第1-3話 序盤なのに、村を脅かす魔王軍と決戦することに

 

「おかしい……なんでこんなことに?

 俺はただ静かに暮らしたいだけなのに」


 仰いだ空はどこまでも蒼く……花の香りを運んでくるそよ風は腹が立つほど爽やかだ。


「皆さん! この勇者ルクアが勝てるよう、祈りを捧げて頂きたい!」

「善良なる貴方がたの祈りが、魔王軍を討ち払う剣となるのです!!」


 うおおおおおおっ!!


 見送りに来た村人たちの歓声が爆発する。

 感極まり、泣いている村人もたくさん見える。



「……どう思われますか、賢者殿?」


「今次魔王は魔法耐性が高いからな……我が国としても、優秀な戦士タイプの勇者を確保しておきたい」

「ザマゾン商会に掛け合い、SSランクの武具を大幅割引させたのだ。

 ある程度

「今回はどの”塔”も守りが固く、各国の勇者候補も苦戦しているようだ。

 ここで我が国が結果を出せば……」



 何を話しているかは聞こえないが、ギルド長の傍には王宮の賢者殿が立っている。

 一介の勇者候補に対する見送りとしては異例と言えた。


 おだてに乗りやすいルクアがこの状況を見逃すはずはなく……。


「それでは、ボクは旅立ちます……この槍に、女神の加護があらんことを!」


 ワオオオオオオオンンッ!


 神狼の遠吠えと共に、勇者ルクアは”空詠の塔”攻略に出発した。



 ***  ***


「うわわわわわっ!? どうしよぅラン~」

「また大見得を切っちゃったよぉ……これって”空詠の塔”を攻略しないと村に戻れないよね?」


 わふわふ~ん!


「ええい、引っ付いてくるな暑苦しい!」


 村が見えなくなった途端、俺にしがみついてくるルクアとポチコ。

 本日は5の月の第3日……ルクアに今後の展開をアドバイスしてやった僅か数日後。

 俺はルクアたちと共に”空詠の塔”の攻略へ向かっていた。


「くそっ……ギルド長め、手柄を焦りやがって」


 思わず吐き捨てるが、出発してしまった以上是非もない。

 俺は昨日の出来事を苦々しく思い出す。



 ***  ***


「孤高の勇者、聖槍のルクア殿!!」

「他の冒険者とパーティを組むと、大幅に能力が低下してしまうという貴公のユニークアビリティに我々心を痛めておりましたが……ついに解決策が見つかりましたぞ!!」


「は、はぁ……」


 興奮して勇者ルクアの手を取るギルド長。

 半ば禿げあがった頭皮は紅潮しており……悪い人ではないのだがとても暑苦しい。


 ちなみにギルド長が語ったユニークアビリティというのは噓だ。

 他の冒険者とパーティを組むとルクアが女であることがバレる危険があるため、俺が【認識改変】スキルで偽装している。


「【エンチャント】系の魔法なら、貴方のユニークアビリティに影響しないことが分かったのです!」


「さいわい、我がギルドにはエンチャント系魔法の使い手であるランジットがおります」

「彼は冒険者スキルを所持しておりませんので、”パーティメンバー”に当たらないことは王宮の賢者殿に確認済み……」


「他国に先んじて”塔”を攻略すれば、我が国の勇者候補の優秀さを世界に示すことが出来ますし、我々ギルドも潤います……おっと、下世話な話でしたかな」

「わっはっはっは!!」


 愉快そうに笑い声を上げるギルド長。


 くそっ!

 なんでバレたんだ?


 ルクアがモンスター退治に出かける前には、いつも俺の家に寄って【属性改変】や色々なエンチャント魔法を掛けている。

 防音魔法や遮蔽魔法を使い密室状態で施術しているし、ルクアの装備にもそれと分からないよう、完璧な偽装を施しているのである。


 そんな簡単に露見するはずないが……。


「……あっ」


「”あっ”?」


 やっちまったと言う表情で小さく漏れたつぶやきを、この俺が聞き逃すはずなかった。



 ***  ***


「村の子供たちに”ひっさつわざ”を見せただとぉ!?」


「いたた!

 痛いってラン! ギブギブ!」


 ギリギリギリ……やらかしを白状したルクアをヘッドロックで締めあげる。

 どうやら、『必殺技を見せてよ!』と集まってきた子供たちに闘気技を見せてしまったらしい。


「ルクアスラッシュ!!」


 どご~ん!


 無駄に強力なルクアの闘気技のせいで俺の偽装に一瞬のほころびが生じ……。

 たまたま村を訪れていた王宮の賢者に感知されてしまったのである。


 わふ~ん……ぺっ!


 たまたま昼寝中でその現場にいなかったらしいポチコもあきれ顔だ。


「だってだって! 子供たちが可愛かったんだも~ん!」


 やれやれ……悪気がないだけに叱りにくいな。


「はぁ……こうなったら仕方がない、なんとか”空詠の塔”を攻略するぞ」

「俺もスキルを駆使して協力するが……いざという時は頼むぞポチコ!」


 ヴァオン!!


 俺が頭を撫でてやると元気よく返事をするポチコ。

 まあ周囲の塔くらいなら、俺のスキルとコイツがいればなんとかなるだろう。


「あ、あれ? わたしの活躍の場は?」


「うるさいぞ、剣の方が得意なくせに槍を使ってる承認欲求勇者!」


「がーん! だって槍の方がカッコいいんだもん!」


 涙目で抗議するルクア。

 そう……”聖槍の”というふたつ名の通り、ルクアは彼女の身長をはるかに超える大型の槍を得物としている。

 ザマゾン商会の通販で特別割引されていた「聖槍ゲイボルグ」だそうだが、彼女から聞いた値段からして多分偽物だろう。


 というか伝説の武器が通販で売ってるわけないのだ。


「ううっ……やっぱりちゃんとした武器を買った方がいいのかな?」

「あとアイテムも……」


 俺のツッコミに打ちのめされた様子のルクアが、ギルド長から押し付けられたパンフレットを開いている。

 勇者候補として採用されると、武具やアイテムが優先供給される特典がある。

 ……のだが、国やギルド指定業者から買う羽目になるので実は割高になるのだ。


「いらんいらん」

「まずは無事に生き残る事だけを考えておけ」


 俺はルクアの後に付いて塔に向かいながら、どうやってこの戦いを乗り切るか、考えを巡らせるのだった。

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