VTuberの『俺』とプロゲーマーの『私』

潮風翡翠

第1話 『俺』は炎上中

「【百合に挟まるやつは死ね】、【初配信お疲れ様、死んでください】、【死んだ方が『Rebellion』のためになるので死にましょう!】こいつらはそんなことしか言えねぇのかよ!!」


 PCの明かり以外何も見えない真っ暗な空間。

 その中で俺は自分に向けられたアンチコメントを見てイライラしていた。

 

「姉貴の誘いでVTuberになったと思えばこのざまか」


 俺の姉貴はVTuberの会社である『Rebellion』の社長だ。

 姉貴に誘われた俺は言われるままVTuberへとなった。


「にしてもお前も大変だな『紫水』」


 別のウィンドウを開くと、水色を基調としたパーカーに包まれている男性のアバター、『潺紫水せせらぎしすい』の立ち絵がある。

 この『潺紫水せせらぎしすい』は俺のVTuberとしての姿である。

 姉貴からこのアバターを見せられた時は本当に焦った。

 なぜならば.....


「百合に挟まるやつは死ねとか言ってる奴いるけど、俺は男じゃなくて女なんだよ!!!!」


 首に付けているボイチェンをきると、俺の声は男のものから女性ものへと変化する。

 俺がボイチェンを付けている理由はしょうもなく、こうしていれば変に絡まれないからだ。

 俺は昔からこの中性的な容姿をいじられていたため、いつしか男装をしていた。

 勿論それ以外にも理由はあるが、それが大きな理由であり、いつしか男として過ごすのが当然のようになっていた。


「姉貴も俺の事絶対にいじってるだろ.....」


 姉貴は俺が男装女子であることを確実に知っているので、確実にいじり目的でこの男性アバターを用意したのだろう。

 だが、姉貴の『Rebellion』は女性のVTuberしかいない。

 そんなところに俺が入ってきたのだから、当然炎上になった。


「やっほー!お姉ちゃんが来たよ!!」


「姉貴、正座しろ」


「え?」


 現在の状況を『俺がちょっと炎上している』としかとらえていない姉貴は、能天気に俺の部屋の明かりを付けながら来た。

 この能天気さに少しイラっとした俺は姉貴に正座を促す。


「今、俺がどんな状況になっているか理解してるか?姉貴」


「え?ゆーちゃんが少し炎上してるんでしょ?」


「少しどころじゃないんだよ!!ほら、これを見てみろ!!」


 俺は姉貴に、イイッターというSNSサイトを見せた。

 そこには俺が炎上している姿がある。


「嘘!?こんなことになってるの!?」


「ちょっと待て、姉貴知らなかったのか?」


「うん....ちょっと今、イイッターを見るの禁止されてて....」


「姉貴ぃ.....」


 思わずそう言ってしまうほどに姉貴に対して呆れてしまう。

 どうやら姉貴はイイッターを見るのを禁止されていたため、俺の惨状を知っていなかったとのことだ。

 ってか会社の社長がSNSサイト禁止されるってどういうことだよ.....


「アハハハ....ゆーちゃん.......ごめんなさい!」


「スライディング土下座をこのクソ狭い部屋でするな!!」


 姉貴は俺のクソ狭い1人部屋で見事なまでのスライディング土下座を決める。

 勿論、姉貴なりに俺にぶつからないように加減はしているんだと思うがそんなことを気にする暇があるなら正直スライディング土下座をしないでほしい。

 と言うかするな。


「あぁ!ごめんねゆーちゃん」


「謝るなら最初からするな!!」


 そんなツッコミが俺の部屋に響き渡る......






 『Rebellion』


 それは俺の姉である、神楽坂優花かぐらざかゆかが立ち上げた小さい会社だった。

 最初は小さかったが姉貴や周りの人間の努力で今はVTuber業界の中で最大手の運営会社にまでなっている。


 そして俺、神楽坂優來かぐらざかゆらは姉貴に誘われてRebellionの5期生となった。

 本当に偶然なのだが、今までのRebellionには男性キャラがおらず、女性だけしかいなかった。

 姉貴に何か意図があるのかどうか一応聞いたが本当に偶然らしい。

 とまぁ、4期生まで女性だけ、更に俺以外の5期生2人も女性だったため男として活動することになった俺は、当然のように炎上した。


 




――――――――――――――――――――


【邪魔者】 潺紫水のアンチスレ 【VTuber】


561:名無しのRebellionファン

 マジで紫水は引退するか死んでほしい


562:名無しのRebellionファン

>>561

 ホンそれな


563:名無しのRebellionファン

>>561

 それな、ってかなんで紫水はデビューしたの?話聞いた限りだと同期の陽炎かげろう雷陽らいようは紫水の存在知らなかったんやろ?


564:名無しのRebellionファン

>>563

 どうやら社長直々のスカウトみたい、イイッターで公式が言ってる


565:名無しのRebellionファン

>>564

 マジで?


566:名無しのRebellionファン

>>565

 Rebellionの社長は自由人だし、スカウトしてもおかしくはない......


567:名無しのRebellionファン

>>565

 マジで、どうやら社長がスカウトしたってイイッターにマネージャーが投稿してる

 なおその社長本人は暫くイイッター使用禁止らしいww


568:名無しのRebellionファン

>>567

 社長何してるんだ......


