同じクラスの二大天使に告白された。「夏休みの思い出を、私と作ってほしいの」。断れないですよね?

紅狐(べにきつね)

夏休みの思い出を、私と作ってほしいの


「夏休みの思い出を、私と作ってほしいの」


 そんな事を言われたのは風を涼しく感じ始める初夏の出来事だった。

部活にバイト、クラスメイトはみんな教室から出ていく。

俺は数日前に起きた事件がきっかけで、少しだけ心を病んでいた。


──数日前


 朝、教室に行くと後ろの方で人だかりができている。

何だろうと思い、クラスメイトをかき分けみんなの視線を集めているものを目にする。


『天神圭太(あまがみけいた)』と書かれた一枚の紙。

その紙になぜかダーツの矢が二本刺さっていた。


 俺に対するいじめか? それとも呪い? 

俺はそれを見てからクラスメイトに不信感を抱くようになった。


 中間試験も終わり、みんな夏服で空を高く感じる。

期末試験まで時間もあるし、それが終わったら楽しい夏休み。

高校二年の夏、もしかしたら俺にも何か大きな人生の分岐路があるかもしれない。

彼女もいないが淡い期待だけ抱いていた。


 そんなある日、学年でもトップクラスの優等生である二宮玲子(にのみやれいこ)が俺の目の前に立っている。

長い髪をなびかせ、整った顔は無表情。でも、その眼は俺だけをまっすぐにみている。


 なんの用だ? 俺とは普段何もかかわりを持っていない。

そんな彼女が俺に何の用だ?


 彼女の目を見返し、俺は茫然と彼女を眺めていた。


「聞いてる?」


 俺ははっと、気を取り直す。


「ご、ごめん。もう一回言ってもらえる?」

「聞いてなかったの? もう一度言うわね? 夏休みの思い出を、私と作ってほしいの」


 どっきりだ。これは、間違いなくどっきり大作戦だ。間違いない。

こんなかわいくて成績が良く、お付き合いできたら夢みたいな彼女が、俺と一緒に夏を過ごしたいなんて……。

絶対にあるはずがない! 何かの罰ゲームですね。わかりました。


 ここで断ったらきっと彼女は追加でさらに変な罰ゲームをすることになるだろう。

俺はこれでも紳士(たぶん)のつもりだ。彼女をつらい目に合わせたくない。


「わかった。一緒に思い出を作ろう」

「ありがとう、嬉しいわ。これ、私の連絡先。あとでメッセージ頂戴」


 そういうと俺にメモ用紙を一枚手渡し教室から出ていく。

可愛そうに……。でも、この連絡先もダミーなんだろ?

俺は騙されない。


 そして、だまされたと思いつつも内心嬉しがっている自分がいる。

現金なやつだ、自分が嫌になる。


 帰る準備をして昇降口に向かう。

靴を履き替えようと下駄箱を開けると、一通の手紙が入っている。

こ、これは……。


 中を開けると一言。


『放課後校舎裏で』


 呼び出しだ。この字は女の子じゃない、可愛く書こうとした男の字。

そして、おそらくこの人物は俺の名前にダーツを刺したと思われる。

あんな呪いっぽいことでは足りず、ついに俺への直接攻撃か。

いいだろう、ポケットにしまったスマホでしっかりと証拠を残してやるぜ!


 俺は手紙を鞄にしまい、一番分厚い教科書を念のためお腹に装備した。

これで防御力は五くらい上がったはず。

殴るなら顔はやめて! おなかにして!


 恐る恐る校舎裏に行ってみる。

誰だ、俺を呼びだしたのは。


 しかし、行ってみると女子が一人立っているだけだ。

あの後ろ姿……。

同じクラスの月山雫(つきやましづく)じゃないか?


 スポーツ万能の彼女は陸上部に所属しながらも、他の運動部を掛け持ちしている。

バスケにバレー、サッカー、ソフトボールにテニス。

彼女にできないスポーツはないのでは?

我が校開校以来のスポーツ少女とまで言われている。


 そんな彼女が俺を呼びだす?

彼女に対して俺は何かやったのか?


「き、来ました……」


 恐る恐る俺は彼女に声をかける。


「待ってたよ」


 振り返る彼女は輝いていた。

制服を崩してきているが、腕を組みこっちを見ている。

通り抜ける風が彼女のスカートをなびかせる。


「お、俺に何か……」

「大したことじゃないよ。ボクはストレートに伝える事しかできなくてね」


 彼女が一歩、二歩近づき俺の手を取る。


「この夏、ボクと一緒に過ごしてほしい」


 はい? 空耳? 聞き間違い?


