第3話 同期について軽く

「疲れたぁ....」


 気づくと2時間ほどたっており、社員もほとんどがお昼と言う事で社食を食べに行ったり、外食か社食に行っている。

 今この場に残っているのは俺と姉貴だけ。

 他には休憩室にいる奏さんと紡さんだけしかいない。

 そして俺の実績だがこの2時間で数百のアンチスレに対して削除依頼を出し、少なく見積もっても五十以上は削除出来ていると思う。これが馬鹿共親友になろう主人公と言われた俺の力だ。


「姉貴、アンチスレを結構削除出来たぞ」


「ありがと~」


「本当に異常な速度で作業してたわね....」


「やっぱ姉さんもそう思うよね....」


 姉貴だけに声をかけたはずなのに奏さんと紡さんも姉貴についてきた。

 どうせなら俺は少し気になることを奏さんに質問する。


「そういえば、この陽炎と雷陽って誰なんですか?」


「知らないの?!」


 陽炎と雷陽、それはアンチスレに時々出てくる名前だ。

 一応前に誰かから聞いたことがある気がするが最近色々ありすぎて記憶が混濁しているので思い出せない....

 だから奏さんに誰か聞こうとしたら奏さんよりも紡さんの方が早く驚いた声を上げてきた。


「まぁ、今更でしょ....陽炎っていうのはは狐火陽炎きつねびかげろう。中の人は....また今度で、優來ちゃんの同期よ」


「じゃあ雷陽も?」


閃電雷陽せんでんらいよう。彼女も優來ちゃんの同期よ」


「そうっすか...」


 潺紫水のアンチスレに名前が載っていたことからなんとなくでわかっていたが、陽炎っていう奴と雷陽という奴が俺の同期みたいだ。

 同期を知らないのは少し問題かもそれないが炎上で色々忙かったのだ。それに姉貴に何も教えてもらっていないのでそこは許してもらおう。


「というか、優花!あんたまさか優來に同期のこと教えていないとかないでしょうね!!」


「......」


 奏さんが鬼のような表情で姉貴に迫るが、姉貴は無言のまま視線を逸らすだけである。

 無言は肯定と捉える。そう言っているかの如く奏さんは怒りの表情を浮かべて姉貴の事を睨み続ける。

 姉貴も最初は奏さんの表情を気にしていないかのようにずっとそっぽを向いていたのだが、暫く奏さんに睨みつけられているとだんだんと汗を流しながら見ただけでもわかるように顔を真っ青になっていった。


「だ、だってぇ....私だ忙しかったんだもん!」


 ついに折れた姉貴は奏さんに縋るように本当に大人か?と思うような言い訳を始めだす。

 姉貴の言い訳としては姉貴も姉貴で忙しかったから俺に伝える暇がなかった....とのことだ。それなら...と俺は思ったのだが奏さんはそれを許さなかった。


「優花、あんたスマホでメッセージをする時間くらいはあったわよね?」


 感情も何も籠っていない無機質な声に無機質な視線。まるで無価値の壊れたおもちゃを見るような視線で奏さんは姉貴に詰め寄る。正直言って怖い。

 俺はその視線をもろに受けていないから姉貴がどう感じているのか、それはわからないがそれでも少し見えた奏さんの表情は本当に怖かった...


「あ、そういえば始零しれいちゃんとはいつ交代するの?」


「一応もう交代できるが今日の夜に交代予定だ」


 助けを求めるように姉貴が俺に話を振ってきた。いくら姉貴の自業自得だとはいえあれをずっと受けているのは俺の良心が痛むので姉貴の事を助けることにした。すべて姉貴の自業自得なのだが.....


「優來!あんたは優花の事を助けようとしない!」


「それは理不尽過ぎないか?!」


 姉貴の事を少し助けようと思ったら奏さんの標的が理不尽にも姉貴から俺の方へと向いてきた。本当に理不尽だと思う。

 まぁ、いつもの姉貴といつもの奏さんなので特に何も思う事は無い。俺に被害がこなければそれでいいのだ。


「あ、そういえばこの後会議するからゆーちゃんと奏は準備宜しくね~」


「は?」


 俺が奏さんに睨みつけられた動けなくなっているとき突然姉貴のそんな言葉が聞こえてきた。本当に突然だったため俺も奏さんも思わず固まってしまい3秒ほどのタイムラグの後に姉貴の方を見たのだがそこには既に姉貴が居なかった。

 めっちゃむかつく。俺が今こうなっているのは姉貴のせいなのに知らん顔で逃げていった姉貴を許すことはできない。


「奏さん....」


「任せて優來ちゃん。あの馬鹿は私がこってり絞っておくわ」


 奏さんに怒られそうな雰囲気が一転。俺と奏さんはどちらとも姉貴にイラついて一瞬のうちに結束をする。

 姉貴のおかげで奏さんに怒られるのは済んだのでここは素直にありがたいと感じるがそれはそれ、これはこれ。姉貴が逃げたこと自体は許す事が出来ないので奏さんからの報告が今からとても楽しみになってきた。

 そんなことは置いといて今は会議の準備が大事だろう。許せないのだが会議は確かに重要なためここは怒りを抑えて準備をするべきなのだ。

 だから俺は目を瞑る。そして意識を集中させて.....


《いけるか?始零しれい


《任せて頂戴。準備は万端よ》


 その瞬間『俺』の意識は闇に堕ちる。どこまでも暗く深い闇の沼に自力では這い上がれないほどに。

 そして....


「奏さん。早く準備をしちゃいましょう?」

 

 『私』の人格が、神楽坂始零かぐらざかしれいが神楽坂優來の代わりに目を覚ます....

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