569:名無しのRebellionファン

>>567

 炎上しててもしてなくても社長は安定の社長ww


570:名無しのRebellionファン

>>569

安定の社長www


571:名無しのRebellionファン

 と言うか、マジで何で公式が何もしないのか意味が分からん....


572:名無しのRebellionファン

>>571

 社長からの判断待ちじゃない?さすがにいくらマネージャーが有能だとしても社長の意見を無視するなんてことはないと思うし


573:名無しのRebellionファン

>>571

 色々考えてるんでしょ、どうやって紫水を引退させるかを


――――――――――――――――――――


 『Rebellion』という会社の影響力はすさまじく、俺が配信を終わって炎上するまでの間に、こんなアンチスレも匿名掲示板にできている。

 姉貴は現在SNS全般を禁止されているためこのスレの存在を知っていることは期待できないし、有能マネージャーさんも対応に追われているため知っているかどうか怪しい。

 


「姉貴、このスレを見てどう思う?」


「申し訳ございませんでしたぁ!!」


 姉貴にこのアンチスレを見せたところ予想どおり、知らなかったらしい。

 アンチスレを見るや否や、本気で俺に対して謝ってきた。

 SNSを禁止されている姉貴が悪いとはいえ、流石にここまでするのは気が引けてくる.....


「取り合えず俺は奏さんに連絡入れるから姉貴は対処方法考え解け!!」


「わ、わかりました!!」


 スマホを取り出して、思考をメモする姉貴を横目に俺は奏さんに電話をかける。


『優來ちゃーん....手伝ってぇ....』


「俺も奏さんの事手伝いたいんですけど....俺が対応したら確実に事がさらに大きくなりますよね!?」


『大丈夫、今も十分大きいからこれ以上大きくなっても何の問題もないよ!』


「何も大丈夫じゃねぇんだよ.....」


 奏さんからの第一声はそんなことだった。

 この人は久遠奏くどうかなで、姉貴とは中学からの付き合いで俺も何かとお世話になっている人だ。

 姉貴つながりで知り合ったのだが、その後話をしていると意気投合して今では休日に遊びに行くぐらいには仲がいい。


『今って、優來ちゃんの大学休みだよね?じゃあ何も問題ないよね?』


「奏さん一回落ち着きましょう?!いつもとキャラがかけ離れてますよ.....」


 仕事のストレスからだと思うが、奏さんのキャラが崩壊している。

 普段はクールなのだが、姉貴のせいで色々と仕事が溜まると過度のストレスのせいで奏さんは幼児退行してしまう。

 そしてその結果、俺に甘えるという流れが出来ている。


『私はいつも通り!!』


「じゃねぇよ!!一回落ち着きましょ、奏さん!!」


 この状態の奏さんを落ち着かせるには時間がいる。

 普通なら一日ほどかかるのだが、いまは色々と対応がある為急がないといけない。


「姉貴、車出せ、今から会社の方行く」


「ゆーちゃんって免許.....」


「持ってるよ!!俺20歳なんだからな?!」


 奏さんとの電話を一度きって、姉貴に車を出してもらおうとしたが、姉貴はどうやら俺が運転免許を持っていないと思っていたらしい。

 勿論、俺は20歳なので運転免許は持っている。

 何で姉貴は俺が運転免許を持ってないと思ったのか知りたいんだが.....


「あ、そうだったね!それじゃあ待ってて」


「早めにしてくれ、奏さんがヤバい」


「あ、そういう事かぁ....じゃあついてきて!!」


「準備するから先行ってろ」


 パソコンを閉じ、俺は近くに合ったパーカーを羽織った。

 姉貴は足だけは早いのでパーカーを羽織り終わった時には既に家から出ている。

 マジで姉貴の足、早すぎだろ.....

 そんなことを考えながら家の外に出ると、姉貴のフリードが出ていた。


「姉貴もう車出せたのか?」


「元々会社に向かうつもりだったしね、出してたんだよ」


「ああ、そういうことか」


 姉貴の言葉に俺は納得する。

 こんな短時間で車を出せたわけではなく、元々出していたから、早いだけだ。


「姉貴、まじで炎上どうにかしろよ?」


「奏に言ってよ.....私そういうのはあんまり得意じゃないし」


「社長なんだから、奏さんに頼りっぱなしじゃなくて姉貴がどうにかしろよ!!」


 奏さんに頼りっぱなしの姉貴に呆れながらも、俺は姉貴の車の運転席に乗る。

 勿論、ボイチェンのスイッチをオンにしている。


「奏が自ら名乗りくれてるから.....」


「それでも、姉貴が率先するようにしろ!!」


 助手席に座った姉貴はそんなことを零したが、俺はそれを否定する。

 奏さんは確かに率先して姉貴の仕事を受け持ってくれてるが、それではだめだ。

 このままだと今でも十分にダメ人間な姉貴がさらにダメ人間になってしまう。

 それを危惧している俺は、姉貴がこれ以上奏さんを頼らないようにしてほしい。


「ゆーちゃんがそういうなら.....」


「全く頼るなとは言わない、けれど今のままだと姉貴は確実にダメ人間になるんだ」


「何でそんなことが言えるの?」


「俺の勘だよ、それと今までの事から統計した」


 勿論勘以外にも色々理由はあるのだが急いでいる俺は姉貴には教えなかった。

 姉貴は不思議そうに俺を見ながらも、納得した様子になっている。


「じゃあ、行くぞ」


「わかった!!」


 一先ずの目標?である奏さんを落ち着かせるために俺は、車を発進する....

 

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