第21話 時に隠し通路

 チャールズ氏の邸宅から学校屋上へ。


 屋上に出ると、一組のカップルが居て、突如現れた僕とキリコを見て悲鳴をあげるほどびっくりしていた。


「行きましょうデュラン、お邪魔しました~」

「すみません、驚かせるつもりはなかったんです」


 屋上から校舎階段に入り、階段を降りていると、キリコは先程の光景に吹き出す。


「アハハ、にしても人がいるなんて思わなかったわね」

「ああ、でもさ、駅ビル広場の時も数人に見られていた様な気がする」

「マジ? その人達は通報とかしなかったの?」


 さ、さぁ? もしかしたらされている可能性も微レ存。


「細かいこと気にしててもしょうがないだろ? それよりも明日は身構えていた方がいいだろうな」

「信じられないわよね、あの気弱でいつもあたしの足元から離れなかったアイラートが王様になってるだなんて……正直な話、あの子のその後も心残りの一つよ」


 僕達は明日、出生地のヒューグラント王国に行き、アムリタを手に入れる。

 アムリタは僕達の無限ループを脱するためのキーアイテムのはずだから。


 家に帰り、前世の仲間のグルチャでそのことを伝えておいた。


 § § §


 翌日の放課後、ミサキ達を駅ビル広場からアンドロタイトに送り、僕はキリコと合流、一足先に学校の屋上からチャールズ氏の邸宅へと直行する。地下室から一階に上がり、準備万端の様子のチャールズ氏と落ち合った。


「お待たせしましたチャールズさん」

「こんな遅くに行って、間に合うものなのか?」

「仲間にスカラヘッドを従えた召喚士がいるんで」

「ほう、それは頼もしいな」

「仲間とは港で合流する手はずになってます、行きましょう」


 そう言うと、チャールズ氏はこれから山登りみたいな大きなリュックを抱えて僕らと一緒に港へと向かった。道中、彼を気遣った僕は代わりにリュックを持つことにした。


「すまんなデュラン」

「このくらいお世話になってるんだから当然です」

「さすがはデュランだ、その誠意溢れる姿勢が、何よりも尊いのだろう」


 僕はおだてられているのか? 隣に居るキリコが肩をすくめている。


「チャールズさんはすっかりデュランのファンね」

「キリコ、僕の名前は佐伯イッサだ」

「おっと、失礼」

「チャールズさんも、僕のことはイッサと呼んでくださいよ」

「考えておく」


 ヒューグラント王国でもまた一波乱ありそうな予感がする。

 港に向かい、ミサキ達を待つこと小一時間。

 水平線の向こうからタイオウを先頭にミサキとジーニーがやって来た。


「お待たせ兄さん」

「よく来たなタイオウ、早速王国に向かおう。時間が惜しい」


 チャールズ氏がやって来たタイオウ達に帽子を脱いで挨拶すると、僕らはその足で王国へと向かった。王国はこの港から陸続きに東の山脈を越えた先にあると言う。酔狂な旅人や、行商人ぐらいしか王国に行くことがないそうだ。


「冷えるな、大丈夫ですかチャールズさん?」

「このくらいどうってことはない」


 出来るのなら、王国にも転移マーカーがあればいいのだけど……たぶんあるよな? 決して望みのないわけじゃない希望に願いをたくしつつ、王国に着くころには夜になっていた。


「先ずは今日泊る宿を探さないかデュラン」

「チャールズさん、僕の名前はイッサです……ジーニー」


 王国の城門前に降りて、転移マーカーを探すためにジーニーを頼った。


「臙脂色の焔をあぶりだせばいいのですねぇ? オーケェイ」


 ジーニーは瞼を閉じ、意識を集中させている中、キリコがいぶかしがっていた。


「ジーニーにそんなことが出来るの?」

「たぶん、ジーニーに出来ないことはないと僕は思ってる」


 というと、ジーニーは目を閉じたまま笑う。


「買いかぶりすぎですねぇ、でも――見つけましたよ?」

「おお、ありがとう。どこにある?」

「王城の中の一室にありました」


 よりにもよって王城の中か……うーん、この。

 ミサキが無表情のまま、僕にどうするの? と聞いて来ると、キリコがジーニーに尋ねる。


「王城のどこ?」

「大体あそこですね」


 ジーニーは転移マーカーの場所を指で差すと、キリコは何事かを思案し始めた。


「たぶん、問題ないわ。あたしが幼い頃使っていた抜け道があるの」

「へぇ、じゃあその抜け道を使って、今日は解散しようか?」

「そうしましょう、ってことでチャールズさん、アムリタの捜索はまた明日ね」


 と言われると、チャールズ氏は再び帽子を脱いで。


「ああ、ありがとう、儂は適当な宿に滞在しつつ、それとなく情報収集するよ」

「じゃあまた明日」


 チャールズ氏にお別れを告げ、僕達はキリコのいう抜け道へと回った。王城の裏手に回り、六角形の広場の一角に設置された像の前に来ると、キリコは周囲をきょろきょろと警戒する。


