第4-5話 対決! 脳筋四天王

「破壊! 蹂躙!! オーガー棒で(ピーー)!!!」

「吾輩の軍勢は無敵であるっ!!」


 ドドドドドドッ……!


 暑苦しい叫び声と聞くに堪えないF用語。

 数千を超すゴブリンやオーガーの軍勢が土煙を上げながら荒野を突き進む。


 この岩山を超えるとゲール王国の領土だ。

 村や街も点在しているし、この辺りで連中を止める必要がありそうだ。


「ひ、ひええ……わたし、あんなのと戦うの?」


 軍勢の先頭で高笑いを上げる巨大な赤銅のグランオーガ―を見て、少し腰が引けているルクア。

 一国の軍隊でも止められないであろう大軍、その反応は仕方ないと言える。


「大丈夫だ。 お前は勇者で女の子だからヤツには特別有効率が乗る」

「俺もいるしポチコもいる。 心配することは無い」


「それにツイてるぞ……お前の得物は槍。

 フェルの話では、奴は槍に弱い」


 ぽん。

 微かに震えるルクアの肩を優しくたたいてやる。


 確かにルクアのレベルでは少し厳しい相手だが、ルクアの持つ属性がすべて奴の弱点になるのだ。

 いい勝負になると俺は計算していた。


「う、うん! ありがとうラン!」


 俺の励ましに、ルクアの全身に力が戻る。

 恐れが消えると、別の事が気になるようで……。


「……でも、なんであのグランオーガーって槍に弱いの?」


「……ヤツはだからな」


「???」


 わふん!


 下品な会話になりかけた流れを、ポチコのひと吠えが断ち切った。


「よし、行くぞルクア!

【属性改変:オーガデストロイヤー】!」


「うおおおおっ!」


 気合と共に頭上に掲げたルクアの聖槍ゲイボルグ(レプリカ)に渦状のオーラがまとわりつく。

 亜人モンスターに対する有効属性を付与したのだ。


 今回は1対多の集団戦闘。

 攻撃力より持続時間を重視してある。


「女神よ御照覧を!!

 聖槍のルクア、いざ参る!!」


 ドヤ顔でポーズを取るルクアにいつもの調子が戻って来たようだ。



 ぽぽん!


 がうがうっ!



「サンキュー、ポチコ!」


 部分的に力を解放し、一回り巨大化したポチコの背に飛び乗る。


「いっくぞ~!」


 ワオオオオオンンッ!!


 身体能力を生かし崖を駆け下りるルクア。

 俺を背に乗せたポチコが後を追う。


 勇者ルクア、初めての四天王戦である。



 ***  ***


『オガオガオガッ!!』


「むうっ? 何事であるか?」


 オーガー棒をおったて怒涛の進撃を進めていた軍勢の足がわずかに緩む。

 目が良いので偵察を任されていた斥候オークからの連絡だ。


「アレは……勇者であるか?」


 左手にそびえるのは殺風景な岩山。

 その頂上付近から跳躍してきたのは、巨大な槍を持った黒髪の戦士。


 頭は馬鹿でもさすがに四天王の一柱である。

 目の前に現れた命知らずの人間が特別な力を纏っていることを一目で見抜く。


 ちょこざいな人間どもは近年勇者候補なる冒険者を大量に準備し、生意気にも魔王の”属性”を調べて対策を立てていると聞く。


「非力な劣等種族は涙ぐましい事であるな……しかし」


 そうなれば、目の前に現れた”勇者”はオスであろう。

 当代魔王も面白みのない耐性を得たものよ……戦いの後の愉しみが期待できないことに、わずかに落胆を覚えるゴーリキ。


 多少有効属性を持っていようと物の数ではない。

 ゲール王国蹂躙の前祝いとして一撃で血祭りにあげてやる……ゴーリキはそう考え巨大な棍棒を構えるのだが。


「ん……ほう?」


 鼻毛が出放題の醜悪な鼻をわずかにヒクつかせるゴーリキ。


「貴様……メスか?」


 ジャキンッ!


名前は聖槍のルクア!」

「邪悪なる赤銅のゴーリキ! 覚悟しろっ!」


 勇ましく槍を構える勇者ルクア。


 彼女の名乗りを無視し、ルクアの全身を観察するゴーリキ。

 少々貧相な身体だが、勇者というからには耐久力は普通の人間どもとは比べ物になるまい。


 前菜としては楽しめそうだ。

 にたり……下卑た笑みを浮かべるゴーリキ。


 いきなり吾輩のオーガー棒を食らわせると壊れるかもしれんからな、部下どもで慣らしておく必要があろう。


 吾輩は部下想いの上司なのである!


「オガ! オガガッ!」


 シモの事になると頭の回るゴーリキ、右翼のオーク部隊に指示を飛ばす。


「ゴブゴブッ! あの狼もメスですぜ!

 ゴーリキ様、アイツはゴブらにお恵みをっ!」


「ふん、良いである」


 いきり立つホブゴブリンどもに向け、鷹揚に頷くゴーリキ。

 まったく、ホブ共は変態ぞろいだ。

 獣の方がいいとはな。


 すっかり戦闘後のお楽しみの事で頭がいっぱいのゴーリキたちは、ルクア達の能力に気付かないのであった。


 ブルルッ……ガウガウガウッ!


 ホブゴブリン達から立ち上るおぞましい欲望に、全身を震わせるポチコ。


「すまんなポチコ、少し我慢してくれ……ヤツ等をぶっ飛ばす機会は必ず作ってやるから」


 俺は優しくポチコの背を撫でる。

 彼女のヘルハウンドモードは集団戦の切り札である。

 使うタイミングは慎重に図る必要があった。


 まずは……直接将を叩く!

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