第4-4話 黒幕俺、二人に演出を提案する
不倶戴天の敵同士である勇者と魔王。
だが、甘い物さえあれば種族の垣根を越えて仲良くなれるのだ。
それがスイーツ大好きな可愛い少女たちとなれば尚更である。
「ふふっ! フェルちゃん、ほっぺにクリームついてるよ、取ったげる!」
「はうっ……そういうルクアさんこそ、前髪にモナカのかけらがついてますよ?」
「ええっ、マジでっ!?」
俺のとっておき、半年に一度遭遇できれば運が良いと言われる伝説の吟遊パティシエから仕入れた極上のマカロンである。
キラキラと輝く神スイーツに少女たちはメロメロだ。
「にゃにゃにゃにゃっ!? このキャットフード、魔界物の100年先を行ってるにゃん! チートと思わんかにゃポチコ!!」
わふわふわふんっ!!
ついでに準備しておいた極上のドッグフードに舌鼓を打つポチコとポンニャ。
曲がりなりにも四天王なのにペット扱いでよいのかと思うが、実に幸せそうだから問題ないのだろう。
場もいい感じに和んだので、そろそろ本題に入ろうと思う。
俺はルクアとフェルにこれまでの経緯を説明した。
*** ***
「もぐもぐ……フェルちゃんとランの話を合わせると。
フェルちゃんのお兄さんがこの世界に帰還すれば……わたしたちが戦う必要はなくなるってこと?」
「そう簡単にはいかないがな……とりあえずは時間を稼ぐことが重要だろう」
勇者と魔王が手を取り合い、はい!戦いはオシマイ!
などど、簡単には行かないのが面倒な所である。
数千年に及ぶ魔王軍と人間の戦いの歴史。
人間たちには魔王軍に対する恐怖が骨の髄まで沁みついている。
それに……下世話な話で恐縮だが、魔王対策は各国が莫大な予算と名誉をかけて取り組んでいる一大事業である。
魔王討伐に成功した勇者を出した国は、その後100年世界をリードする大国になれる。
勇者利権にぶら下がる企業も多岐にわたるので、例えば俺が……
「魔王ちゃんと仲良くなったので戦いをやめよう!
この世界に生きるものとして、手と手を取り合うべきです!」
などと演説したところで、狂人として無視されるか勇者利権企業に暗殺されるのがオチである。
「よ、世の中がそんなに汚かったなんて……裏切らないのは美味しいお菓子だけなの?」
「ふふ、俺も裏切らないから安心しろ」
「ら、ラン……♡」
すかさず繰り出された俺のイケメンムーブに根が単純なルクアは目を潤ませ感動している。
「むむっ……面倒なのは魔王軍も同じです」
なぜかぷくっと頬を膨らませたフェルが説明を引き継ぐ。
「世界征服は魔王軍数千年の悲願ですから……特に先代から四天王の座にあるゴーリキやマッディは野心を隠す気もありません」
「彼らにとっては地上の人間どもはエサですからね……より力をつけて余の寝首を掻くつもりでいるのでしょう」
「それに恥ずかしながら……魔王軍利権に群がる企業がたくさんいるのは魔界も同様です」
「ふ、ふにゃっ!?
精を漁るしか興味のないポンニャが知らないうちにそんな陰謀が動いてたにゃ!?」
「……ポンニャはそのままでいろ」
「心配するな、フェル。
お前の兄貴が帰還するまで時間を稼ぎ、必ずお前を幸せにしてやる」
「ら、ランさん……♡」
魔王軍四天王とは思えないセリフを吐くポンニャは置いといて、ここまで関わってしまったんだ。
フェルの望みはかなえてやりたい。
彼女の頭を優しく撫でると、フェルは頬を染めてうつむいてしまう。
「むむむむ……普段は雑に扱うくせに、こーいう時の破壊力が高いんだよね」
「??」
きゅんきゅんきゅん!
「……ポンニャもそう思うにゃ。 ランっちはそのうち無自覚に刺されるタイプにゃん」
なぜか妙な空気が流れるフェルの私室。
俺は咳ばらいを一つ、まとめに入る。
「ともかく……ゴーリキ本人が女勇者の攻撃に耐性があると思い込んでいるのは都合がいい」
「せいぜい混乱させてやるとしよう……(ニヤリ)」
「ら、ランが悪い顔をしているよ!」
人間側と魔王軍側が誤認している魔王フェルーゼの耐性……。
上手く立ち回れば、両者を混乱の渦に叩き落すことが出来そうだ。
俺はフェルにゴーリキの弱点を確認すると、四天王相手という事で緊張しているルクアを連れ、ゴーリキの元へと転移させてもらうのだった。
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