「イッサ達も人が見てないか注意しててね」

「この像に何かあるのか?」

「ええ、実はこの像は動かせるの。こんな具合にね」


 と、キリコは像に隠されたスイッチを押すと、像をスライドさせた。今まで像があった場所に隠し通路が現れて、入ると、像はまた元の位置に戻る。それと同時に隠し通路に緑色の灯りがついた。


 僕らは先を行くキリコの背中に素直について行く。


「良かった、まだこの隠し通路は生きてたのね」

「これは、万が一の時のための避難通路かな?」

「じゃないかしら?」


 そして迂遠とした隠し通路を進むと、僕らは王城の塔の頂部にある一室に辿り着いた。


「この部屋でよかったのよねジーニー?」


 キリコが確認を取ると、ジーニーは小さく拍手した。


「お見事ですねぇ、私が感知した場所はここです」

「じゃあ、さっさと地球に戻りましょ」


 と、キリコがその部屋の扉を何の躊躇もなく開けると。


「っ、何者か!?」


 部屋の中には一人の令嬢然とした綺麗な銀髪姿の女の子がいた。

 まぁ、こんな立派な部屋だもの、王族の誰かが使っているよな。


「あたしの名前はライア、それで、こっちがデュラン。貴方こそどなた?」


 ば!? あれほどその名前は使うなって言っておいたのに、キリコは何を思ってかその美少女に僕らの正体を打ち明けてしまった。


「ライア様だと……? それにデュラン?」


「そうよ、現王様のアイラートの姉とはあたしのこと、出来ればアイラートに伝えておいてくれないかしら?」


「何を?」


「後日、またこのルートを使って挨拶しに行くから、その時はちゃんと歓待しなさいよって言っておいて貰える? デュラン、彼女のことは一旦保留にしておいてちゃちゃっと帰りましょう」


 部屋の中を見ると、臙脂色の焔は立ち見姿の前にあった。タイオウがそそくさと焔に触り、一足先に転移すると、次いでミサキ、ジーニーも転移する。その光景を直視していた銀髪の少女は唖然としているようだった。


「じゃあね、行きましょうデュラン」

「何を考えてるんだ君は」


 キリコを注意しつつ、焔に触れると。


「……嘘だろ」


 王城の部屋のマーカーの転移先は、以前一度だけ泊ったことのあるキリコの部屋だった。

 キリコは土足で自分の部屋に上がられたことに対し、すぐに靴を脱ぐよう促した。


「お気に入りのカーペットだったのに、泥が」


 キリコがしょげる中、タイオウは快活な笑みを零している。


「凄い偶然、この転移場所はひょっとしたら今後多用することになるかも」

「いや、それはどうかな?」

「どういう意味さ兄さん、これ以上好都合な転移場所もそうはないと」


 と、タイオウがあの人の存在を度外視していると、下から怒鳴り声が聞こえた。


「キリコ! いつの間に帰ってたんだ!?」


 キリコの奇天烈な父親が下から上がって来るプレッシャーを感じる。

 タイオウは状況をすぐに把握すると、クローゼットの中に身を隠した。


「兄さんも早く隠れて、なんだったら転移しなよ」

「ってことでキリコ、僕はアンドロタイトに戻るよ」


 そう言うと、キリコやミサキ達は笑っていたよ。

 だから僕はアンドロタイトに出戻りした。


「っまた、一体貴方達は何者なんだ」


 すると銀髪の少女が目の前に居て、僕の出現と同時に身体をびくっと跳ねらせる。


「色々と事情が、とりあえず僕はこの辺で失礼するよ」

「待て、唐突に私の部屋に殴り込んだ不肖な輩を看過すると思うか?」


 ですよねー。


「じゃあどうするんです? 言っておきますが、貴方じゃ僕を捕らえることは出来ない」


 強さを測る魔法を使うと、彼女のレベルは9999止まり。

 彼女は努力している方だとは思うけど、まだまだだな。


「馬鹿にするな! これでも私のレベルはカンストしている」

「僕のレベルは1万5千くらいだけど?」

「ふざけるな! レベルの上限は9999だ!」

「それはある賢者が唱えた誤情報なんだ、実際はレベルに上限はない」

「これ以上の愚弄は私への不敬とみなす!」


 というと、ネグリジェ姿の銀髪の少女はサーベルの刃を抜いてしまった。

 ので、僕は彼女を対処しようとお腹に拳を当てた。


「な!? くっ」

「貴方のような貴族を見ていると、やっぱり疲れるよ」


 お腹をうがたれ、その場に膝をついた彼女に催眠魔法を使い。

 その後、僕は隠し通路を使って広場に戻り、結果的には。


「おお、どうしたデュラン? 忘れ物か?」

「今日はここに泊ります」


 チャールズ氏の宿泊先に向かい、一緒に泊めて貰ったんだ。


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