「過ごしてほしい?」

「そうだよ。断るの?」


 普段強気な彼女は、なぜか頬を赤くし、俺を見つめる。

こ、これは嘘告だな! どこで誰が見てるのかなー!

周りを視線だけ動かし探ってみるが誰もいない。

うまく隠れているのか……。


 しょうがない、ここは彼女に騙されてあげよう。

そうすれば彼女はきっと満足するはず。


 こんな俺をだます対象にするなんて……。

最近のいじめはひどい。俺はともかく学年の天使たちをこんな目に合わせるなんて……。


 成績優秀、二宮玲子(にのみやれいこ)。

 スポーツ万能、月山雫(つきやましづく)。


 この二人がいじめなどにあっていい訳がない。

ここは素直に受け入れよう。


「わかった。一緒に思い出を作ろう」


 どこかで言ったようなセリフ。


「サンキュ。これ、ボクのアドレス。後で連絡して、絶対だぞ」

「わかった」

「部活に戻るね」


 彼女はそう言い残し、風のように俺の隣を去っていった。


 俺は今日学年の天使二人に告白された。

この夏、俺は最高の夏休みになると確信していた。


 そして、夏休みを迎える。


 ◆ ◆ ◆


 彼女たちに言われ、お泊りの準備をしてバス停に立っている。

三泊四日の旅。俺と彼女二人、同じところに待ち合わせ、同じ場所に行くらしい。


 初めは何のことかさっぱりわからなかったけど、彼女たちは初めから三人で行動するつもりだったぽい。

いったいどこへ行くんだ? でも、三人でお泊り……。楽しくなりそうだ。


 しばらくすると彼女たちがやってくる。

二宮さんは淡いブルーのワンピースに、大き目の麦綿帽子。

まさにお嬢様! って感じがする。


 月山さんはショートパンツに白のカットソー。

ボストンバックで登場。

まさにスポーツ少女! って感じです。


「お待たせしました」

「おはよっ! 今日はよろしくね」



 二人の笑顔が夏の太陽よりもまぶしい。

いいのか俺。こんな二人とお泊りなんて。


「おはよう。今日からよろしくね」


 彼女たちはバスに乗り込み、終始無言。

楽しい雰囲気ではなく、なぜか真剣な目をしている。


 バスが付いたのは運動競技場。

ん? なにここ?


「ついたわ」

「二人とも、がんばろうね」


 いったい何が起きている? お泊りは? キャンプじゃないの?

周りを見ると、同じ年頃の三人組が、俺達と同じように大きなバッグを持っている。


 二人に連行され、競技場に入っていく。


「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


 歓声がすごい。

え、なにこの人? イベント?


 俺は何が起きているのか訳も分からず、遠くに見えた垂れ幕を視界に入れる。


『日本縦断 スーパーウルトラクイズ ハイスクールバトル!』


 ……。

遠くに見える司会者っぽい人がメガホンを持って声を上げる。


「北海道から沖縄に行きたいかぁぁぁぁぁ!」

「「「わぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


「思い出を残したいかぁぁぁぁぁ!」

「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


「知力、体力、運に自信はあるかぁぁぁぁぁ!」

「「「あるぅぅぅぅぅぅぅぅ」」」


 ないないないない! ナニコレ! どういうことですか!


「天神君の運はクラスで一番いいわよ」

「そうそう。クラスメート全員の名前を壁に張ったのに、二人のダーツは君を射抜いたのだよ」


 あ、あのダーツか! 犯人はここにいた!


「あの、これって……」

「私は知力、二宮」

「ボクは体力、月山」

「「運の雨宮君」」

「はい?」


「一緒に北海道行こうね」

「一緒に沖縄いこうよ」


 右手に知力の二宮玲子(にのみやれいこ)さん。

 左手にスポーツ万能、月山雫(つきやましづく)さん。


 そして間に入った『運の天神』は俺の事。


 こうして、夏のちょっとした冒険が始まるのであった。


「第一問! 丸罰クイズ! 生き残れ、若人! そして思い出を残せ!」

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同じクラスの二大天使に告白された。「夏休みの思い出を、私と作ってほしいの」。断れないですよね? 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox

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