第3章 俺だけが知っている序盤の山場
第3-1話 活躍しすぎた勇者様の困惑
「ふむ……」
俺はテーブルの上に置かれた新聞……ライン王国唯一の日刊紙であるライン時報の号外を取り上げる。
『我が王国に現れたまばゆい超新星!! 一躍勇者候補筆頭に躍り出た聖槍のルクア独占インタビュー!!』
でかでかと印刷された文字にめまいがしそうだ。
メインの記事では、ルクアが語ったであろう大言壮語の部分が強調され、下線まで引かれている。
『今次魔王はかつてないほど耐性が強力であり、各国の勇者候補殿も苦労されていると聞きます』
『ですが案ずることはありません!!
この不肖ルクア! 一心同体である神狼フェンリルと頼もしき相棒ランジットと力を合わせ、魔王軍の耐性を打ち破る究極の必殺技を編み出したのです!』
『魔王軍に情報を漏らしたくないため詳細は伏せますが……かのレッドドラゴンを一撃で屠ったように、すさまじい効果を発揮します』
『ボクと仲間たちが魔王軍の脅威を討ち払う、真の聖槍となるでしょう!!!!!』
暑苦しいほどの”!”の連続の後に、王宮付の画家が描いたと思われる肖像画が載っている。
凛々しい表情でポーズを取り、キラキラと輝く勇者ルクア。
傍らで崖の上に立ち、ドヤ顔で咆哮するポチコ。
この記事と肖像画を見れば彼女たちのファンが万単位で増えそうな勢いだが、勇者たちの現物は……。
「うわああああああああっ!? ま、またでっかい事を言っちゃったああああああぁぁ!?」
「しかもこの号外、全世界に配布されちゃったんだってぇええええええ!」
「もしかして四天王を倒して来いとか言われちゃうかなあああああ!?」
「そんなことになったら今度こそ死んじゃうよおおおおおぉぉぉぉ!!」
ごろごろごろごろ
鼻水を垂らしながら床を転がりまわるルクア。
自分を上げるだけじゃなく、仲間にもきちんと触れるところにコイツの性格の良さが出ているが、調子乗りまくりなのは相変わらずである……あとしれっと俺の名前を出すんじゃない。
きゅう~~~~~んっ!
くんくんっ!
ごろごろごろごろ
その隣では、耳をへにゃりとさせ、モフモフの前足で両眼を覆ったポチコが同じように床をごろごろしている。
よりによって神狼フェンリルか……彼女の正体は神獣と正反対の魔獣ヘルハウンドである。
いくらカッコいいからと言って、調子に乗りすぎたと思ったのだろう。
今までの俺なら呆れ散らすところだが、レグウェルで情熱の夜を体験し、大人の階段を5段ほど登った俺には余裕がある。
ぽんっ。
なでなで
俺はルクアとポチコの頭を撫でると、努めて優しい口調で声を掛けてやる。
「心配するなふたりとも……旅先で
「お前たちの命は俺が守ってやる……姉さんとも約束したしな」
「ぶえっ……いつも以上にランが優しいよぉ~」
だきっ!!
感極まって抱きついてくるルクア。
……何しろ面白い友人というのが当代の魔王である。
しかも彼女は世界征服をしたくないと来た。
ぴんっ!
俺の様子に何かを感づいたのか、耳と尻尾を立てるポチコ。
流石は伝説の魔獣ヘルハウンドである。
俺は彼女に親指を立て、任せろと合図を送る。
全てを悟ったであろうポチコは大きく頷く。
聡明な相棒を持って俺は幸せである。
ちなみにルクアは善人ではあるが単純アホの子なので、魔王フェルーゼの事はしばらく話さない方がいいだろう。
変に話が広まって他国の勇者候補に事実が伝わると厄介なことになりかねない。
「えぐえぐ、ランどうしよ~~」
ズビズビと泣くルクアの背中を撫でてやりながら考える。
フェルーゼから聞いた情報によると、ライン王国から一番近い場所に居城を構える四天王はグランオーガ―のゴーリキ。
単純パワータイプなのでグランリッチのマッディよりは与しやすい相手と言えるのだが……。
どちらにしろ、魔王が持つ耐性は四天王にも色濃く影響する。
女性勇者であるルクアには厳しい相手だ。
「……ん?」
その時、左手に描かれた紋様が熱を持ち僅かに点滅するのを感じた。
この反応は……またなにか魔王様から”相談”があるのだろうか?
「俺の方でも色々考えてみるから、お前はほら……モンスター退治の依頼でもこなしていろ」
「うん、ありがとうラン~」
レッドドラゴンを一撃で屠ったルクアの必殺技。
何故あそこまでの効果を発揮したかは目下調査中なのだが……頭の回る俺は、ギルドの報告書に
『勇者ルクアのユニークアビリティ:モンスターを一定数退治することによりチャージされ、一時的にエンチャント魔法の効果が増大する可能性』
との一文を添えた。
そのため、彼女にモンスター退治の依頼が優先的に回されるようになったのだ。
「という事で俺は調査に出かけるが……ポチコ、なるべく時間をかけてゆっくりとな!」
ヴァオン!!
「??」
俺の意図を正確に汲み取ってくれる神狼と不思議そうな顔の勇者。
俺はいつものように【属性改変】と【認識改変】を掛け、モンスター退治に出発する彼女たちを見送るのだった。
さてさて、次は魔王様だ。
『八百長』のプロモーターである俺は忙しいのだ。
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