言ってごめんなさい。


 ちなみにヤクザのおっさんはゴリゴンという名で、このギルドでは有名な強面ツンデレ親切おじさんらしい。得意スキルは裁縫で、彼の作る魔物をデフォルメした縫いぐるみは、三か月先まで予約が埋まっている程の人気商品だそうで、可愛い物好きの真白が物凄く興味を持っていた。


 ……俺も裁縫スキル覚えようかな。

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